伊勢雅臣氏のメールマガジンより(一部)
分子生物学者として世界的に著名な村上和雄・筑波大学名誉教授の言葉です。氏は本年4月13日に逝去されましたが、「これだけ精巧な生命の設計図」を書いた存在を「サムシング・グレート(偉大なる何者か)」と呼び、探求を続けてこられました。
■3.サムシング・グレートの3つの望み
村上教授が考察された中に、一本のトマトの苗から1万数千個の実がついた事例があります。これは遺伝子を操作した結果ではありません。20個から30個の実しかつけない普通の種です。違いは土を使わず、太陽光と栄養を含んだ水だけで育てられた事です。
すなわち、普通のトマトにも1万数千個もの実をつける潜在能力があります。しかし、土の中に植えられて、他の植物とともに生きていると、その潜在能力は発現しないのです。これを村上教授は「つつしみ」だと考えられました。それぞれのトマトが、潜在能力をフルに生かして1万数千個も実をつけようとしたら、畑は激烈な生存競争の場になってしまいます。
それぞれの生物の遺伝子が、潜在能力を制限して生きている。それはサムシング・グレートが各生物に与えた「つつしみ」なのでしょう。
しかし、人類はどうでしょうか? 石炭でも石油でも好きなだけ掘り出し、必要なだけ燃やして、エネルギーを得ています。他の生物を隅に追いやり、また人間どうしも欲に駆られて、戦争が絶えません。サムシング・グレートが与えた「つつしみ」の心を、人類は忘れ去っており、それがために自分自身をも不幸にしているのではないでしょうか。
「つつしみ」とともに、サムシング・グレートは生物に利他心も与えたようです。利他的な働きをする遺伝子もあるようです。
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毒をもったある種の蛾の場合は、産卵を終えるとじっとして、わざと外敵に食べられる機会を増やす。わざと食べられて「まずい」ことを覚えさせることで、若い蛾が襲われる機会を減らす努力をしているといいます。[村上(1)、2508]
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こうした利他的な行動によって、自分は犠牲になっても、種としての生き残りの可能性は高まります。逆に各自が利己心ばかり発揮していたら、お互いの足の引っ張り合いになって、種としての存続は難しくなってしまいます。各個体が利他心をもって、種の存続と繁栄のために行動する、それがサムシング・グレートの期待のようです。
さらにサムシング・グレートは人間が明るく、楽しく生きる事を望んでいるようです。村上教授は、笑いと糖尿病の関係を実験で調べた事があります。25人の糖尿病の患者に、昼食後にベテラン漫才師の漫才で大いに笑ってもらい、その後の血糖値の変化を測定しました。普段は食後に血糖値は急激に上昇するのですが、大笑いした後では、上昇が緩やかになっていました。
これは統計学的な誤差をはるかに超えた、意味のある違いでした。この結果はアメリカ糖尿病学会誌に掲載され、ロイター通信によって、全世界に発信されました。
人間の遺伝子の中には、笑いによって働きが大きく変化するものが見つかっており、それが人間を本来の健康状態に近づけるようです。
わが国では古来から「病は気から」と言って、笑いのない、陰気な心持ちでいると病気がちになり、逆に明るく前向きに生きていると、病気とは縁遠くなると考えられてきました。人間の心理が遺伝子に影響し、それによって身体も影響を受けるということが、最新科学によって明らかにされつつあります。
■4.サムシング・グレートは愚直な人間を応援する
つつしみ深く、他者のことを思い、明るく前向きに生きていく。それは宮沢賢治が「雨にも負けず」で描いた生き方ではないか、と村上教授は指摘します。
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雨にも負けず 風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けない
丈夫な体を持ち
欲はなく 決して怒らず
いつも静かに笑っている
1日に玄米4合と味噌と少しの野菜を食べ
あらゆることを自分を勘定に入れず・・・
東に病気の子供がいれば
行って看病してやり
西に疲れた母がいれば
行ってその稲の束を背負い・・・
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サムシング・グレートは、そんな愚直な生き方をしている人を求めていているのではないか、と村上教授は考えます。
村上教授自身の生き方も、愚直そのものでした。教授が世界的に有名になったのは、高血圧を引き起こす原因となる酵素「ヒト・レニン」の遺伝子解読に成功したことですが、その方法自体が愚直でした。わずか0.5グラムの純化レニンを抽出するために、3万5千頭の牛の脳下垂体を食肉センターから貰ってきて、一つずつ皮むきしていくという作業をしたのです。
頭のいい人たちからは、「素人くさくてスマートじゃない」と陰ロも叩かれたようですが、そういうバカみたいな粘り強さや愚鈍な方法でしか手にできない成果もあると、強く信じて続けた結果でした。愚直な人間だけが、サムシング・グレートが与えてくれる大きなチャンスを生かせるようです。
略
■6.「二十一世紀は日本の出番ですよ」
村上教授がダライ・ラマ法王とお会いされた時、法王は教授の手をとって、「二十一世紀は日本の出番ですよ」と言われたそうです。
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日本の何が出番かといえば、高い経済力や科学技術力をもちながら、欧米のように自然を敵対や克服の対象とはせず、むしろ自然を敬い、その中に溶け込むようにして自然とともに何千年も暮らしてきた日本人のおだやかで調和的な精神や文化。それこそが、この混乱と不安に満ちた世界に必要だと法王はいうのです。[村上(2)]
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現在、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が世界中で叫ばれているのも、人類が自分の利益だけを利己的に追求してきたがゆえに、世界の環境がもはや持続可能性を失いつつある、という危機感からでしょう。
とすれば、現在の人類が必要としているのは、まさに「ありがとう」「いただきます」「もったいない」「おかげさま」という「つつしみ」の精神です。

いつも詳しくご紹介頂き、有り難く学ばせて頂いております。
有り難うございます。
亡くなられてまたその価値を再確認しています。
日本の教育のすばらしさを改めて感じます。
なるほどですね。
そのダライ・ラマ法王がおっしゃること、某国に乗っ取られると噂される今日、我が国もいろいろ考えていかなくてはいけませんね。
警告を与えられているような気がしてなりません。
本当に乗っ取られるという危惧がしてきました。
余りにも人がよすぎるので・・・
外交をしっかりしてほしいですね。