■新型コロナウイルス感染拡大で蘇る「派遣村前夜」の空気
なんだか「派遣村前夜」のような空気になってきた――。
そんな言葉を、生活相談や労働相談をしている支援者・活動家たちと交わすことが多くなった。このままでは、経済的困窮による自殺者、ホームレスが続出するのではないか――。多くの人が、「当たって欲しくない最悪の予想」としてそう口にする。
新型コロナウイルス感染拡大の混乱による失業や生活困窮が今、すごい勢いで広がっているからだ。
派遣村とは、2008年末から09年明けまで日比谷公園で開催された「年越し派遣村」のこと。08年9月に起きたリーマン・ショックによって全国に派遣切りの嵐が吹き荒れ、当時、15万人の非正規労働者が職を失うと言われていた。景気の悪化によって職を失うのは非正規だけではない。少なくない自営業者やフリーランス、正社員もその余波を受けて困窮に陥っていた。
とにかく今生かすべきは、派遣村の時の教訓である。
そんな思いからあの時の記憶を呼び起こすと、様々な光景が浮かぶ。
例えば派遣村には、派遣切りで職を失った以外の困窮者も多くやって来た。身体障害、知的障害、精神障害の人も少なくない数、訪れた。施設から逃げてきたという若い人もいた。これほど多様な人々が困り果てて、年末の公園の吹きっさらしのテントで年を越すためにやって来るのか……。派遣村実行委員会が想定もしていなかった人々も続々と訪れることに、多くの「気づき」があった。表には出なかったが、中にはもちろん女性もいた。
また、当時派遣切りされた中には愛知県などの工場で働く日系ブラジル人も多くいた。それだけではない。直接「派遣切り」と関係ない形でも、リーマン・ショックによる不況で全国で失業者や困窮者、ネットカフェ難民が激増した。
今回のような形で経済が打撃を受けると、もともと「条件があまり良くない人」「手持ちのカードが少ない人」の生活から一気に崩れてしまう。コロナと関係あるようには見えなくても、多くの人が連鎖的に困窮する。もっとも弱い立場にいる人に皺寄せがいくようになってしまっているのだ。
■:新型コロナウイルスと「非国民」バッシング、そして持つ者と持たざる者。
非常時には、格差がむき出しになる。持つ者と持たざる者の差が歴然と開く。そして、「国民一丸となって乗り切ろう」みたいな時に、様々な事情からその「一丸」に加われないとたちまち「非国民」扱いされ、糾弾される。
加藤厚労大臣は「みなさまが一丸となってこの新型コロナウイルスに立ち向かっていく」などと発言、「戦時中かよ」と批判されたが、みんなが一丸となるどころか、この騒動に便乗して分断や排除を煽るような動きが一部にあることが非常に気になる。
そうして今回の「休校」では、またひとつ、格差が剥き出しとなった。子どもの世話をしてくれる親が近くにいる人や、お金を払ってプロに頼める人がいる一方で、自分が働かなければたちまち生活が破綻する母子家庭がある。
そうしてコロナウイルスで仕事が流れても、貯金があって大して痛くない人もいれば、蓄えなどまったくない人もいる。また、完全歩合制の私のようなフリーランスもいれば、出勤しなければ1円にもならない非正規もいる。このような、貯蓄や「助けてくれる人間関係」などを総合して湯浅誠氏は「溜め」と言ったが、まさに「溜め」のあるなしが今、残酷なほどに分かれている。
そして今の悲劇は、日本で一番くらいに「溜め」がある人が政策を決めているということだ。
彼らはおそらく、子どもがいる世帯には専業主婦、もしくは家政婦やシッターがいると思っているのだろう。彼らの生きてきた世界ではそれが当たり前なのだから。そんな彼らは果たして、満員電車に乗ったことなどあるのだろうか? ライブやイベントは続々と中止され、学校は休校になりながらも満員電車が走り続けていることに疑問の声を上げる人は多い。が、満員電車と一生縁のない人が、現在の危機的状況の中、あらゆる決定権を握っている。
雨宮処凛
http://ameblo.jp/amamiyakarin/
あまみや・かりん:1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)、『自己責任社会の歩き方 生きるに値する世界のために』(七つ森書館)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。
出典「マガジン9:https://maga9.jp/」
本記事はマガジン9掲載記事『第513回:新型コロナウイルスと「非国民」バッシング、そして持つ者と持たざる者。の巻(雨宮処凛)』、第515回:『新型コロナウイルス感染拡大で蘇る「派遣村前夜」の空気。の巻』より抜粋・転載しました。
「十勝の活性化を考える会」会員 K
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