とうちゃんは、お葬式
とかの厳粛な雰囲気の
場所で、よく咳を
しちゃうんですよ。
参列者の頭に虫がとまった
とかの、ほんのちょっとした
出来事が、なぜかおかしくて
たまらなくなるもんで、咳を
してごまかすわけなんです。
不謹慎な笑いをごまかす為に
は咳込んで見せると良い。
なんてことを誰かに教わった
覚えはないので自力で開発した
方法なんですが、とうちゃんが
思いつくくらいの事は他の人も
思いつくだろうと考えはする
ものの、お葬式で咳込んでいる
人を見かけても
「虫がとまってたんですか?」
とか質問するわけにはいかないので
確証が持てないまま現在に至るという
ことになっているのです。
似たようなケースで、駅の階段を
踏み外して「おっとっと」ってなった
ときとか、誰にも気づかれてなくても
恥ずかしくなるじゃないですか、
そーするとホームの時計見上げて、
「もう七時かぁ……」
とかつぶやくってゆーのもあります。
これも日本中に同じことやってる人が
いるのかいないのかよくわかりません。
たぶんとうちゃんひとりではないと
思うんですけど、かと言って全人類に
共通する普遍的な習性というワケでも
ないのだろうとも思えます。
と、いうような前置きをしたうえでの
本題なんですが、前置き部分に共感
できなかった人には、何がナンだか
わからない話ですのであしからず。
さて先日のこと、
車で遠出した帰り道、
人家もまばらな
国道沿いで、閉店間際の
ラーメン屋さんに
飛び込みました。
カウンター内の厨房で
後片付けの作業をしてる
おばあさんに、
醤油ラーメンを
お願いします。
そろそろ出来上がるかな、
っていう頃、厨房内の
棚の影から唐突に
おじいさんが登場しました。
なにやら緊迫感を漂わせ
おばあさんに近づくと
耳元でこそこそないしょ話。
おじいさんの申し訳なさそうな
横顔を見て、調理中、おばあさん
が棚の裏に食材を取りに行ったり
してたのを思い出しました。
あの時おじいさんがナニか
やらかしたに違いありません。
しかし!
報告を受けたおばあさんは、
眉間にしわを寄せ、微かに、
しかし力強く細かく首を横に振り、
まるで、
「そんなの黙ってりゃあ
あのハゲおやじには
わからないよっ!」
とでも言わんばかりに
おじいさんを追っ払いました。
この場合とうちゃんは被害者ですが、
犯罪現場を目撃したような不安感と
小心者ゆえの理不尽な罪悪感に
襲われ、とっさに目をそらし、
壁の時計を見つめてしまいました。
「もう七時かあ」
しかし時間を気にするそぶりが、
調理をせかしているように見えては
ならないとまで犯人たちに気を使い、
視線をさまよわせていると、
棚の影に戻ろうとする犯人Aと
目が合いました。
と、その瞬間、こいつが不意に
天井を見上げて指を折り、
ひとりごとを言いながら
数を数え始めたんですよ。
こ、これは絶対何かごまかすときのヤツだ!
咳をしたり、時計を見たりするのと同じ種類
なんだけども極端にレベルの高いヤツですよ!
とうちゃんの心拍数が上がります。
ヤベえぞ、俺はいったい何を食わされるんだ!?
ドキドキして、もうじじいから目が離せなく
なっているとうちゃん。
「あー、そのマラソン……」
振り向いたじじいが唐突にばあさんに
語りかけます。調理中のばあさんが
「マラソン? ……?」
あれですよ、「そのマラソン」の「その」
の部分をとうちゃんに聞かせる事によって、
さっきのないしょ話はマラソンの話なん
ですよわっはっは っていうところへ
ミスリードしようとしてるんですよ。
そんな手に乗るもんか!
だいたい長年連れ添って来たであろう
犯人Bにしてからが、まったく意思の
通じてない様子。
「マラソン?初耳だわー」みたいな態度で
刻み葱ばらまいてるじゃありませんか!
往生際の悪いじじいが、
「いや、あれさ、マラソンに出たい人って
のは、事前に申し込むのかねェ?」
ばばあが
「マラソンなんか誰が出んの!? は?
ハイーおまちどうさまっ」
つって、毒ラーメンがどん。
かなり嫌でしたけどね、食いましたよ。
恐る恐る。
「なんで突然マラソンてゆったんだろー」
とか、いろいろ頭を働かせ、心配しながら
食べました。
あれから数日たちましたが、
まだとうちゃんの身体に変化は現れていません。
ラーメンのお味はどうでした?(笑)
薄ら甘ったるいスープの絶妙なハーモニーでした。
最近youtubeでもまともなワクチン情報が出てますね。
接種したことを後悔してる人の気苦労を想えば、
とうちゃんの苦しみなんてどうってことありませんよ。
>>「もう七時かぁ……」とかつぶやくって…(笑笑)
>>極端にレベルの高いヤツ…(爆)
>>「なんで突然マラソンてゆったんだろー」…(猛爆)
ありがとうございました
おもしろく読んでいただけたようで、ホッとしました。
こちらこそありがとうございました。