ⅩⅩⅩⅩ「不安が不安 Angst vor der Angst 」を観る聴く
穏やかな住宅街のアパート、光、ケーキを作る主人公、未だ幼い少女、画面が揺らぐ、誰の視線が揺れているのだろうか、主人公か、監督か、映画自体か、鑑賞している私か、不安が通り過ぎる、部屋部屋の出入り口は開かれている、自由に行き来が、鏡が至る所に、映し出される主人公、母で在り、妻で在り、娘である少女には出来ないとケーキ作りをさせないままに、夫が戻り、当たり前の家族、生活、日常、何の問題も無い様にしか見えない、欲望なのだろうか、誰の、判らない、何が介在しているのだろうか、判らない、夫はくつろいでいる、書斎で数学の勉強をしている、この日は少女にケーキを作らせる、いつもと違う母、昨日も作ったばかりのケーキ、子供は卵を溶いていてカップを落としてしまう、叱らない母、病なのだろうか、同じアパートの夫の母と義理の妹が現れる、不可思議そうに見つめる、この視線たち、それぞれの視線たち、義理の母の、義理の妹の、不満、嫉妬、また、主人公も彼らを観ている、病院に出かける主人公、窓から見つめる義理の妹、視線たち、窓ガラスの影、上からの俯瞰で通りを歩く主人公の姿が、こんどは下から、この覗く義理の妹の様子を捕らえるカメラ、が、このカメラは誰の視点、そして、不気味な一人の男の視線、この男は何もの、近所の人、過去の人、判らないままに、医師の判断、健康だと、が、薬を出してくれる、少女の幼稚園、迎えに、二人の後を見つめ、付ける男、あの通り佇んでいた男、少女の不審、あの人誰と、ハッキリ語らない母、主人公のアップ、輝く目、白い肌、綺麗な髪、それでいて何を見ているのだろうか、判明しない、曖昧な視線、さて、薬が無くなって近所の薬局に、薬局の医師に相談、簡単には出せない薬、だが、どこか主人公に惹かれているのだろうか、誘う部屋、奥の部屋、薬局の店員の娘、客の夫人、二人を見詰める、窓から伺う義理の妹、立ち止まって観ている男、なんとも不気味な視線たち、男たちは主人公を求めているのだろうか、主人公もまた己の美貌に酔いしれているのだろうか、衣装、部屋の中の色彩、素晴らしいです、結局、薬局の医師と関係は、判らない、そうさ、立ち止まっている男との関係は、夫は何も出来ない、何も理解しない、義理の妹の夫、プールで出会う男、運動が健康と関係が、一人泳ぎ続ける主人公、見つめる男、この男が義理の妹の夫なのだが、プールのシーンでは判明していない、一人ヘッドホーンで音楽を聴き部屋で横になっている主人公、玄関でのノックも聞こえない、義理の母らがやってくる、狂気としか理解しない彼ら、薬局の窓から見つめる医師、通りの主人公、義理の妹の視線、相変わらずの現実、それでいて、義理の妹の夫が尋ねる、花束まで持って、義理の妹の嫉妬、この義理の弟はやはり主人公に惹かれているのだろうか、鏡に乱反射する者たち、どこに実態が、揺れる画面同様に、揺らいでいる、実態はどこに、曖昧に、ドラッグに、嵌まり、酒に嵌まり、何かが無いと不安で、この酒浸りで音楽に、薬局の男に誘われて飲まされて、以来、これに安堵を求めて、これもまた曖昧で、根拠は何も無い、立ち止まって観ていた男だろうか、自殺、窓から覗く主人公の視線、通りを棺が運ばれていく、その後を何事も無かったごとくによその人々が通り過ぎる通り、映画がここに在る、映画に出会うとはこのこと、だが、この棺はその死した男の棺だろうか、あの揺れる画面は、主人公ばかりでは無い、皆が同様の揺らぎの中に、暫く揺らぎが消える後半部分、が、しかし、結局ラストにはまた揺らぎの画面で終わっていく、映画自体の揺らぎとして、監督の視線の揺らめきとして、アップ、表情、癒やされる、抱擁も、癒やされる関係も、無い、どこまでも、不安の中に、メロドラマの果てに、俯瞰の通りを歩き去る主人公の姿が焼き付いて、離れない、その姿と、見つめる視線と、共にあるのだ、主人公もまた己で己を観ていないか、あの姿は己だ、私だ、義理の妹だ、男だ、薬局の男だ、私だ、当てなく、どこに、歩き去る、立ってみている、映し出されている、揺れている、誰が、私が、私たちが、
ⅩⅩⅩⅩⅠ「江戸川乱歩猟奇館・屋根裏の散歩者」を観る聴く
