食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ワインの歴史(2)ワイン醸造の始まりとワイン文化の拡大

2020-06-06 11:40:57 | 第二章 古代文明の食の革命
ワインの歴史(2)ワイン醸造の始まりとワイン文化の拡大
最初のワインは野生のブドウから作られたと考えられている。一説によると、それは紀元前8000年頃のことで、ヨーロッパブドウが栽培化されたアララト山近くの現在のジョージア(グルジア)の一地域おいてだと言われる。これを受けてジョージアは、ワイン発祥の国という文言を自国のワイン売り込みに使用している。

また、紀元前5400年頃のチグリス・ユーフラテス川上流の高原遺跡から、ワインが入れられていた壺が見つかっている。

最初期のワインは、ブドウを丸ごと土器製の壺の中に入れてしばらく発酵させてからフタをして熟成させるというものだった。このため、現代のワインのようにサラサラしたものではなく、かなり粘りがあるものだったと考えられる。ここで言う発酵とは、ブドウに付着している酵母菌がブドウに含まれる糖をエタノールと二酸化炭素に変換する反応のことだ。

史料上でワインを確認できるのが、紀元前4000年頃のメソポタミア・シュメール文明においてのことである。ただし、メソポタミアの南部ではブドウは育たないため、他の地域から運んできたと考えられ、王侯貴族だけが飲める貴重なお酒だったのだろう。

紀元前2000年頃には、灌漑農業の行き詰まり等の理由によってメソポタミアの勢力が衰えたため、ワイン文化の中心も西方の東地中海に移っていく。

その拠点となったエジプトでは、メソポタミアからワインの醸造法が伝わり、紀元前3000年までにはワインが作られ、飲まれ始めた。当時の王族・貴族はこぞってブドウ園を経営しワインの醸造を行ったことから、古代エジプト人はかなりのワイン好きだったと思われる。ただし、ワインを飲めたのは王侯貴族だけだった。ちなみに、ツタンカーメン王の副葬品の壺からもワインが見つかっている。

実は、このエジプトでワインは一段の進化を遂げる。それが、原料としてブドウを丸ごと使用するのではなく、足でつぶしてしぼった果汁を原料にしたことだ。種や皮を除いたことでワインの雑味が激減してとても美味しくなった。なお、時代が進むと、足でしぼり切れなかったブドウを布の中に入れてねじることで、できるだけ多くの果汁を得るようになった。

しぼった果汁は壺(アンフォラ)に詰められ、しばらく放置されて発酵させられる。発酵が終了したワインは、場合によってはその後いったん取り出され、蜂蜜や香辛料で味が調整されたり、布でこしたりしてから再度アンフォラに詰められた。アンフォラは貯蔵だけでなく、そのままの状態で輸送にも使用された。また、ワインはアンフォラ中で熟成した。


エジプトの北東にあるウガリットもワインの生産地として有名だった。またウガリットは、東地中海(エーゲ海)の島々との貿易でも重要な拠点となっていた。これらの島々では紀元前2000年頃までにはワインの製法が伝わり、重要な輸出品になっていたと考えられる。クレタ 島では、紀元前2000年から1700年頃のワイン醸造所の跡が見つかっている。

気候と土壌がブドウ栽培に適していたギリシアでは、ポリスの勢力が拡大するにつれてワインの生産量も著しく増えた。その結果、普通の市民もワインを楽しめるようになった。ギリシアは陶器の生産も盛んで、写真のような芸術品と呼べる酒器類もたくさん作られた。古代ギリシア人はシュンポシオンでこのように美しい酒器にワインを注ぎ、歓談を楽しんでいたのだろう。


また、ワインは主要な輸出品としてギリシア人がたどり着けるあらゆる地域に運ばれた。そのような交易で重要な都市がマルセイユ(当時はマッサリアと呼ばれた)だ。ギリシア人は紀元前600年頃にこの地にたどり着き、この地を拠点としてヨーロッパ内陸部に交易のルートを開拓して行った。彼らは、マルセイユの西に河口を広げるローヌ川をさかのぼり、リヨンあたりでソーヌ川に乗り換え、さらにさかのぼってブルゴーニュにたどり着く。そこからは陸路で北西方向に進み、やがてセーヌ川に至った。セーヌ川を下ると海峡をはさんだ先はイギリスだ。こうしてドーバー海峡を渡り、イギリス南部まで交易の領域を広げた。このような交易がいかに盛んだったかは、ソーヌ川から陸路に切り替えるブルゴーニュ地方のシャロン・シュル・ソーヌで1950年代に見つかった大量のアンフォラの破片からもうかがえる。

このように、ギリシアはワイン文化の大衆化と地域拡大に大きな貢献をしたのである。


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