早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十八年七月 第三十六巻一号 近詠 俳句

2023-10-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年七月 第三十六巻一号 近詠 俳句

    近影
夏偉他甍百萬海碧し

沙羅の花寺縁曲がりにやゝ遠く

端居すや満干の差が五六尺

もの想ふしづか金魚の水面あり

金龜蟲催眠術にかゝりけり

戰へりみな働けり蟻を見る

桐芽生え草凌せて廣葉かな

子が買うを母祖母が選り海酸漿

船人の南風くちづさみ䌫解く

松の秀を水に直下す夏の蝶

よしきりや水中を伐る樵夫あり

夏菊の咲いて蕾をのこさずに

青蔦の塀ふるはする挽材所

なにも居ぬと見れば底這う手長蝦

鮎焼くや山色懐ふ伊賀の国

蛭ノへ楓映りてこまやかに

     梅雨
道頓堀梅雨降りこゝら筏詰む

けふの部屋花を缺きたる梅雨昏し

亡き友の棟對岸に梅雨の夜の

梅雨の蝿撃つたれ戦車十數機

鳥の餌のこぼれが生えて梅雨の草

夜半の川うちて眞白し梅雨豪雨

病み居りていやな梅雨否降れ快く

机まわり片付かぬこと梅雨燈

梅雨日ごろ船に來る鳩增えしやう

梅雨霽れて水明夏の著るし

梅雨晴れの眞晝高空鷺わたる

一燈の漏るなく梅雨の川迅し

驛筋のいま橋上の梅雨往来

梅雨の葉に蟷螂の子が腰たかし

   枯葎
枯葎かたち古墳のその如し

野の音のこゝに發して枯葎

江を往いて壕とはなりぬ枯葎

かれ葎雲一枚に水平ら

  第十七回「楠公忌」修営
歩も晴れて松のみどりの暢ぶころぞ

楠欅蝶は秀をゆく山五月

  早春社天王寺三月句會
春の雲尾上はなれて白かつし

















































宋斤の俳句「早春」昭和十八年六月 第三十五巻六号 近詠 俳句

2023-10-31 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十八年六月 第三十五巻六号 近詠 俳句

   近詠

   アッツ等の忠烈惨禍
玉砕あゝ皇軍二千夏さむし
    ○ひけり
垣の薔薇から舟から剪つて貰ひけり

蝦蛄生きて皿にまじまじ視られけり

盤石の朝に松蝉ひゞきけり

頼りして憂き斷ち山女釣るといふ

こま蠅のきりきりと舞ふ原稿紙

蔵窓に届き玉巻く芭蕉かな

家々の防火水槽と稲何になに

校庭夏日楠氏銅像無くなりぬ

朴の花會遊の舟生のこの頃に

夜明けたる濁水迅し夏柳

月末の小拂ひに立つ洗ひ髪

室生寺の釣り一ツ葉に朝起きし

蛇の衣十重にも畳に筺の中

かたばみの花より小さきでんで蟲


   菌
菌山深からねども谺する

くさびらのほのと匂ふて御陵なる

そこばくの厨の菌の匂ひけり