「試合をしていて、あれは確かに一本だという手応えはありました。
だから、なんで有効なんだ、一本で試合はおわりだろう、と思っていました。
で"待て"がかかった時、コーチングボックスの斉藤先生から『信一、お前がポイントをとられているんだぞ』と言われ、掲示板を見たら確かにドゥイエ選手の方に有効がついている。
それは俺のポイントだろうと思いながら試合を続けた訳です。
後半になると、今度は時間がないと焦ってしまった。
相手を崩せないまま技をかけるから決まらない。
焦れば焦るほど空回りして、残り一分を切ったらもう、何がなんだか分からなくなった。
このままじゃ負けるという思いばかりですよ。
試合終了のブザーがなった時は、本当は俺の勝ちだったのに、なんて思えなかった。
ただただ、負けてしまったな、という心境でした。」
控室に戻った篠原の目からは大粒の涙が零れたという。
試合終了15分後、表彰式に篠原は現れた。
泣き腫らして真っ赤になった目元を見て、マスコミは「誤審に悔しくて泣いている。」と伝えたが、真実は違った。
「なぜ、気持ちを切り替えられなかったのだろうか。
一本じゃない、、、それなら、どうしてもう一回、投げてやろうという気持ちになれなかったのか。
自分自身に悔しくて涙が止まらなかった。
あそこで気持ちを切り替えていれば、結果は違っていたんじゃないかと思って。」
「柔道では『心技体が揃っていなければいけない』とよく言われますが、当時の私は"心"の部分が出来ていなかった。だから負けたんです。」
シドニーオリンピック柔道の決勝で起きた「世紀の大誤審」で痛感したのは自分自身の"甘さ"と言った篠原選手の強さを物語る一言が
「ただ自分が弱いから負けたんです。」
反省を自分に向ける事が強さへの第一歩。