場所:御園座
第50回記念 吉例顔見世 昼の部
内容:狐と笛吹き
二つ蝶々廓日記
[主な出演者]片岡仁左衛門、中村梅玉、片岡秀太郎、中村雀右衛門、中村鴈治郎、中村錦之助、
片岡孝太郎、中村獅童
私は、ちゃんとした舞台で歌舞伎をこれまで一度も見たことがない。大学の頃、何かの行事で一般のホールで歌舞伎の見得をアラカルトで見て、不思議なものを見たという感じだったこと、そしてテレビでチラ見した程度である。
しかしそれなりに年を取ったので、一度ちゃんと見てみようと夫婦でいい席を取って出かけた。そしてある意味とても贅沢な時間を過ごした。また行ってもいいとおもった。
以下に観劇した内容を述べる。
1.狐と笛吹き(きつねとふえふき)
今昔物語の中の怪異の話で、平安時代の貴族の話として北条司が昭和27年に初上演した新作。歌舞伎のイメージとは異なる普通の劇。見得なんてまったくないし、しゃべり方もほぼ普通。踊りや舞台装置は歌舞伎風。
最愛の妻を亡くした笛の楽人に、命を助けられた狐の娘がその妻そっくりの姿で現れ、楽人に尽くす話。そのうちに楽人を慕うようになり楽人も愛するようになるが、契ると死んでしまうということで、一緒に住むけれども清い関係だった。しかし楽人が笛で友人に敗れて絶望したとき、言い寄られ契ってしまい子狐は死んだ。その死骸を抱いて琵琶湖へと楽人は向かう。
楽人の中村梅玉がとてもいい声。ゆったりとした演技。それに対して相手役の子狐が化けた女形は(中村雀右衛門)は、踊りの女性らしさは素晴らしいけれども、やはり男の肩と作った女性の声。でもしばらくするとこんなものかなと気にならなくなった。
途中子供たちのわらべ歌も入り、昔の恋愛表現はこんなものだったよねというのんびりした気持ちになった。
幕間に幕の内弁当、ちょっと贅沢な弁当を買ったが、確かに座席に座って弁当を食べるのは、ちょっと楽しい。
2.二つ蝶々廓日記
こちらは、イメージ通りの歌舞伎。ただし部分的に現代風アレンジ。
3幕構成で、一幕(相撲場)が中村獅童扮する濡髪長五郎という相撲取りが、自分の友人(遊女の見受け)のために片八百長で負け、その理由を相手に話して怒りを買う話。二幕(難波裏)は、友人が駆け落ちに失敗して相手に捕らえられたところを助けて、その相手(武士)の卑怯な振る舞いに怒って殺してしまうという話。三幕(引窓)は長五郎が母のところに逃げていくが、その母は義理の息子を代官に持っており、代官は長五郎を捕らえようと張り切っている。ひと悶着あって、代官の目こぼしによって人相を変え、また逃げていくという話。
まず驚いたのが、相撲場に集まる人々の雰囲気。衣服は江戸時代だけど雰囲気は今風の若者の体の動き。とても面白い。
次は女形。一幕と二幕の女形は体つきまで、女性そのもの。現代人は男女の性差がなくなりつつあるのだなと思った。
主役の中村獅童は、背が高くて華がありかっこよく、主役扱いされるのは妥当と思う。しかし、ちょっとしゃべり方や見得のはりかたがシャープさに欠ける。次に述べる中村鴈治郎や片岡仁左衛門と並ぶと、スケールが大きいがやんちゃ坊主のように見える。
鴈治郎は、一幕で相手の相撲取りと茶屋の主人の2役を演じているが、切り替えがすごい。そして獅童と並んで見得を切るとき、身体の動きがシャープでなるほどと思う。
片岡仁左衛門は、三幕で代官として出てくる。この幕は母の悩みが話の中心だが、仁左衛門が舞台にさっそうと出てくると、さわやかになる。さすが人間国宝。なおここの母の女形は、うまいけれども1.の雀右衛門と同様に昔のタイプだった。
この舞台では、拍子木が幕の前の舞台端に出て叩くが、かっこいい。また三幕目からは舞台横の中段がぐるっと回って、謡う人と三味線を見せる。謡う人の必死さと三味線のクールな姿が楽しめる。
以上 なかなか面白かった。こういった舞台をのんびり見てみていいなあと思う年になったのかもしれない。