洋上風力、道内に商機 経済に追い風も…国内外にライバルひしめく
北海道沿岸での洋上風力発電の建設ラッシュを見込み、道内で産業集積や関連投資を推し進める動きが目立ち始めた。政府が開発を主導する複数海域を巡っては、近く法定協議会で漁業との共存や環境対策の検討が始まる。課題を乗り越えて大規模事業が実現すれば、道内経済には中長期の追い風となるが、ライバルは国内外にひしめいている。
JR東室蘭駅から車で20分ほど走ると、海洋土木大手の五洋建設(東京)の大きな工場が海べりに姿を現す。約1年前に稼働したばかりで、建屋内には大型の機械やクレーンが陣取る。同社は北九州のプロジェクトで風車の基礎建設工事を受注。発電施設向けの架台の一部を室蘭で造る。大下哲則・土木部門洋上風力事業本部長は「道内や東北の需要も取り込み、数百億円規模の受注を目指す」と語る。
洋上風力の本場・欧州では近年、域内供給網が充実してきた。日本は産業基盤が発展途上で、昨年には中国企業が日本の洋上風力の風車を初めて受注。エネルギー開発のグリーンパワーインベストメント(東京)の幸村展人副社長は「コスト低減と普及へ、国内供給網が必要だ」と指摘する。
室蘭では、大成建設(同)が浮体式洋上風力の研究拠点を構える。清水建設(同)は、基礎工事から風車設置までを洋上で行う「SEP船」の母港とした。同社幹部は「電炉で鋼製部材の再利用ができる日本製鋼所の存在も、室蘭を選んだ大きな理由」と明かす。
2020年1月には、産業集積を官民で目指す「室蘭洋上風力関連事業推進協議会」が発足。成田一人事務局長は「洋上風力は地域の活力を生む契機になる。電力会社などにも加わってもらえるよう活動し、道内の機運を盛り上げたい」と話す。当初7社・団体だった加盟数は、今年9月に100社・団体を超えた。
道内では、岩田地崎建設(札幌)もSEP船の保有に乗り出す。道外企業と共同で会社をつくり、25年9月に運用を始める計画だ。
ただ、道内の産業集積には、部材を管理する基地港湾の確保に加え、運転や保守を担える人材育成など必要な対応は多い。北九州市は風車の製造から建設、保守まで担う総合拠点整備に着手済みで、秋田県も供給網づくりで先行している。
洋上風力の具体化へ、国や道は11月以降、5カ所の有望区域で順次、法定協をつくり、利害関係者で議論する。「有望区域内にスケソウダラの産卵場があり、漁獲量に影響しかねない」(漁業団体)、「風車の低周波による健康被害が心配」(学者団体)といった懸念への対応が焦点となる。
他方、国の後押しを期待し、「30年ごろには相次いで商用運転が始まる」(業界関係者)との見方も根強い。洋上風力の本格化を前提に、札幌市や道、金融庁、道内地銀など計21機関は6月、共同事業体「チーム札幌・北海道」を設立。25年をめどに金融機能を強化し、今後10年間で最大40兆円程度の資金を道内に呼び込むことを目標に掲げる。
札幌市は、政府が海外投資家の日本進出を促すため創設する「資産運用特区」にも申請する方針だ。11月には、共同事業体として国際環境金融の先進地ルクセンブルクなどを視察する。秋元克広市長は26日の記者会見で「北海道にとってGX(グリーントランスフォーメーション)を進めること、スピードを上げることが重要だ」と強調。国際金融センターとしての成長を急ぐ大阪や福岡などとの差異化が今後の課題だ。再生可能エネルギーの一段の普及を見据え、道内と本州との海底送電線の増設計画も進む。東大大学院の石原孟教授(風工学)は「雇用拡大に加え、宿泊業や飲食業への波及効果も大きい。産業を支える仕組みをつくるべきだ」と提言する。(三坂郁夫、山岸章利)
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道内の洋上風力発電を巡る動き 国は道内での40年までの洋上風力の導入目標を最大1465万キロワットとする。12月には石狩湾新港で道内初の商用運転が始まる予定。国は今春、石狩市沖、岩宇・南後志地区沖、島牧沖、檜山沖、松前沖の5区域を「有望区域」に選んだ。法定協を経て「促進区域」になれば、公選事業者が最長30年発電できる。
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