訪問日:9月17日
豊田会場は、本当は1日とってクリムト展とともにトリエンナーレを見るつもりだったが、いつまでも取れそうにないので、取れた半日でトリエンナーレを見ることにした。
メインは豊田市美術館だが、四間道会場と同様に小さな展示が街の中に分散している。そしてボランティアたちが地域興しとして一生懸命で好感が持てる。そして地域を考えた作品にしようと、作者側も考えている。
これまでと同様に、印象に残ったもの数点について記載する。
1.豊田市美術館 およびその近く
(1)高嶺格 作 「反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで」
これは美術館の隣の、廃校となった旧豊田東高等学校のプールに展示されている作品。
プールの底のコンクリートを大きく切り取り、ほぼ直角に立てている。最初見たとき、映画「2001年宇宙の旅」のモノリスを思い浮かべた。
プールの底で虐げられていたコンクリートの塊が、いま立ち上がっている。その威容に対し、人間はあまりにもひ弱である。表側はつるっとしているが、裏はプール下の玉石を巻き込んでごつごつしている。
とても人間に対して、優しそうじゃないな・・・・
<2019年のモノリス>
近づくな
ひ弱き人よ
大地より
我 屹立し
宇宙と対話す
近づくな
ひ弱き人よ
大地より
我 屹立し
宇宙と対話す
(2)タリン・サイモン作 「隠されているものと見慣れぬものによるアメリカの目録」
人の生命や社会に危険な影響をあたえるもので、ほとんど見ることはないものをパネル展示で並べている。
原子力発電所のチェレンコフ光、致死性の免疫不全ウィルス、人の生体冷凍用の器具(確か)、重犯罪者用の運動のための檻・・・・・ パネルは非常に美しい。 しかし、平穏な生活は、実は危機にあふれているのを感じさせる。
この作者はほかに、各種の国家間の条約締結に対してありえない(地域的、季節的にありえない組み合わせの花で飾るという女性らしいアイデアの作品も展示している。
(3) スタジオ・ドリフト 作 「Shylight」
暗い部屋で、ランプが点滅し上下する。
星々の会合のイメージなのか。降りてくるときの襞の急激な開放は、深海のダイオウイカが襲ってくるようにも見える。
<星が降る>
星が降り
身が焼かれても
またどこか
粒子集いて
星を眺める
星が降り
身が焼かれても
またどこか
粒子集いて
星を眺める
(4) レニエール・レイバ・ノボ作 「革命は抽象である」
例の「表現の不自由展」のトラブルへの抗議で、展示物のうちパネル展示を見せないように包んだ。しかし大型のインスタレーションはそのまま展示。
たぶんパネルで、変わりゆくキューバと歴史的暴力などを理解させようとしたのだろうが・・・・・
これが パネル展示。本来の展示で主張したいことは隠されてしまった。
<メッセージで隠されたメッセージ>
慌ただしく
包み込まれた
メッセージより
包みの文字が
大事なのかな?
慌ただしく
包み込まれた
メッセージより
包みの文字が
大事なのかな?
そのためこの上からの大きな手の意味がぼやけ、カワイイ記念撮影の場になっている。
2.豊田市駅周辺
(1)小田原のどか作 「↓ (1946-1948)」
この作者は日本の近代から現在への彫刻の在り方を考察されているかたで、展示中に著述物もあり読ませてもらったが、むしろ批評家として扱ったほうがいいのではと思う。
その人の長崎の爆心地にかかわる展示。広島の丹下健三が統一的に設計し、すっきりした公園に対して、長崎の爆心地公園と平和公園に分裂している状況や無秩序ともみられる平和公園内のたくさんの彫刻群の経緯を探り、1946~1948年に建てられていた矢印にたどり着く。
長崎爆心地には、すぐには慰霊碑などの設置が認められなくて、爆心地を示す矢印が1946~1948年の間建てられていたとのこと。慰霊の対象になるとともに、米軍人の記念撮影の場所となっていたようである。 展示品のネオンの矢印と記念写真拡大図を、私が重ねました。
<ここは長崎 爆心地>
あの日に
空から落ちた
矢印は
人を地面に
ピン止めにする
あの日に
空から落ちた
矢印は
人を地面に
ピン止めにする
これが合成の元。
(2)ホー・ツーニェン作 「旅館アポリア」
この展示が、他の展示群から離れ行きにくいが、ぜひ行ってみるべきだ。
喜楽亭という元有名料理旅館を用いて、数面の画面が設置されている。そこでシンガポールの作家が特攻隊、戦中の京都学派の思想家たち、そして宣伝部隊として南洋に派遣された映画監督の小津安二郎や漫画家の横山隆一といった文化人たちの映像を組み合わせて、大東亜戦争を語ろうとしている。なお特攻隊は出陣直前にこの旅館を利用していたとのこと。
画像の内容、時には部屋がガタガタとなる音響に引き込まれる。
残念だが、この展示は撮影禁止なので公開されているものを紹介するが、アジアの人がこれだけ日本を深堀しようとしているのかと認識できた。
これは、喜楽亭の庭。
この地域もなかなか面白く、芸術ってなんだろう、表現すべきものは何だろうという欲求を実感させてくれる。