道々の枝折

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生野菜嫌い

2019年04月07日 | 食物・料理
酒呑みには野菜嫌いが多い。私も例に漏れず葉モノ、それも生野菜を最も苦手とする。それでいて煮炊きした野菜類は大好きなのだから、単なる野菜嫌いとも違う。

健康のために嫌々生野菜を食べている人たちや根っからの生野菜好きの読者には、当記事を聞き流していただきたい。化学・栄養学に無知な呑み助の戯言に過ぎない。

生野菜が酒とバッティングする理由は簡単、酒が野菜に含まれるミネラル(カルシウム・カリウム・マグネシウム・鉄など)を嫌うからである。野菜のミネラルが口内で酒に溶出し、酒に含まれる有機酸その他微量含有物と化合して、酒の味を不味くするらしい。含有物の比較的少ない蒸留酒なら、あまり問題はないだろうが、醸造酒にはこれが困る。

日本酒の酒づくりにおいて、古くからあれほど水にこだわってきたのは、ミネラル分が酒の味に決定的な影響を与えるからである。それを知りながら生野菜を摂り、清酒の味にこだわるのは、如何なものだろう。

醸造酒は慥かに生野菜を嫌う。お通しに生野菜を出す店があるが、あれは店には手間要らずで、現代の健康志向の客に享けるからである。 私はかつてある居酒屋チェーンで、生キャベツの葉を千切ったものを出されたとき、即座に断った。客はウサギではない。飲み屋の風上にも置けない無頓着さと手抜きに呆れたのである。
 
主料理の前に生野菜を食べれば、消化に手間どって食後の血糖値の急上昇を防ぐなどと、まことしやかに伝えられているが、気休めのレベルでしかないだろう。葉物は生では嵩張り、それでいて意外に食物繊維が少ないらしい。どんぶり何杯分かを食べないと、効果が出ないのではないか?
 
平成になって日本人に普及したサラダ食は、日本酒・ビール・ワインなど醸造酒類の天敵と言ってもよい。
欧米人の食生活で一般的だからといって、真似をするのは考えものだ。熱による野菜のビタミン破壊を教えた栄養学が、普及に拍車をかけているに違いない。
  
西洋の連中は、我々と食性の異なる肉食人種であって、基本的に食事自体の野菜摂取比率が低い。火を通した野菜を多食し海藻を食べる日本人は、生野菜を無理に食べなくても、ミネラルや食物繊維はカルシウムを除き充足している。他方、生食する葉菜の残留農薬の測定値は、生産者に証明義務がないから、野菜生食のリスクは消費者に知る術がない。
野菜には食物繊維とミネラル・ビタミンが豊富なのは間違い無いが、農薬を使って育てた野菜の大量生食は、効用よりも健康リスクが高いのではないか?テレビの健康番組には、科学的根拠の不確かなものが溢れ、視聴者の判断を狂わせるものが多過ぎる。
健康の為を思って、生野菜を食べながら酒を飲んでいる人たちを見ると、痛々しくて仕方がない。言われる健康効果は本当だろうか?

洋の東西を問わず酒の肴には、アミノ酸の豊富な食品が一番合うはず。せっかくの酒の味を犠牲にして、バリバリ山盛りの生野菜を食べても、火を通せば小鉢一杯分のお浸しの量でしかない。生野菜で摂ることができる食物繊維など、野菜の煮物と比べれば極く僅かな量だろう。
 
野菜サラダなどというものは、近代になって、西欧肉食人種が清浄野菜を生産できるようになり、これも近代に生まれた栄養学のビタミン・ミネラル摂取奨励策によって食卓にのぼるようになったシロモノ、決して西洋伝統の料理では無い。いかに肉食の白人でも、野菜を生で食べる食習慣は昔から無かった。
 
人類は類人猿の時代はいざ知らず、進化してヒトになったとき以来、火を通した野菜、それも根菜類を主に食べ続けてきた。葉菜類はアク(ミネラル)が強いからエグ味があり、薬用の目的のほか生で食べることはなかった。アクは植物が害虫から身を守るためのものであり、多くが葉に集積している。葉菜を生で食べるようになったのは、前世紀にアクの少ない品種が作出され、電気冷蔵庫や冷蔵輸送が普及して鮮度が維持できるようになって以来のことだ。何でも白人の真似をするのは考えものだと思う。
 
大航海時代のはじめ頃には、船乗り
に壊血病が蔓延していた。当時の船乗りたちには、新鮮な緑黄色野菜が絶対的に不足していた。原因がビタミンCの欠乏とわかり、日持ちのするレモンやライムが船に積載されるようになると、壊血病は船乗りたちから駆逐された。生野菜からでなくとも、ビタミンCは摂れるのだった。
 
日本では、アメリカとの戦争に負けて進駐軍が駐留するまで、人々は先祖代々野菜を生食しなかった。下肥を使う関係で、野菜に寄生虫が付いていたからである。
 初めて日本に進駐して野菜を生食した占領軍の将士に、寄生虫病が発生した。そこで占領軍司令部GHQは、日本の農家にアメリカ流の蔬菜栽培技術を教えた。そのときから日本の清浄野菜生産は始まり、食の欧風化に進んだ日本人も生野菜を食べる習慣に同化した。私たちの数万〜数十万年の食物史から見れば、生野菜食はほんのひと時の経験でしかない。
 
酒に適う野菜料理となると、煮る・焼く・炒める・揚げるなど・熱の調理を加えたものが理に叶っている。消化に良い上に、ミネラル(アク)を湯に溶出させたり、高温で不活性化させるので、酒の風味はいっこうに損なわれない。
 
特に天ぷらは、高温の油で野菜のアクを不活性化する優れた調理法で、山菜などエグ味の強い、湯ではアク抜きに手間のかかる食材に適する。山菜の天ぷらが、ビールなどの肴に秀れていることは、誰もが認めるところだろう。
 
漬物は、野菜のアク(ミネラル)が塩の主成分と化合して不活性化するので、生であっても酒の障害にはならず、これは恰好の肴である。
 
今日常識になった栄養学の知識が、生野菜サラダ食の繁衍を手助けしているとしたなら、われわれ左党にとっては、まことに有難迷惑な、困った時代であると言わねばならない。ただし、生野菜のサラダにドレッシングをかけるのは秀逸なアイデアで、野菜のミネラル分が植物油で覆はれ醸造酢の酸と化合し、清酒・ビール・ワインの風味を損なわない。
それでも清酒は、本質的に油脂を嫌う飲み物なので、野菜サラダとはどうしても仲良しにはなれない。伝来のお浸し、酢の物、和え物など、火を通した野菜を摂るしかない。それで健康には些かの心配もない。今や生野菜のアメリカ人の食生活の方に黄信号が点っている。

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