(画像お借りしました。)
「ハプスブルク家の際立った特色であるつんとした鼻と受け口はマリーにも受け継がれ…」
というのは、確かベルサイユのばらで読んだ文句だったと思います。
この血筋には、ずっと尖った鼻と受け口が受け継がれているのか?
身内で嫁がせ合ったりして、いわゆる血が濃いということがあるのかな…??
君主の公的肖像においては、
活き活きとした個性が描出されるというよりは、
統治者としての威厳や徳、功績を演出することが重要となります。
絵をみた者が「(一般人とは違う、)選ばれた御仁である」と
思うようにしたい、という訳です。
しかしながら、もし際立った特徴を統治者の一族がもっているのだとすれば、
それはどのように肖像画に作用してくるのでしょうか。
という訳で、現存している肖像画、彫刻等から、
ハプスブルク家における「ツンとした鼻と受け口」を検証してみたいと思います。
※君主の表象に関しては、必ずしも実際の見た目=作品となるわけではないため、
注意が必要となることを重ねて申し添えておきます。
しょうがないなぁと思ってお付き合いいただければ、これ幸い
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まずは「ハプスブルク家飛翔の舞台を整えた神君」、
ルドルフ1世(1218-1291)。
ハプスブルク伯アルブレヒト4世の長男として生まれ、
神聖ローマ皇帝の君主にのぼりつめた人物です。
ドイツ中南部、シュパイアー大聖堂にあるルドルフ1世像。
顔部分のアップがこちら。
鼻はツンとしていますね。鷲鼻か鉤鼻といっても良いくらいです。
口は…どうでしょう。
しかし、聖堂で諸聖人と並んで像が設置されるのであれば、
そもそも個人的な面相はあまり問題にならないのかもしれません。
絵ではどうでしょうか。
受け口に描かれているような…?
実はこの絵自体のデータが不詳なもので、後世に描かれたという可能性も捨てきれません。
彫像も絵画もドイツ王に相応しく、立派な王冠をかぶった姿で表現されています。
続いては、
ルドルフ4世(1339-1365)。
オーストリア公アルプレヒト2世の長男で、神聖ローマ皇帝の娘と結婚します。
彼は26歳で夭逝していますが、「建設公」とも言われ、シュテファン大聖堂等を建立しました。
ハプスブルク家が神聖ローマ帝国内で特別な権威を持つという
選良意識を誕生させた人物といわれています。
ウィーン、シュテファン大聖堂蔵。
鼻は高そうですね。
口は何となくそうかな…?という感じです。
文献にあたっていたところ、このルドルフ4世の母君が
「ツンとした鼻と受け口」を家系に持ち込んだという記述も見受けられました。
ただ、ルドルフ4世には子供がいなかったので、
この説を取るとすると、後の面々はどこから繋がってくるのか?
ということになってしまい、うーん、どうでしょうか。。
ハプスブルク家最初の神聖ローマ皇帝となった
フリードリヒ三世(1415-1493)。
ちょうど横顔の肖像画が。
1500年頃のハンス・ブルクマイアー作。
(ウィーン美術史美術館蔵、1468年の下絵をもとに制作。)
この肖像画の形式は古代からの伝統的なものですが、顔はとても特徴的ですね。
「中世最後の騎士にして近代最初の皇帝」、
マクシミリアン1世(1459-1519)。
彼は「神聖ローマ帝国」の国名を「ドイツ国民の神聖ローマ帝国」と改称して、
実質的なハプスブルク家の王朝を打ち立て、また文化政策にも熱心でした。
アルブレヒト・デューラー《マクシミリアン1世の肖像》ウィーン美術史美術館、1519年。
イタリア・ルネサンスから学んだと思われる、斜め横向きで描かれた肖像画。
堂々とした威厳と写実的な個性を兼ね備えた表現は、
さすがは北方ルネサンスの巨匠、デューラーといったところ。
ベルンハルト・シュトリーゲル《皇帝マクシミリアン1世とその家族》ウィーン美術史美術館、1516年。
この作品中では、皇帝の家族はほぼ一定のタイプに従って描かれているのに対し、
マクシミリアンは横向きということもあり、かなり個性的に描かれていますね。
マクシミリアン1世に関しては、
公式肖像画においても自身の容貌を強調し、一種の「ハプスブルク印」を与えているかのようです。
上の集団肖像画でも、画面中央の皇太子には血脈を示すようにマクシミリアンの面影が反映されています。
さて、続いてはヨーロッパから新大陸まで、日の沈まぬ帝国を樹立した
カール5世(1500-1558)です。
スペイン、ハプスブルク皇帝、カルロス5世といったほうが通りが良いかもしれません。
彼はマクシミリアン1世の孫にあたります。
この時代はティツィーアーノやルーベンス等、
ルネサンス~バロックの巨匠たちが宮廷肖像画家として活躍した時代でもあり、
描かれた肖像画はまさに百花繚乱、目にも鮮やかです。
フランドルの画家、ベルナールト・ファン・オルレイの描いた
スペイン王位に就いたばかりのカール5世の肖像。
(ブール=ガン=ブレス、ブル美術館、1516年。)
皇帝の肖像画としての定型を踏まえながらも、初々しさがただよいます。
祖父であるマクシミリアンの面影が感じられますね。
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まとめるのに思いのほか時間がかかってしまいました
壮年期のカール5世~は、後の記事で、またアップいたします
人物の選定等は、下記に拠っています。
(参照:菊池良生『図解雑学ハプスブルク家』ナツメ社、2008年。)