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海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

シリア 化学兵器問題の発端 2012年7月③

2017-10-25 07:04:49 | シリア内戦

シリアの最初の化学兵器危機について3回書いた。今回は時間軸に沿って要点をまとめ、前3回触れなかった点を補いたい。

 

7月21日ロイター通信がシリア軍から離反した将軍の言葉を報道した。

「シリア軍が化学兵器を移動させている。4人の軍最高幹部が殺されたことの報復として、政権は化学兵器を使用するつもりであり、保管場所から別の場所へ移動させている」。

シリア軍が化学兵器を移動させていることについて、米国も知っていた。米国はシリアの生物・化学兵器について以前から把握しており、マスタード・ガスなどの化学兵器が大量に存在することを確認していた。ロイター報道の数日前、米政府関係者がった。米国の情報部によれば、シリア政府は戦闘の激しい地域から化学兵器を移動させている。これは良くもあり、悪くもある。化学兵器を安全な場所へ移すことは、シリア政府が化学兵器の保全に責任を持っているということだ。同時にこれは彼らが支配力を失っていることを示している」。

米国の軍事・情報関係者はシリアの大量の生物・化学兵器について昨年から心配している。彼らが特に恐れているのは、長期間の内戦の果てに、シリアが生物・化学兵器の管理能力を失い、アルカイダ系のテロリストがそれを手に入れることだ。しかしアサド政権の中枢が爆弾テロで死亡すると、米国は別のことを心配するようになった。政権はかなり弱体化しており、生き残るための最後の手段として化学兵器を使うかもしれない。

シリア軍が化学兵器を移動させていることについて批判が集まり、シリアはこれに答える形で、7月23日外務省報道官が自国の立場を説明した。これが更なる反響を呼び起こし、シリア最初の化学兵器問題となった。

===《シリアの化学兵器は外国の侵略に向けられる》======

 Syria holds out threat of chemical weapons against 'exterior aggression'

      By Howard LaFranchi, Staff writer

           Christian Science Monitor 2012年7月23日

 シリアの化学兵器について国際社会の不安が高まっている。国内の反乱で追いつめられているシリアの政権は3月23日、国際社会の不安に答えた。外務省報道官が次のように述べた。

「心配するに及ばない。我が国は現在進行中の紛争において、自国民に対し化学兵器を使用することはない。しかしシリアに敵対する国外の勢力に対し警告する。国内問題に干渉しようとする外国の軍隊に対しては、化学兵器を使用するだろう」。

外国の軍事干渉に対して化学兵器を用いるという発言は悩ましい。どのような形での、またどの程度の規模の外国の干渉があれば化学兵器が行われるのか、わからない。例えば、先週末アラブ連盟が反政府軍に臨時政府の樹立を呼び掛けた。マクディシ報道官はこれを「あからさまな介入である」と非難した。シリア周辺のアラブ諸国は反政府軍と一体である。シリア政府は常々反政府軍を外国の手先と呼んでいる。反政府軍とこれを支援するアラブ諸国はシリアに軍事干渉していることにならないだろうか。

 

トルコとの緊張が高まっている時に、シリアは敵国に対し化学兵器を使用すると宣言した。先月(6月22日)シリアはトルコの戦闘機を撃ち落とした。最初シリアはその戦闘機が領空侵犯をしたと主張したが、後に誤射だったと謝罪した。このような事件の一か月後に、シリアは化学兵器で仮想敵国を脅した。単なる脅しと軽く受け止めることはできない。世界の主要国はシリア外務省報道官の発言を真剣に議論するだろう。特に米国とイスラエルはシリアの化学兵器問題にいかに対処すべきか考えるだろう。

23日の外務省の発表により、シリアは初めて化学兵器の保有を認めた。マクディシ報道官はシリアの化学兵器に関心が集まっていることに触れた。

「シリアの化学兵器が話題になるのは、2003年のイラクの場合と似ている。サダム・フセインが大量破壊兵器を保有しているという理由で、米国と追随する国はイラクに侵攻し、フセイン政権を打倒した。現在シリアの化学兵器が世界の関心を集めているのは、多量破壊兵器を口実にシリアに軍事介入するための準備であり、侵略を正当化するためである」。

