展覧会名:プラド美術館展 - ベラスケスと絵画の栄光
惹句:黄金時代がよみがえる、プラド美術館から珠玉の絵画61点が上野へ
ベラスケス7点が一挙来日、これは事件です。
場所:国立西洋美術館
会期:2018.02.24-5.27 (その後 神戸で 6月~10月開催)
訪問日:4月27日
横山大観展の時と同様、午後の出張に合わせ、午前中を美術館タイムとした。
ずっと昔パリからピレネー山脈を越えてポルトガルへ行った時、ピレネーを越えるといきなり真っ赤な大地が広がった。そしてポルトガルへ降りた時、人の身体つきが全然パリと違い、「ピレネーの向こうはアフリカ」と言ったナポレオン等のイメージは理解できた。
でもそのスペインのハプスブルグ家が、16世紀にはオランダをはじめヨーロッパの多くの地を領土として、イギリスを除くヨーロッパの覇権を握っていた。16世紀末の無敵艦隊の敗北で栄光に影が差していたとはいえ、17世紀も覇権を維持しておりそれが王家の中でベラスケスが活躍した時代にあたる。
プラド美術館はほぼハプスブルグ家の蒐集品の保管庫であり、そこからベラスケスの時代の作品、すなわち惹句のように「黄金時代」の作品が今回の展示となっている。ベラスケスが7点、その他にルーベンス、スルバラン、エル・グレコなどの画家の展示がなされている。
それらは基本的に王家が宮廷内に飾って価値があるというもの、すなわち権威付け(権力を示すもの、知識を示すもの)、特権者たちの隠れた楽しみ、リラックスのためのものなどである。
たぶんそういった考えのもとに、やや頭でっかちではと思うが、下記のように展示を区分分けしており、それに沿って記載していく。またその中で、ベラスケスの絵を示していく。
1.芸術 8点(ベラスケス 1点)
2、知識 5点(ベラスケス 1点)
3.神話 7点(ベラスケス 1点)
4.宮廷 14点(ベラスケス 2点)
5.風景 9点 (ベラスケス 1点)
6.静物 9点
7.宗教 11点 (ベラスケス 1点)
* 芸術理論 9点 これは絵画芸術書である。 1.と対応して展示されたと思う。
1.芸術
画家は王家の権威付けの役割を果たす中で、自分たち自身の権威付けを試みようとした。それは美術書であるとか、神が絵を描いているすなわち「画家としての神」の状況を描くことで、画家自身の地位を高めようとしたという作品が並べられている。
その中でのベラスケスの1点 「ファン・マルチネス・モンタニェースの肖像」。 これは、主君フェリペ4世の彫像を製作する人の下絵風景ですが、ただ写すのではなく思索しながら作品を構築していると、芸術家を権威付けしているとされている。
そんなことはさておき、全体の貫禄、愁いを含んだ思索顔、力強さと繊細さを持った手の描写は流石である。
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2.知識
ギリシア・ローマ時代からの、知識の大権威者を描くことが流行したとのこと、それもっ権威を持った人というのではなく、街中の親しみやすい喜怒哀楽を持った人として描かれている。展示品にはそのものずばりの、ルーベンスによる「泣くヘラクレイトス」がある。
王家としては、知識の権威を理解しつつ、社会を動かす実質の権威は俺たちだとおちょくりたい感じで使ったのかもしれない。
ここでもベラスケス「メニッポス」。ギリシャ時代の哲学者とのこと。
ギリシャだから、当時はこんな服装でなかったろう。それを描いた当時のスペインの街中の貧しい人のように描いている。横向き姿勢でこちらを向いている顔はかなり斬新だったと思われる。似た感じとして、ロダンのバルザック像をイメージした。くっきりした顔で覗く手がユニークで力強い。こんな絵が王家の煌びやかな肖像画に混ざって展示されているのを想像すると面白い。
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3.神話
この部分はちょっと面白い。その頃のスペインはカトリックが絶大な権威を持っていて、神話に関連して裸体画を描くことは、猥雑とされていたとのこと。それに対し、王族、貴族は秘密の部屋を作り展示していたようである。ビーナスなどなかなかエロスに富んだ絵が展示されている。100年後のゴヤのマハの絵も、同様の扱いになったはず。
そこでベラスケス。「軍神 マルス」
甲冑を脱いだ裸の戦士がもの思いにふけっている。身体はたるんでいて、とてもバリバリの戦士とは思えない。これは王族が狩に行く際の休憩所用に描いたもの。戦後の平和を意味するものとか解釈されているようだが、単純に 「自分たちも衣装をはがしたらこんなもの」と共感したい絵ではないか。そして現在でも、その意味で共感する人がいるだろう。
