食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ウィーン料理の始まり(1)-近世のハプスブルク家の食の革命(2)

2021-08-10 17:15:14 | 第四章 近世の食の革命
ウィーン料理の始まり(1)-近世のハプスブルク家の食の革命(2)
今回から2回にわたって、有名なウィーン料理について、その起源を探って行きます。

ウィーン料理はハプスブルグ家が宮廷を築くことで発展しました。その特徴は、前回お話したように、いろいろな国の料理が取り入れられていることです。

ウィーン料理が影響を受けたとされている国は、イタリア、ドイツ、ギリシア(ビザンツ帝国)、チェコ、ハンガリー、オスマン帝国、フランスなどがあります。このうち、イタリア、ドイツ、ギリシア(ビザンツ帝国)からは早い時期からの影響が見られますが、チェコ、ハンガリー、オスマン帝国、フランスについては、近世の中頃以降から影響を受けるようになります。

今回は、近世の早い時期から食べられている料理を中心に見て行きますが、やはりイタリアなどからの持ち込まれた料理が元になっているようです。

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・ウィンナーシュニッツェル(ウィーン風カツレツ)


Anna JurtによるPixabayからの画像

「ウィンナーシュニッツェル(Wiener Schnitzel)」は、ウィーンを代表する料理で、いわゆるカツレツのことだ。少し厚めの仔牛肉をしっかりたたいて薄く引き延ばし、表面に小麦粉・卵・パン粉を順番につけて、浸るくらいのラードでこんがりときつね色に焼き揚げ、最後に溶かしバターを塗る。レモンをしぼって食べるが、肉はとても柔らかく、レモンとの相性も抜群である。

このウィンナーシュニッツェルという料理名は19世紀に登場したことが分かっているが、料理自体はそれより以前から作られていたと考えられている。一説では、14~15世紀に北イタリアから伝わったとされる。北イタリアのミラノには豚肉で作った「ミラノ風カツレツ」があり、これを元にウィンナーシュニッツェルが作られるようになったのではないかということだ。

また、ビザンツ帝国やスペインにもウィンナーシュニッツェルに似た料理が古くからあることから、このうちのいずれから伝わったという説もある。

バックヘンデル(ウィーン風フライドチキン)


juergen 4711 による Pixabayからの画像

「バックヘンデル(Viennese Backhendl)」とはウィーン風のフライドチキンのことだ。

調理法は次の通りだ。

1年ほど飼育した鶏肉を4等分して表面に塩と香辛料をすりこむ。さらに、小麦粉・卵を塗って薄めにパン粉をつけ、カリカリになるまで油で揚げる。昔のレシピでは、胃袋や肝臓などの内臓もパン粉をつけて揚げていたが、現代では食べなくなった。

バックヘンデルという料理名は1817年に初めて登場したが、同じような調理法が17世紀の終わりの料理本に記載されていることから、少なくとも17世紀中には考案されていた料理だったと考えられている。19世紀になって、ウィーンの宮廷では簡素な料理が好まれるようになってから、バックヘンデルの人気が急上昇したと言われている。

牛肉スープ

ハプスブルクの宮廷では、牛肉と野菜を煮込んで作ったスープを食べる習慣が16世紀のフェルディナント1世(在位:1526~1564年)からずっと続いていた。特に、レオポルト1世(在位:1657~1705年)は牛肉スープが大好きで、食事の間は途切れることが無くスープが供されていたという。それ以降の皇帝もみんな牛肉スープが好きで、マリア・テレジア(在位:1740~1780年)もいつも美味しそうに牛肉スープを食べていたと伝えられている。

牛肉スープに入れられる具材も様々なものが考案された。ここで、現代のウィーン料理でよく食べられている2つのスープ料理を紹介しよう。

一つ目は「フリターテンズッペ(Frittatensuppe)」と言う料理だ。


フリターテンズッペ(Alyson Hurtによるflickrからの画像)

これは、細切りしたクレープ(フリターテン)を牛肉スープに入れた料理のことだ。17世紀の終わりに出版された料理本にこのレシピが記載されている。なお、「フリターテン」という言葉は、イタリア語の「Frittata(パンケーキ)」が語源と言われている。

フリターテンズッペは、オーストリアでは最も人気のあるスープ料理で、日本での味噌汁のようなものと言える。現代のウィーン料理では、スープはチキンスープや野菜スープなど牛肉以外でも良いとされる。

二つ目は「グリースノッケルズッペ (Grießnockerlsuppe)」だ。マカロニコムギ(グリース)で作った団子(ノッケル)が入った牛肉のスープ(ズッペ)と言う意味だ。


グリースノッケルズッペ

まず、溶かしたバターにマカロニコムギを入れ、混ぜながら少しずつ卵を加えてこねる。そして、スプーンですくって塩水でゆがくことで団子ができる。これを牛肉スープに入れて出来上がりだ。

同じような団子入りの牛肉スープには、牛の肝臓の団子を入れた「レバークネーデルズッペ(Leberknödelsuppe)」があり、こちらもウィーンのレストランでは定番の料理となっている。

このようなスープの具材が多く考案されたのが17世紀から18世紀のことで、上記以外に、通常の肉の団子やベーコンの団子、肺の団子などが当時の料理本に記載されている。また、シンプルなものとしては蒸したオオムギがあり、先述のレオポルト1世も好んで食べていたらしい。


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