草むしりしながら

読書・料理・野菜つくりなど日々の想いをしたためます

危険生物図鑑その6 キノコ

2023-07-16 07:48:43 | 草むしりの「ジャングル=ブック」

危険生物図鑑 その6 キノコ

 春にはワラビ秋にはキノコ。子供の頃に親につれられて行った覚えがある。だがワラビはともかくキノコなんて、そう簡単に子供に見つけられるはずがない。ただ親の真似をして木の下の落ち葉をガサガサとかき回すだけだった。

 ところが親の方は何種類かのキノコを上手に探し当てていた。中でも一番上等とされているのが「ハッタケ」と呼ばれる傘の部分がお猪口のような形をしたキノコだった。余談だが傘が反対にひっくり返ることを一般的にはお猪口になったと言うが、当地ではハッタケになったという。

 さてハッタケの次に喜ばれるのはアミタケと呼ばれる、傘の部分が網目になっていてぬるぬるしたキノコだった。その他にはシメジなどもあった。

 父はシメジを見つけるのが上手で、一本シメジという大きなシメジを見つけたこともある。もしかしたら父にはどこか秘密の場所があったのかもしれない。その時も急に姿が見えなくなったと思ったら、どこからか出てきて取ってきたシメジを自慢げに見せていた。昔の人は自分だけの秘密の誰にも教えないで持っていたようだ。

 シメジはその他にも群れてできる種類もあり、似たような毒キノコもある。父が秘密の場所を自分の子どもにも教えなかったのは、私たちがまだ小さかったからだろうか。それとも毒キノコを間違って食べたらとの心配があったからだろうか?

 ただその時はシメジと毒キノコの見分け方を教わった。キノコを手で縦に割いてみると、柄の部分がまっすぐに割けるもと、割けないものがある。きれいに二つに割ける方が食べられるキノコで、途中で切れて割けないものが毒キノコだと教わった。

 キノコ狩りはその時以来行っていないので、父の秘密の場所も教わり損ねたし、毒キノコの見分け方も実践したことはない。また仮にまっすぐに割けるキノコを見つけたとしても、食べる勇気もない。自分で原木に菌を打ちつけたシイタケ、ヒラタケ、ナメタケしか食べないようにしている。

 しかし誘惑も多い。秋に山に行くと枯れた倒木の根元によくヒラタケが自生している。もう100%ヒラタケに間違いない。今がちょうど食べごろだ。と思っても絶対に採らないようにしている。

 しかし食べたらおいしいだろうな。ある時誘惑に負けてバケツ一杯採ったことがあった。だがいざ家に帰ってみると、どうも食べる勇気がない。絶対にヒラタケなのだけど、もしかしたら……。

 試しに犬に食べさせてみようか。しかし飼い犬にそんなことできるわけがない。微塵でもそんなことを考えた自分を私は深く恥じた。おかげで自生したヒラタケの誘惑に負けることは無くなった。

 しかし最近新たな誘惑が私を苦しめるのだ。ここ数年庭の松の木の根元に、ハッタケのようなキノコが生えるようになったのだ。庭の松の木の下にハッタケが生える話は聞いたことがある。実際に生えているところを母の生家で見たこともある。

 しかし我が家の庭の松の木の下のキノコが、ハッタケだという自信がない。色や大きさはハッタケなのだが、肝心の傘がお猪口になっていないのだ。でももう少し大きくなったらお猪口のなるかも知れない……。

