川村 元気「世界から猫が消えたなら」
月曜日の朝僕は医者から、あと一週間しか生きられないと告げられた。
アパートに戻ると、そのまま気を失って倒れた。飼い猫の鳴き声で目を覚ました僕の前に、悪魔が現われてささやいた。「この世界から一つだけ何かを消す。その代わりに、あなたは一日の命を得ることができるのです」
考えてみると、この世界は世の中はいらないもので溢れている。その中から要らないものをひとつ消せば一日の命がもらえる。僕は取引に応じた。だが消すものは、悪魔が自分で決めるという。
悪魔は僕の携帯電話見て、世界から電話を消すといった。
僕はさんざん迷った末に電話を消すことを承知したのだが、ふと父のことを思った。母が死んで四年、父とは一度も連絡を取っていないし会ってもいない。自分は死んでしまうのに、こんなことでいいのか……。
悪魔は僕の気持ちを見透かしたように言った。
「最後に一回だけ消すものを使っていいという、オプションをつけましょう」
それでも僕は、どうしても父に電話をすることはできなかった。母の死んだ四年前のことが許すことができかったのだ。
そこでぼくは悩んだすえ、あの人に電話をした。あの人の電話番号は登録されていなかったが、体が覚えていた。僕はゆっくりとダイヤルを回した。
翌日の火曜日の朝、電話はほんとに消えていた。それから水曜日には映画が、木曜日には時計が消えたが、世の中は混乱することはなかった。すると悪魔は金曜日に「世界から猫を消しましょう」言い出した。
だが金曜日の朝、ぼくの飼い猫は僕の隣で寝ていた。僕は世界から猫を消すことができなかったのだ。それはつまり僕が消えるということだった。
土曜日には僕が消える。その前に僕にはしなければならないことがあった……。
佐藤健さんの主演で映画化もされましたね。主人公の僕は30歳になる郵便配達員です。こんな素敵な配達員さんがいたらな、毎日自分宛に手紙を書いて、配達してもらうかもしれませんね。
この手紙と郵便配達員、この話の中では重要な役割を果たします。でもそれは読んでのお楽しみですね。
作者の川村元気さんは若き映画プロデューサー、映画原作を捜して年間五百冊を読んだといいます。
どんな人なのでしょうね。きっと映画が好きで、猫はそれよりもっと好きなのかも知れませんね。
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