草むしり作「ヨモちゃんと僕」前2
(秋)物置小屋の子猫①
僕と姉ちゃんが生まれた所は、崩れかけた物置小屋の中でした。グルグルに巻かれたカーペットや、バネの飛び出たソファーが僕たちの遊び場でした。かくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり、僕たちは毎日楽しく暮らしていました。
お腹が空くと母ちゃんにオッパイをねだりました。母ちゃんは僕たちにオッパイを飲ませながら「勝手に物置の外に出て行ってはいけないよ」といつも言いました。「人間は僕たちを捕まえて、保健所に連れて行ってしまう」と言うのです。
けれど僕たちは母ちゃんの話なんか、一つも聞いていませんでした。だって思いっきり遊んだあとはお腹がペコペコで、オッパイを飲むのに夢中だったからです。お腹がいっぱいになると、母ちゃんのお腹の下に潜り込んで眠りました。母ちゃんのお腹の下は暖かくて気持ちがよくて、怖いことなんてひとつもありませんでした。
物置小屋は小さな食堂の裏手にありました。食堂は大きな道路に面しており、道路は車が絶えず行ったり来たりしていました。そして風が吹くと潮の匂いが漂ってきました。
潮風に吹かれると僕たちの産毛は、すぐにベタベタになり体に張り付いてしまいます。そんな時には、母ちゃんが毛繕いをしてくれます。前脚でぼく達を抱きかかえるようにして、汚れた産毛を舌できれいに舐めてくれます。母ちゃんの舌は少しザラザラしていました。でもそのザラザラとした舌で舐められると、僕たちはとても幸せな気持ちになりました。すると喉がひとりでにゴロゴロと鳴るのでした。
「いいかい覚えておくのだよ。今日みたいに潮風に吹かれた時や雨に濡れた時には、すぐに毛繕いをするのだよ。そのままにしておくと体が凍えてしまうからね」
毛繕いが終わると、母ちゃんはいつも僕たちに言いました。毛糸玉のように膨んだ僕たちは、黙って母ちゃんの話を聞いていました。でもフカフカの産毛は暖かくて、凍えるってどんなことなのか分かってはいませんでした。
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