どんこの空(そら)に 。

きっと何かが足りない~それを探す日記~

ソルティーライムの溜息。

2010-04-29 | Sandstorm


霧雨の午後。



低い曇の空を見上げながら、ビルの谷間で雨宿りする。



そういえば朝から何も食べていない。



雨に濡れて走るか。



重いかばんに引き留められて、ひとつ大きく溜息をつく。



意を決して足を踏み出すも、かばんに揺られて小さくよろめく。



冷たい雨。



傘は持たない。



傘は持てない。



今日は何処へ行こう。



予定は持たない。



予定は持てない。



明日は何処へ行こう。



濡れるのは仕方ない。



離れていくのは仕方ない。



冷たい雨。



誰かと誰かの小さな隙間に、持て余す自分の体をねじ込ませる。



誰かと誰かの小さな隙間に、持て余す大きなかばんを置いておく。



カウンター席のビジネスマンは、誰もが無言のまま、ただひたすらに目の前に出されたものを食べていた。



これは笑い話なのか。



これは悲しい話なのか。



自分には、まだわからない。



ウインドウの外を過ぎて行く人の流れを眺めながら、ひとつ大きく溜息をつく。



雨に煙る街並みは、このまま静かに結末を迎えるかのような別世界に思えた。



背広姿の人達は、下を向きながらみんな早足だ。



自分も今、あの中を通り抜けてきた。



冷たい雨。



やがて、落ち着かない一人の食事は終わった。



隣の人に当たらぬぬよう、かばんを勢いをつけて抱え上げる。



立ち上がると、かばんに揺られて小さくよろめく。



これから何処へ行こうか。



雨の下に出て、ただひとり立ち止まって空を見上げる。



東京の雨は、なぜか街の臭いがしない。



何人かの人の流れが、自分にぶつかる。



何も言わない。



誰も咎めない。



何事も無かったかのように、流れは途切れることはない。



濡れるのは気にしないから。



離れていくのは気にしないから。



ひとつ大きく溜息をつくと、それで何かが軽くなる。



そろそろ自分でも感づいていたのだ。



帰るべき場所へ。



帰るべきだと。



都会の夜。



ソルティーライムの香りを残して。



雨がすべてを消してくれるはずだ。












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