<シリアよりイラクを優先する米国>
米国の真の意図は明確である。コバニ攻撃されても、米国は当初、何の援助もしなかった。8月 ISISがイラクのクルド軍を攻撃した時、米国は即座に行動した。ISISが6月にモスルを占領すると、イラクのクルド軍は石油地帯の中心都市キルクークを占領した。
一か月後の7月ISISはコバニの農村地帯に侵入を開始したが、10月まで米国は何もしなかった。
10月8日米国はシリアのISISに対する空爆を宣言し、15日には「内在的な決意」という作戦名が与えられた。抽象的な作戦名にふさわしく、この作戦は宣伝だけで現実味がなった。実質のある作戦は、トルコにやらせるつもりだった。
米国はトルコの戦車と地上軍をコバニを含むシリア北部に入れるよう、トルコに要求した。これはシリア北部がトルコ領となる危険があり、明白な侵略行為である。
この要求に対し、エルドアンとトルコ政府は、米国が飛行禁止区域を設定するなら、地上軍を出してもよいと返事した。
<シリア北部を切り取る計画>
コバニ問題を契機に、米国とトルコは2011年以来のシリア征服計画に少し変更を加え、とりあえず北部の国境地帯を切りとることにした。シリア北部の国境地帯に緩衝地帯を設定し、地上をトルコ軍が占領し、上空を米空軍が支配する計画である。これは人道的な目的の平和維持という名目で実行できる。
2014年10月2日、トルコの大議会はトルコ軍がシリアで作戦することを許可した。
しかし、トルコ政府は用心深く、米軍が飛行禁止区域の設定がない限り、地上軍を出そうとしなかった。それまでは、代理人のISISに仕事を任せることにした。
<トルコのISIS支援>
コバニのクルド軍が敗北し、コバニが陥落するよう、トルコはやれるかぎりのことをやった。
トルコの情報機関と治安機関との連携が悪く、トルコの秘密作戦が暴露されされてしまった。ヌスラなどの反政府軍に渡す武器・弾薬を運んでいた情報機関のトラックが、アダナで警察官に検挙され、トルコ国内で大きなスキャンダルになった。アダナの郊外のインジルリクにはNATOの空軍基地がある。ここにはシリア反政府勢力への支援基地もあるという。アダナは地中海に比較的近い。
<トルコはジャーナリストの墓場>
コバニを攻撃している重武装のISISに、トルコは大量の武器を配送した。このような報告が数多くなされている。ジャーナリストのセレナ・シムは命がけで、この事実をつかもうとした。彼女(Serena shim)はレバノン系アメリカ人で、ミシガン生まれである。イランのプレスTVと契約し、コバニを取材していた。国連食物機構の表示があるトラックの中にISIS戦闘員がおり、トルコからシリアに運び込まれている、と彼女は報道した。これに対し、トルコの情報機関は彼女がスパイ行為を行っていると非難し、彼女を脅迫した。勇敢なジャーナリストという評判だった彼女だが、「トルコはジャーナリストの墓場であるから」、不安になった。10月19日、コンクリート運搬車が彼女の車に衝突し、彼女は死亡した。
セレナ・シムと彼女の子供
トルコはISIS援助をごまかすため、国境を完全に管理することは不可能であると言い訳した。外国人志願兵がシリアやイラクに入り込むのを防止できない、というのである。ならば、コバニの場合どうか。コバニでは国境管理は厳重であり、さらに補強されほぼ完璧になった。このためコバニを助けようとするクルドの志願兵はコバニに入ることができなっかった。トルコがヌスラ戦線をはじめ、外国の支援を受ける反政府軍を自由にシリアに入れていることは広く知られている。クルドに対する対応が正反対であることは、トルコの意図を際立たせる。
国内の圧力と国際的な圧力に押され、トルコは11月1日やっと150名のペシュメルガの通過を許可した。
<慎重なトルコ>
トルコと米国は国境地帯に緩衝地帯を設定することをアサド政権に打診したが、アサド政権は明白な侵略行為だとしてこれを拒否した。10月15日シリア政府は、この提案に関して友好国と相談すると声明を出した。トルコに対する脅しである。