 ああ、またしてもキノコが私を誘惑する。ええい。危ない、危ない。疑わしきは罰せよ。見つけた端から採って捨てるようにしている。


恒川光太郎「雷の季節の終わりに」

2023-07-14 08:33:32 | 読書記録

恒川光太郎 雷の季節の終わりに

 ただ暑さを避けるために通っている図書館で、偶然見つけた本である。前もっての知識もなければ、申し訳ないが作者も知らなかった。

 現世から離れて存在する異世界穏(おん)には、四季の他にもう一つ雷季と言われる季節がある。激しい雷が何日も続き、人々はその間雨戸を締め切り家にこもるのだった。

 そんなある年の雷季の夜、幼い賢也はたった一人の身寄りだった姉を何もかに連れ去られた。以来隣の家の老夫婦の庇護を受けながら、一人で暮らしている。

 孤独な賢也にとって、少年のような少女穂高と体の大きな少年凌雲はかけがえのない友だった。しかし賢也にはその友さえも知らない、大きな秘密を抱えていた。

 それは姉が連れ去れた時だった。風わいわいに憑かれたのだった。

 賢也が小学五年生になった夏のことだった。ヒナという若い娘が不可解な失踪を遂げた。ある日賢也はヒナが穂高の兄のナギヒサに殺されたことを知った。おかげでナギヒサに殺されそうになったが、賢也にとりついた風わいわいが出現して助かったのだ。だがナギヒサ深い傷を負わせてしまった。もうじきナギヒサは死ぬだろう。

 このままでは賢也はナギヒサ殺しの罪で捕らえ始末されるだろう。もう逃げるしかない。わずかな食料と小刀を持って賢也は穏の地を出た。

 途中で追手と戦い、賢也を追って来た穂高と一緒に東京にたどりつくことができたのだが。そこで待ち受けていたのは……。

 と物語はこんな感じで続いていくのだ。ファンタジーホラーというジャンルだそうだ。

 それにしても暑い。外は体温を越えているようだ。この猛暑の中クールシェアしようと多くの人が図書館を訪れていた。熱心に本を読む人、居眠りをする人。人それぞれであるが誰もが口を閉じて、外の猛暑をやり過ごそうとしているようだ。どことなく家に閉じこもり雷季をやり過ごす穏の人々に似ている。

 ちょっと固めのソファーに腰を下ろし、異次元の不思議な物語の世界にしばし身を置いた。だがどうやら私も風わいわいに憑かれたのかしれない。読み終えた本を棚に戻すと、隣にあった恒川氏の本をまた手に取っていのだ。


危険生物図鑑 その5

2023-07-12 06:59:10 | 草むしりの「ジャングル=ブック」

危険生物図鑑 その5 フグ

 以前近所の高齢者のサロン活動のお世話をしていたことがあります。月に二回お年寄りとお料理やお茶会をするのですが、責任者は年に数回行政側の指導を受けなければなりませんでした。

 指導と言っても主に高齢者向けのリクレーションや健康体操などの紹介などでしたが、ある時保健所の職員の話を聞くことになりました。ちょうど夏の時期でしたので、食中毒の講話でした。その時は実にタイムリーな内容だと思いました。

 ところがいざ蓋を開けてみれば、なんとフグの食中毒の話でした。たぶんその年に県下でフグの食中毒者が出たからでしょう。保健所職員は苦虫をかみつぶしたような顔をして、自分で釣ったフグを勝手に調理して食べてはいけないと、いきなり説教をはじめたのです。

「まったく困っているのですよ!」と語気を強めて言うのです。

 そんなこと言われても困ってしまうのはこっちの方です。そんなやってもいないことで怒られるなんて。フグどころかアジやサバだって釣ったことないのに……。この人田舎の年よりってみんなそんなものだと思っているのでしょうか?

つまりカチンと来たのです。こういう場合は言い方次第ですね。

「皆様もご存知のように先般フグによる食中毒が発生いたしました……云々。そこでひとことフグに食中毒の話をさせていただきます」

 くらいのことをはじめに言ってほしかったですね。

 さてそれから翌年には新型コロナウイルスの感染が広まりました。対応に追われている医療関係者以下多くのエッセンシャルワーカーの方々のようすが、テレビで毎日紹介されましたね。

 世の中にはなんと素晴らしい方々がいるのかと、私は感心して見ておりました。この方たちの負担を減らすためは自分ができることは自粛しかない。などと思ったりもしていました。一方で鳴りやまぬ電話に必死に対応する保健所職員の方々のようすも写しだされましたが、どうしたものかまったく同情する気がおこりませんでした。