屋根裏、板が一枚外されたか、外の光が露わに、そこに男が、ここは素晴らしいと、隠れ家、覗きの場所、犯罪をしでかす間、全てを抱えて在る場所、自由、可能性、窓から見える通り、木造長屋の前の通りに車で遣ってきて降り立つ夫人、洋装の夫人、日傘を差して、屋敷の一室に、ドア、ノック、部屋の中にはピエロが、ベッドから転がって、奥様に仕えるのだ、奥様の求めに応じて、脱がし、なめ回す、その様子を屋根裏の穴から覗く主人公、その目、悶えながらも見上げて、この目に心奪われる婦人、ピエロは拾って貰って感謝感激、理解できない喜び、一人感動して婦人に抱きついているのだが、その彼方を見つめる婦人の目、この目と目、さて、屋敷の他の部屋では、女芸術家は、裸の肉体に色を塗っている、前衛芸術なのだ、また宗教家も、彼のラッパと共にタイトル、そして、井戸の水をくみ、廊下を掃除する娘、甲斐甲斐しく働くばかりの娘、屋敷の使用人なのだ、夫人と車、運転手、彼の視線、レストラン、夫と夫人、夫人の父の書生だった夫、成金娘と成り上がり者、蛙の料理、フランス料理、海外にも出かけているらしい夫、ビジネスか、政治か、国の中心にあるらしい夫、しかし、夫人はこの夫に全く興味が無い、夫は一途に身勝手に抱くばかり、夫人は故に、ピエロと遊ぶのだ、屋敷の朝、宗教家、主人公、女芸術家、祈りの生活を語る宗教家、町中で募金集め、ピエロも参加する、主人公と芸術家は取り合わない、宗教家はそれでいて使用人の娘に懺悔を誘い、主人の遣ったことを真似て手を触れる、いやらしさ、天井から覗く主人公、芸術家の部屋の肉体は、本物か、死体か、作り物か、女芸術家はレズビアンか、果たして、その本性は判らないままに、主人公はピエロに金を指しだして、己もピエロの役に、娼館で娼婦を抱いて、化粧して、ひたすら鏡の己の姿を見つめる主人公に、抱くのか抱かないのかと娼婦、中の遊びを思い出したかと、中とは、刑務所の中か、ならば、主人公は何もの、犯罪者、アナーキスト、単なる殺し屋、抱き留める主人公、だが、本気とも思えない、川原の枯れススキ、歌、泣けてきて、いかんとも出来ない娼婦、薬売り、歌、通りを歩く、ついていく赤ん坊を抱えた女たち、夫人はまた衣装を変えて車で現れて、傘を差して部屋に、今度はピエロが居ない、あくまで椅子に座って一人悶えるばかり、天井の目を見つめながら、帰りの車、運転手は、応接の椅子には仕掛けがあるのだと、いつもぬくもりを感じませんかと、椅子の中に入り込んで、夫人を感じていたのだ、ここにもまた得体の知れない、エロスが、椅子に座り感じる夫人、そこに夫が戻って、誘っていると勘違い、妻を求める夫の愚かしさ、冷たい顔の夫人を理解しない夫、夫人がまた通りに現れた、傘を差して、いつも色違いの傘と衣装、今度をピエロを抱いて、天井を見つめながら、足で首をねじり殺して仕舞うのだ、河に浮かんだピエロの死体、新聞記事、運転手は、私は奥様の見方ですと、警察が嗅ぎつけていると、夫故に未だ現れないが、近くまで迫っていると、脅しか、夫人に近寄り手を出すのだ、嫌らしい、夫人は我慢できなくなった、肉体に触れずに居れなくなった、椅子でいられなくなった運転手を、どこか冷たい視線で見つめる、花瓶を落としてしまう運転手、手を踏みつける婦人、血を流す運転手、血まみれの花瓶の部分を手にする夫人、主人公が屋敷に呼ばれる、運転手の運転する車で、語らう主人公と夫人、あなたは私と同じだと、何も語らずに、理解する二人、主人公の頭に、宗教家の殺しのシーンか過ぎる、笑み、殺人が閃く、男の目、女の目、何を放つ、さて、運転手は、いつものごとく椅子となった彼と座った夫人の関係、ささやきながら、悶えながら、果てる、芝居か、夫人は立ち上がる、椅子を切り開きガスを注ぎ火を放つ、死する運転手、やっと椅子になれたわねと夫人の笑み、またしても殺人、これまでも、どのくらい始末してきたか、彼女の真の欲望はどこに、主人公は屋敷に戻って、薬の算段、天井裏、娘を誘うスケベ親父の宗教家、深夜のいびき、口を開けて寝る宗教家、毒を盛る主人公、見事に死する、自殺と判定されているようだが、しかし、主人公の殺しとは、何、目的は、芸術家に、主人公は裸に青い線を描かせて、化け物か、青い血の流れか、今一人お願いしたいのだと、斯くて夫人も、夫人は今までも夫にヒ素を盛り続けて、僅かずつ、遂に始末したところ、晴れて、芸術家の元に、描かれた二人、この二人は芸術家を弄ぶのだ、裸にして、夫人の足で首捻り、始末するのだ、見事に、斯くて、二人は屋根裏の世界に、自由の間に見つめ合い、抱き合っているのか、いや、見ているとしか、交わっているか、にらみつけ続ける二人、セックスか、殺しか、張り合っている、終わることの無い二人の間、戦い、そして、地震、全てが終わる、廃墟の中、生き残るのは甲斐甲斐しく働いて居た娘、井戸から水をくみ上げる、水に混じった赤い血と共に、どこまでも赤い血が汲まれる、白い廃墟の中の赤い日の丸のごとき桶の水、此こそが日本だ、近代日本だ、男と女の目と目は、ロマンどころか、革命か、破壊か、戦争か、狂気、この狂気と共に、今もって、その外には居ない私たち、