トルコは侵略的意図を持ちながらも、ロシア、イラン、中国、その他の中立諸国の反応を観察していた。ロシアとイランは、クルドまたはシリアの土地に軍隊を入れてはならないと、トルコに厳しく警告した。10月9日、ロシアのルカシェヴィッチ外務副大臣は緩衝地帯の設定に反対して述べた。「トルコも米国も、当時国の意思に反し緩衝地帯を設ける、いかなる権限もない」。同時に彼は米国の空爆はISISを住民の中に紛れ込ませる結果を招き、問題を複雑にした、と指摘した。
イランのアブドラヒヤン外務副大臣は、トルコの冒険主義に対し警告した。
トルコ軍戦車
<米国の真の目的>
コバニの住民と戦闘員は、米国の空爆は役に立たなかったと繰り返し述べている。コバニの政治・軍事指導者も同様な見方をしており、住民から選ばれた政治指導者たちは、空爆は失敗だったと述べている。
YPG(人民防衛隊)とYPJ(女性防衛隊)は、米国の空爆はISISに対して効果がない、と指摘している。
米国と有志連合がラッカを爆撃する前に、ISISは拠点から逃げ出した。空爆を受けたのは、ISISではなく、シリアの産業施設と市民の生活基盤だった。民間の住宅と小麦貯蔵庫の爆破は誤爆だったとしているが、ペンタゴン(米国防総省)の真の目的は、シリアの国力を破壊することである。
ISISはシリアの社会構成を破壊しており、米国の目的に沿っている。米国にはISISを攻撃する理由がなく、空爆の真の目的はシリアの国家機能を破壊し、国家を弱体化することである。米国はシリアのエネルギー施設と生産基盤を爆撃している。ISISがシリアの石油を輸出するのを止めるため、というのは嘘である。なぜならISISは石油を輸送車でトルコに運んでおり、パイプラインを使用していない。ISISの石油輸出の大部分はイラクの石油であり、パイプラインでトルコに送っている。しかし米国はイラクのエネルギーのインフラ(生産基盤)を破壊していない。一言付け加えると、ISISの石油輸出は泥棒集団のレベルをはるかに超え、国家規模である。EUのイラク大使ヒバスコヴァは一部のEU諸国がISISから石油を買っていると看とめている。
このようにペンタゴン(米統合参謀本部)のシリア政策は、イラクとに対する場合と異なっており、米国の本心を暴露している。
米国はイラク戦争で、巨額の国費と若い兵士の命を費やした。イラクには膨大な石油があり、米国にとってイラクの方がシリアより重要である。かといって地域の安定を左右する点でシリアは重要であり、米国のアサド政権転覆という目標に変化はない。
米国とトルコはクルド勢力を取り込むこが無理だとわかれば、これを無力化するつもりである。コバニ戦の開始にはトルコが関わっている。だから米国はコバニを援助しなかった。それに、もともとISISは米国の手先である。
<米国とトルコのクルド援助は表面的なとりつくろい>
厳しい批判と国際的な圧力にさらされたあげく、米国はコバニの守備軍に武器と薬の空輸を開始したが、この時にもISIS援助を忘れなかった。「誤って」と称して、ISIS部隊の近くに数個の荷を投下した。中身は米国制の手りゅう弾、RPG(ロケット推進榴弾)、弾薬であった。
米国同様トルコも、内外の圧力に屈し、11月1日ペシュメルガの通過を許可した。しかしペシュメルガはイラクの腐敗したクルド自治政府の軍隊であり、つまりトルコの同盟軍である。トルコにとって有害なYPG・YPJ・の兵士および志願兵はトルコの通過を拒否され、コバニに入れなかった。コバニの守備軍に対するトルコの敵対的な行為は広く知られており、トルコに住むクルド人は自国の政府を憎んでいる。
コバニ陥落の衝撃は国内のクルド人の反政府闘争に火をつけるかもしれない。自治を要求するPKK(クルディスタン労働者党)との和解が破たんすることを、トルコは恐れた。
(原文)
Mahdi Darius NAZEMROAYA
:The War in Rojava: The US and Turkish Roles in the Battle of Kobani