 つまりまだカチンときていたのです。考えたらたらこの文章を書いている今だってカチンと来ているのです。あれからずっとカチンときていたのです。そんなに長くカチンときているなんて、もしかしたら話を聞いただけなのに、フグの毒に当たったのかも知れませんね。


危険生物図鑑その4

2023-07-10 07:00:36 | 草むしりの「ジャングル=ブック」

危険生物図鑑その4

  昔の農家はどこでもそうであるが、生家でも私が子供の頃には牛を飼っていた。耕運機が普及するまでは牛で田んぼを耕していたし、毎年子牛も生ませていた。

 農家にとっては貴重な動力源であり子牛を売れば現金収入にもなるので、家のものは牛を大切にしていた。牛も人に良く懐いていており、ドウドウと言って喉を撫でてやると嬉しそうに喉をぐいぐい伸ばしてきた。

 代搔きが終わって泥だらけになった牛を、叔父と一緒に川の浅瀬で洗ってやったこともある。家の庭には牛をつなぐ専用の太くて頑丈な杭があった。杭の天辺には回転する金具が打ち付けられており、牛をつないだ綱が絡まらないようになっていた。

 夕方そこに牛をつないでブラシを掛けてやったり、尻や腿にこびりついたフンを掻き落としてやったりしたものだ。その時牛の周りにはたくさんのハエやアブがまとわりついていた。牛は尻尾を振りながらそれらを追い払っていた。

 とりわけアブは刺されると痛いのだろう。

 刺された部分を小刻み揺らしていた。そこで私はハエ打ちで、牛にとまったアブを打ち据えてやっていた。牛も嬉しいのだろうか、パチンと打つと心なしか喜んでいるように見えた。

 何度もそんなこととしているうちに悪戯心がおこり、アブがいないのにハエ打ちでバチッとたたいてみた。牛はアブを叩いたと思ったのだろうか、怒るようなようすもない。

 面白くなった私はバチバチと牛を叩いていたのだが、それを母に見つかって大目玉をくらってしまった。

 当時牛は大切な家族の一員だったのだし、アブは牛だけはなく人も刺した。そして刺されると非常に痛いのだった。

  

 


危険生物図鑑 その3

2023-07-08 05:30:29 | 草むしりの「ジャングル=ブック」

危険生物図鑑 その3

 子供の時に毛虫に刺されことはおぼろげにしか覚えていない。ただその時親がしてくれた処置の方法を思い出すと、どこか懐かしさを感じたりもする。しかし大人になって刺された時のことはははっきりと覚えているし、嫌悪感しか感じない。

 もう三十年以上になるが、緑色の変な形をしたケムシに刺されたことがあった。危険生物図鑑で調べてみたところ、ヒロヘリアオイラガの幼虫のようだ。普通の毛虫のように細長くはなく、体長2センチくらいで大人の小指先くらいの大きさの平べったい形をしている。きれいな緑色をしており、背中には青色の線と多数のとげがある。

 写真をみるとこの幼虫に間違いない。とにかく刺されたと思った瞬間、激しい痛みがしてみるまに赤くなった。

 とたんに子供の時に毛虫に刺されて病院に行ったことを思い出した。あの時は発疹がどんどん大きくなり体中に広がった覚えがある。今度もまたそうなるのかと思いすぐに病院に行ったが、塗り薬一つで簡単に治ってしまった。

 意外と簡単に治ったので拍子抜けもしたが、とにかく最初の一撃の痛さに恐怖さえ覚えたのだ。

 それにしてもおかしな形の毛虫だ。足が退化して腹部が葉にぴったりとくっいているので、英名slug caterpillar(ナメクジ型のけむし意味)と言われている。こんなケムシ昔からいたのだろうか?その時初めて見た。

 我が家の八重桜の葉にはこの毛虫がいるようで、時々地面に落ちている。もちろん見たらすぐに踏みつぶすことにしている。