やってもらいたいことは先の津波の検証作業である。
■ 宮古市、宮古市議会は平成津波の被災検証をしないのか?
人身的毀損や物的被害について意識ある市町村はその被害調査を行い総力を挙げて公式的、科学的検証を進めている。将来のためもあるが真実を知るためである。末尾の大槌町および陸前高田市の検証記事はその中でもそれぞれ特殊な事情を抱えた検証のあり方を示している。
検証の意義
このような未曾有の災害を経験して誰かが自治体に検証を促すことではなく、どこの自治体にとっても当たり前なことなのである。宮古市は国内有数の津波多発地帯の一つの中心地に属している。今次津波の詳細な、より詳細な検証なしにすませることは出来ないであろう。将来の宮古市民に残すべき真正の遺産であるばかりではない、将来の全国の列島沿岸の住民に対する教訓マニアルとするべきものでさえある。田老観光ホテルのような「寄付を募る」方法などと一緒には考えられない。
宮古市の「報告書」は検証と言えない
東日本大震災の写真記録や災害実績記録が散発的にある。例えば「東日本大震災における災害対応行動の検証報告書」(平成24年宮古市)というものがあるが、これは市の職員が如何に災害に対応したかの記録である。多岐にわたっているが、検証の仕方がいかにも役所仕事で、被害の状況、結果論的経過が総花的に書かれているだけのように見える。状況や経過を持ち寄ってまとめることを目的にして報告の体裁を整えたような…。多くの記録は必要なことではあるだろうがそのままでは意味のあるものとは思えない。アンケート集計や役所の対処を記録しても災害の検証とはいえない。
公式の検証報告書をもとめる
自家製のものではなく市民の承認(議会での承認)を受けた公式の報告書を求めるものであるが、公式が大事なのではなく、災害防止の実質を得るには個々の防止策の検討、個人や家族や地区の検証も大事である(日立浜町内会の避難訓練のような)が、同様に、自治体としての全体の検証が大事である。議会議員の議論を経て実証的承認を得られる必要がある。議員それぞれの考え方も大事であり、相互の、理事者とのやり取りで本当の意味の検証に近づく。最終的な内容に対する立法府の決議が必要なのではないかなと思う。
「失われた命」の立場で検証されなければ意味がない
宮古市は大震災によって500人以上の死亡者を出したに拘らず、そのことについては例えば上記の報告書でも触れようとしていない。単に「尊い命が失われた」と書き、その失われたいのちの場所の分布、その個別の死亡状況に触れようとしない。そのために、災害死亡者の個々の状況、その場所分布、死亡時状況など亡くなった人にきけないことは親族や隣人や関係者に、分からないことは推定と断って推定して、最後の1人まで500人の個々の事例に近づくことが一番大事なことである、将来の避難に生かされていく。宮古市はなぜかそこを避けている。全体の死亡者数を分かろうとしても市民にとってさえ容易でない。まして地区ごとの実態がない…
避難検証は地域、地区ごとに一歩踏み込んで
また避難行動の詳細など、地域、地区に一歩踏み込んだ状況が伝わってこない。地域の人は地域の詳細がほしいし、その詳細を語り語り合い記録する必要がある。地勢的に異なる他の地域の状況を市役所のトータル記録として合算・集計されて見せられても何ら参考にならないのである。田老の熊野神社への避難は鍬ヶ崎の熊野神社への避難とは特段の共通点はないのである。まず同一地区同一現象を共有する同一地域の詳細な調査、記録、検証が急がれる。
津波の実際の動き、破壊力の検証
海上で:津波の海面の動き、また津波海流の動き、湾口から湾奥への津波の襲撃、閉伊川、津軽石川の遡上の様子、その流れの早さ、水量など。陸上で:沿岸上陸の襲撃の状態・襲撃の力、市中への津波の進入の様子、進入後の市中の水の流れ、それらの破壊力の大きさ。退潮経過:陸上、河川、港湾の引き水の流れ。退潮時の破壊運動、瓦礫の流れ。…地区経験者の聞き取り書き留めが重要。貴重な見聞を吐露したい人も多い、実際に経験した人も…
科学的検証へ
以上に述べたような犠牲者の検証、避難行動の検証、津波そのもの検証はとうてい片手間に短時間に出来るものではない。その全体の方法、調査、記録はいずれにせよ第三者、または第三機関の協力なしには不可能である。第三者というのは単に専門的外部に委託するという意味ではない、被災者当事者、被災自治体当局から独立して──という意味である。単なる見聞の集積にとどめずその分析実証シミュレーションは科学者の協力も得てまとめることが大事である。
他の自治体の検証記事
このブログですでに陸前高田市議会と市長の記事を引用して津波検証の意義について述べておいた。ここにはその後の記事を三点収録する。
1)
意思決定を欠き多数犠牲に 大槌・検証委が最終報告
(2014/03/29 web 岩手日報)
大槌町東日本大震災検証委(委員長・越野修三岩手大地域防災研究センター教授、委員16人)は28日、検証の最終報告書を町に提出した。多数の町職員が旧役場周辺で犠牲になったのは、災害対策本部としてきちんと意思決定がされなかったことが要因と指摘。また「避難所」に対する町職員、住民らの認識の「あいまいさ」も、大勢の犠牲を出した原因と結論づけた。
旧役場前に設置された対策本部では各部課長の判断で各任務が命じられた。高台避難を訴える職員の声は届かず、多くの犠牲者を出した。越野委員長は「対策本部として意思決定がなされていれば違った結果になったはずだ」と強調した。
避難所ではない江岸寺で約20人が犠牲となった問題では、住民や寺関係者も避難所と思い込み、訓練でも避難所として使われていた点を指摘。さらに長期受け入れ先の「避難所」と一時的な逃げ場所の「避難場所」との区別が、町職員でさえできていなかった「あいまいさ」が一番の原因と指摘した。
【写真=越野修三委員長(中)から最終報告書を受ける碇川豊町長(右)】
2)
震災検証、夏前めどに修正案 陸前高田市長が説明
陸前高田市の戸羽太市長は22日、東日本大震災検証報告書案について、市議会から見直しを求める申し入れを受け、修正案を夏前をめどに市議会に提示する考えを示した。震災の反省点や教訓をまとめた概要版と資料編を想定している。
同日は伊藤明彦市議会議長と千田勝治副議長が市役所で、震災報告書案について掲載内容や構成の見直しを求める申し入れを戸羽市長に行った。
伊藤議長は「議会や市民の声を反映し、二度と犠牲者を出さないという観点で、地域防災計画に生かしてほしい」と求めた。
戸羽市長は「パブリックコメントや、議会からの指摘に基づき、もっと分かりやすい内容としたい」と述べた。
【写真(省略)=東日本大震災検証報告書案の見直しを求める申し入れを戸羽太市長に行う伊藤明彦議長(中)と千田勝治副議長(右)】
3)
宮城県名取市の検証委員会
(2014.5.1 日本経済新聞)