しかし確かに 注文側がそのように指示したのか、またはベラスケスが気を利かせたのかがわからない。後者は外れたら首が飛んでしまうかもしれない。
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4.宮廷
宮廷は権威と宣伝の場であり、装飾画、および自分自身等を権威づける肖像画がここに並べられている。装飾画には歴史のシーン、宮廷での装飾品扱いの矮人も範疇に入る。
ここではベラスケスは2点、主君の肖像「狩猟服姿のフェリペ4世」と、矮人「バリェーカスの少年」
前者は質実剛健で外に対して戦い、うちは国民のために質素にする有能な王として見てほしいとする、いわば選挙のポスターに近い。この人は髭がトレードマークとのこと。それをしっかり描き、眼も強くこちらを見ている。この絵は胴体に書き直しの後が残っている。胴体右の線や、右足の線。姿勢を良くするための書き直しだろうが、主人の最も重要な絵を、描きなおしを見分けることができるようなものとするか疑問。なにかあったのだろうかと思ってしまう。荒れ模様の空、茶が多い大地(実際にそうだが) この辺りもどういう狙いがあったのか・・・
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矮人の絵。モデルは身体の問題だけでなく、知的障害ももっていたとのこと。
いわゆる肖像画の決まりきった表情でなく、人間の情感に満ち溢れた表情をしている。ベラスケスは、こういった矮人を描くことで、人間性まで描く技術を蓄積していったといわれるが、本当にそう思う。
なお、ハプスブルグ家は近親婚によって障碍者が多数出たことが有名であり、もしかすると矮人を描くと言いながら、王家の誰かのイメージを載せたのかもしれない。
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5.風景
スペイン人の画家はあまり風景画を残さなかった。しかし貴族からの需要はあり、多量に風景画を輸入したとのこと。
ここでのベラスケスは、「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」 前述の近親婚による遺伝的障害で、王位につかず早逝した。この絵の背景の風景描写の素晴らしさから、ベラスケスが、風景描写に非常に興味を持っていたものとして、ここに分類されている。
前述のフェリペ4世の絵に比べると、地面は似ているが遠景の山や空は非常によく書き込まれている。でもそれはダビンチのモナ・リザで、背景のみを見るようなもの。
やはり子供の愛らしさや仕草のかわいらしさを見るべきだろう。遺伝的疾患を持って生まれた子を、素敵に書かせて権威を持たせようとする親心を想像すると、痛ましい。
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6.静物
17世紀初頭にスペインの静物画が確立したとされる。果物や野菜、花、仮の獲物などが超自然的な光の中で厳粛さをもって並べられ、浮き上がるような感じで描かれている。葡萄の半透明の輝きが、以前から特に好きである。
ここにベラスケスの絵はないので、省略。
7.宗教
16世紀に、キリスト教でプロテスタントの活動が始まった。スペインはそれに対しカトリック側として対抗する重要な役割を果たした。17世紀もカトリックを擁護する拠点として存在し、プロテスタントの偶像排斥とは逆に、絵画や彫刻でわかりやすく聖書の言葉や聖人の行為を伝え信仰を盛り上げていこうと考えた。
その際、聖書の登場人物を市井の人のように描きつつ、明暗のコントラストでドラマチックに威厳を表現する様式が採られた。
ここでのベラスケスの絵は、「東方三博士の礼拝」。これは彼が宮廷につかえる前の20歳の頃の絵。登場人物のキリストは自分の娘、マリアは自分の妻、跪く人は自分自身といったように、周辺の人を具体的な家族、知人で固めているとのこと。自分の家で行っている宗教劇のようなものである。
前景にスポットライトを前述のように当てドラマチックにし、それぞれの人物に聖書の中の人が乗り移ったかのような雰囲気を作っている。
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8.芸術理論
17世紀という時代に、絵画というジャンルで描き方、考え方に関する書籍が出版されているということはすごいと思った。またその印刷技術にも驚いた。
今回はベラスケスの絵のみを並べたが、同世代のスルバランやムリーリョ等の絵も素晴らしいし、何より彼等の見本としてフランドル地方からもたらされたルーベンスの作品は多いに見どころがあった。
そしてこれらの作品から、どのように100年後のゴヤへとつながっていくのかとても興味があり、プラド美術館には一度行ってみたいと思った。