<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(下)
針路/衰退歯止めへ模索続く
河北新報(2018.8.25)
水産業復興特区の導入から5年。この間、宮城県内の浜には3度、不穏な空気が流れた。
桃浦かき生産者合同会社(LLC、石巻市)は2014、16年、県漁協などが申し合わせたカキの解禁日前に出荷を始めた。17年には県漁協の共同販売向けに出荷された他地区産を「桃浦かき」の商品名で販売したことが明るみに出る。
<対立に嫌気も>
「裏切られた。漁業者の本分を忘れている」「県産カキの信用を失墜させるつもりか」。漁業者の「おきて」を破る行為に生産者らは不信感を強めた。
一方、浜に呼び込まれた対立の構図に嫌気が差す漁業者も増えていった。
県漁協は7月、2カ月後に控えた区画漁業権免許の更新の際、LLCが使う漁場への免許申請を回避することを確認。事実上、LLCの事業継続を容認した。
幹部の一人は「特区反対の姿勢は変わっていない」と語りつつ、「もう5年前のような衝突は繰り返したくない」とこぼした。
懸念された漁場利用を巡るトラブルは生じていない。管内に桃浦地区を抱える県漁協石巻地区支所の伏見真司運営委員長は、地元漁業者の代表としてLLCとの付き合い方を模索してきた。今は「それぞれに粛々とやるだけ」と静観する。
LLC側も地元漁民との連携を探り始めた。「石巻湾」「石巻地区」「石巻市東部」の漁協3支所が取り組む水産養殖管理協議会(ASC)の国際認証取得に参画。協調して品質アップに取り組む姿勢を鮮明にした。社員と地元支所青年部の交流も図る。
<43年に半減か>
震災後に加速した漁業の衰退は、三陸の海にも襲い掛かる。
宮城県内の漁業就業者は08年の約9700人から、震災を挟み6516人(13年)に激減。減少率は33%に達し、全国平均(18%)を大きく上回った。高齢化はさらに深刻で、13年は60歳以上の就業者が全体の47.8%を占めた。
県は17年、新規就業者の確保や育成策を講じなければ、県内の漁業就業者は43年に半減するという衝撃的な推計を公表した。
新たな一手を打たなければ、日本の水産業は衰退の一途をたどる。改革のうねりが顕在化した。
政府は6月、漁業の成長産業化を打ち出し、水産業改革の議論を本格化させた。企業参入を促すため、水産特区に倣う形で漁業権の優先順位廃止を明記。かつて特区に反対した全国漁業協同組合連合会(全漁連)は受け入れる方向で検討を進める。
村井嘉浩知事は今月6日の定例記者会見で「漁業権を民間に与えても当初問題視されたことは発現しなかった。日本の水産業に大きな一石を投じた」と意義を強調した。
水産特区の成否は。あるいは功罪は。先駆けとなった桃浦の浜は今も模索を続ける。
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