マクディシ報道官は化学兵器問題がイスラム過激派に渡るのではないか、という不安に答えた。

「シリアの生物・化学兵器はシリア軍によって安全に保管されている」。

============(クリスチャン・サイエンス・モニター終了)

 

シリアの化学兵器を統括していた元将軍の貴重な証言がある。

 

=====《アサドは自国民に化学兵器を使うだろう》====

  Rebels forming unit to secure chemical weapons site

          Dayli Mail online  2012年7月20日

 

アドナン・シロ元将軍が「我々には化学兵器を扱う部隊がいる」と述べた。元将軍はシリア軍の高官だったが、離脱し自由シリア軍に参加した。シリアが保持する恐ろしい量の化学兵器の管理が危うくなった場合に備え、シロ元将軍は緊急手段を作成していた。彼は2008年までこの任務にあった。

彼の任地はダマスカスとラタキアであり、化学兵器の扱いについて、数千人の兵士を訓練していた。シリアの化学兵器は世界でも有数であり、主にサリン、マスタード、シアンである。

シロ元将軍は語った。

「兵士たちの訓練内容は化学兵器の保管方法、保管所を狙う者への見張り、廃棄の仕方である。また敵から生物・化学兵器攻撃された場合の治療についても訓練した。

シリアの化学兵器の保管所は主に2か所であり、ダマスカス東部の第417集積所とホムス周辺の第419集積所である。それぞれの基地に1500人の兵士と23人の将軍が配備されている」。

アサド政権の支配力が揺らぎ始め、化学兵器の安全について心配されるようようになった。この心配はシリア政府・国民および外国の政府に共通していた。

英国の情報部門の高官たちがデイリー・テレグラフに語った。

「アサド政権は現在の状態から立ち直るために、化学兵器の一部を使用するかもしれない」。

シロ元将軍はこの考えに同意した。数十年シリア軍に勤務した経験から、彼は次に様に考えている。

「私はアサド大統領と政権の中心的なメンバーにいつも接していたので、バシャール・アサドの性格をよく知っている。彼は自国民に化学兵器を使用するのをためらわないだろう。戦車から化学弾を発射し、ロケットやヘリコプターで化学攻撃をするだろう」。

シロ元将軍は引退していたが、今年(2012年)2月政府軍がホムスを攻撃した際に、自由シリア軍に参加した。自由シリア軍の指導部はトルコにあり、彼はその一員である。アサドの部隊が自国民に戦車砲を撃ちまくるのを見て、彼は「将来政府軍は化学兵器を使用するかもしれない」という不安が高まった。

ホムスの近くのラスタンで、政府軍のヘリコプターが殺虫剤をまいた、とシロ元将軍は確信している。ラスタンはハマとホムスの中間に位置し、自由シリア軍の重要な拠点がある。

将軍が言うように、今年(2,012年)の2月ー3月、ラスタンとホムスからレバノンに避難した人々は、脱毛、皮膚のかぶれ、筋の痛み、体調不良の症状を示した。彼らを治療したレバノンの医師は異常な症状を確認した。

 

 

シリアの治安維持能力が崩壊しており、化学兵器が武装グループの手に渡る危険が高まっている。特に過激イスラム主義グループがこれを手にするなら、脅威である。

反対派活動家ルアイ・マクダドが次のように述べた。

「我々はシリア軍からの離脱者の中から、化学兵器を取り扱うことのできる人間を選別し、化学部隊を創設した。この部隊が化学兵器施設を確保するだろう」。

 

シロ元将軍が言った。「化学兵器はシリアを守るためのものだったが、現在バシャール・アサドを守る役目をはたしている。

================(デイリー・メイル終了)

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