森に隠れる
秋の森に三日間過ごした。
黄金色の森に埋もれるように、その懐にひっそり隠れる心地。
森の森羅万象が、万華鏡のようにめぐる隠者の時間でした。
午後から晴天の予報だった。
ところが、どんより鈍い雲が空を覆い、一向に回復の兆しがみえない。
確かに、この日、高知沖遠く台風が通過するのは知っていた。
その影響が四国の脊梁、石鎚の峰にかかるることは予想される。
「まぁ、今日一日は諦めるか」、面河登山口から木の間越しの空を眺めながら黙々と登り続けた。
尾根に出て、北側斜面に回り込むと、様相が一変した。
ゴーッと空気を震わせる強風が、波のように襲いかかってくる。
風の圧力に押し戻され思わず後ずさった。
風下で態勢を立て直し、帽子をまぶかに被りフードで覆う。
尾根道は、樹がギィギィ音を立てて大きくしなり、
吹きすさぶ風に色づいた葉っぱが舞い上がり、雨のように降り注ぐ。
樹下の笹原は、時化た海原のように波打ち、波濤がめまぐるしく笹の海を駆け抜ける。
礫(つぶて)のような雨も混じり、横殴りに頬を打つ。
黄昏の薄闇の迫る頃、凍える身体を、やっと森の中の避難小屋、愛大小屋に休めた。
一晩中、小屋を揺する獰猛な風は吹き止まなかった。
小屋に置かれた薪ストーブの温もりが、ありがたい。
二日目の朝、まだ強風は吹き止まなかった。
Kさんと山頂で待ち合わせして、再び薄暮の道を下って小屋に戻る。
面河道全域にわたって登山道沿いの笹が綺麗に刈られている。
愛大山岳会の皆さん、ありがとうございます。
その夜は、気の合った友と静かに酒を酌み交わす。
揺れる炎を見ながら、語らう心地よい酩酊に、ほっこりゆらゆら。
風ひとつない夜だった。
震える夜空に、綺羅星が満天を覆い尽くす。
酔い覚ましの深更、天の川は東に大きく傾き、
流れ星が幾つも夜空をよぎった。
ほぉーっとため息ひとつ、凍てる夜気に白くたつ。
五時半に目覚めた。
窓明かりが淡い暁光の色に染まる。
戸外に出てみると、黒い雲が空を覆っている。
雲と山際の僅かな狭間に黎明の朱が走り、雲は大きくうねっている。
雲間に星が瞬き、うねる雲の頂きが薔薇色に染まり始める。
慌てて身支度して小屋裏の尾根へ這い上がる。
息を切らして登り詰めた叢林の先、さらに丈低い笹原を振り返る暁光に鞭打たれるように息切らし急ぐ。
三脚をセットして、その時を待ち受ける。
空を覆う雲のカーテンから、炎のような光が洩れる。
それは炎の光跡が流れるように雲のカーテンの際を走り始める。
そして谷の対岸の山肌、ブナの樹林に、ぽっと光が灯った。
赤々と緋色の光のラインが暗い山肌に浮かび上がる。
空のカーテン越しに射す黄金色の光芒。
それは伽藍の天井を飾る聖なる絵画のように、神々しい祝福の光に満たされていた。
森の主(ぬし)とも再会した。
幹回り6mを越える長老は、樹の左半分が朽ちようとしている。
枯れ木に生える月夜茸が、幾つもみられた。
しかし未だ樹の右半分は旺盛だ。
黄金色に色づいた葉叢を樹冠いっぱいに輝かせていた。
半身不随の森の賢者よ。
春の重い雪に壊滅的に痛めつけられても、まだ命を繋ぎ続けるシラサ峠の大ブナのように、
老体に鞭打ってなお、命の灯を繋いでくれ。
あなたは間違いなく、この森の王(おう)なのだから。
そう、別に良い写真を撮りたいのではない
静寂の中で心の会話をしたいだけ
僅かな一瞬の光を待ちわびながら神経を集中させる
どんなドラマが待っているんだろう・・・・
この目で身体でしっかり感じ取れたら
また一歩前に踏み出せそうな気がする
山は不思議
やっと、本来のフィールドである森に戻りました。
嵐の入山から波乱含みの森で過ごした三日間でした。
色彩が魔術のように変幻する秋の森は、そのまま何時までも居続けたい場所です。
森の生態系に、もっと時間をかけて撮影したかった。
発光茸の月夜茸の夜間撮影を含めてね。
それには、もっと食糧を荷揚げしなければなりません。
また今週、出直しです。
さて写真と言葉による風景表現の基本に戻ると宣言しました。
その成果は如何でしょうか?
まだまだ言葉が足りないボキャ貧を痛感しています。
もっと風景を細部まで観察する視点を大事にしてゆきたいと思っています。
二晩使用した薪は、また薪割りをして補充しておきました。
小屋を管理しいている愛大山岳会の皆さん、ありがとうございます。
画像見せて貰いました。
森は秋ですね!
しっとりとした森の景色
心 引かれました。
発光茸の森ですか~?
何時だったか テレビで特集されたの
見ました。
また 発光茸の夜間撮影
見せて下さいね。
えっ、誰だっけ?と迷いました(笑)
8月下旬に瓶ヶ森でお会いした岡山からホシガラスの撮影に来られた鳥ヤさんたちです。
HNに張られたブログのURLを拝見して納得。
相変わらず好い写真を撮っていますね。
渡りの途中の鳥たちの表情が見事です。
ムギマキは未だ出会っていない珍しい鳥。
あっNHKで放送された「光る森」は四国ローカルではなく全国放送でしたか。
ぐっと惹き込まれる好い番組でしたね。
ブナの枯れ木に発生する月夜茸は、岡山でも観られます。
emiさんも、是非挑戦してみてください。
私も好い被写体を見つけて頑張ってみます。
コメント、嬉しかったです。
夕方、西条から瓶ヶ森を見ると、雲ひとつ無い青空になっていましたが、
粘っていればシャッターチャンスがあったと思われます。
私は根性が無いので粘れません。
光るキノコ、ぐぐっと撮っていますね。私も来年は撮ってみたいと思っています。
ホタルとかヒカリ物に惹かれやすい性分なので今度お会いした時にいろいろと教えてください。
瓶ヶ森で数年ぶりに再会できて嬉しかったです。
そうなんですよね。
ピークばかりを構図の中心にすえた「山岳写真」という狭義のジャンルには自ずと限界があります。
二三歩さんがヒメホタルの撮影に傾倒するのも理解できます。
私も来季は、もっと森の生態系にウェイトをおいて撮影したいと思っています。
でも、これからの季節は、気象現象がメインになりそうです。
この冬も石鎚と瓶ヶ森へ通うつもり。
二三歩さんと別れてからは、やっぱりダメでした。
山の気象現象は、日の出日の入りの数時間が、ほとんど全てと云っても良いと思っています。
また山で会いましょう。
瓶ヶ森の画像は今日中にアップします。
まずは冬山シーズンの第一歩です。