「酒は百薬の長」とは言うものの、それはあくまで適量を守って飲んだ場合に限られる。しかし、ひとたび酒に酔ってしまえば適量もへったくれもなくグビグビ飲んでしまうのはよくある話だ。それに、つきあいで断れずに飲んでしまう場合だって少なくはない。
かくて、ふと我に返れば時既に遅く、胃袋からは「ウチだってボランティアでやってんじゃねんだヨ!そんなに来たってもう受け付けられないんだから、帰ぇった帰ぇった」と反乱を起こされ、脳からは「キサマ、ワシがさっきから『これ以上はムリや』っちゅうてサイン出しとんのに、無視してガンガン飲みやがってからに。もう知らんわ、これでも食らえ!」と頭痛とめまいのダブルパンチを見舞われ、悔恨の朝を迎えるのである。あれほど惨めさを感じる時間というものはそうそうない。
私が二日酔いするのは、大概は向こうがガンガン飲ませてきて、断り切れずについムリをするというのがパターンだ。最近はそういうこともあまりなくなったが、自分の適量がわからなかった20代前半には何度か辛く苦しい思いをしている。その経験の中で、私はある二日酔い治療法を発見した。
あれは、大学3年夏のゼミ合宿のことだった。合宿自体はつつがなく行程が進み、問題の打ち上げである。我がアオチューゼミは酒豪が揃っていた。特に、落語研究会の連中4人は「毎日部室で酒盛りをしている」と言われるぐらいで、男子も女子もザルだった。私はその中の振込亭大吉(ふりこみていだいきち)という男になぜか目をつけられ「副ゼミ長~飲めよ飲めよ~!」とガンガン酒を注がれ、断り切れずに飲んでいたらすっかり悪酔いしてしまった。打ち上げが終了するや、私は部屋に戻って横になり、そのまま眠ってしまったのだが、翌朝目が覚めたら起き上がることすらままならないほど状態は悪化していた。世界がぐるぐる回る。頭が痛い。そして気持ちが悪い。今日は東京に帰る日だ。このままでは自腹を切ってもう一晩休ませてもらわねばならないかも知れない。最悪それは避けたいが、いかんせん動けない。困った。一体どうしたものか…。
耐え難い地獄の苦しみの中で、ふと、あることを思い出した。私は小さい頃から乗り物に酔いやすいタチで、長距離の旅行時には必ずトラベルミンを携行していた。そして、今回の合宿(栃木県・福渡〔ふくわた〕温泉)にも、いつもの旅行と同じくトラベルミンを持ってきていたことを。
「乗り物酔いに効くんだから、ひょっとして二日酔いにだって効くんじゃないか…?どっちも『酔い』に変わりはないんだし…」
私は枕元にあったバッグをまさぐりトラベルミンを取り出して、這うように洗面所に行き、必死の思いでその錠剤を飲み込んだ。
再びしばらく横になっていると、体が起こせるようになった。頭痛が弱まっている。吐き気も徐々に引いている。さっきより確実に状況が変わった。他の連中は既に大広間へ朝食に行っている。私も着替えてフラフラとした足取りで大広間へと向かい、朝食には一切手をつけず、お茶だけをちびちびと飲んだ。歩けたこと、そして飲み物を受け付けただけでも大進歩だ。そして、再び体を休めていたら、旅館を発つ頃にはかなり調子が戻り、帰りの電車では普通にゼミの連中と談笑していた。朝の惨状がウソのようである。自分でもビックリした。これは、まさしくトラベルミンの効き目だったと言うしかないだろう。
社会人になって、再びピンチに陥ったことがある。宴会で上司からガンガン飲まされ、這々の体(ほうほうのてい)で帰りのタクシーに乗ったが、乗るなり横になってビニール袋を握りしめている状態である。タクシーの運転手もいつ「時限爆弾」が爆発するか、冷や汗を流していたに違いない。幸い、車内では爆発せずに自宅のトイレで無事「処理」されたが、酔いはまだかなり残っている。この状態では間違いなく二日酔いになりそうだが、翌日は早番で5時起きだ。困った私は再びトラベルミンの力を借りた。すると、またしても翌朝、状態が回復しており大いに助かったのだった。
以降、ムチャ飲みするようなことはなくなり、乗り物酔い体質もかなり改善されたため、トラベルミンの活躍の機会は減ったが、飛行機や船に乗る時は不安を静める目的もあって飲んでいる。現在でも、我が家の常備薬なのだ。
かくて、ふと我に返れば時既に遅く、胃袋からは「ウチだってボランティアでやってんじゃねんだヨ!そんなに来たってもう受け付けられないんだから、帰ぇった帰ぇった」と反乱を起こされ、脳からは「キサマ、ワシがさっきから『これ以上はムリや』っちゅうてサイン出しとんのに、無視してガンガン飲みやがってからに。もう知らんわ、これでも食らえ!」と頭痛とめまいのダブルパンチを見舞われ、悔恨の朝を迎えるのである。あれほど惨めさを感じる時間というものはそうそうない。
私が二日酔いするのは、大概は向こうがガンガン飲ませてきて、断り切れずについムリをするというのがパターンだ。最近はそういうこともあまりなくなったが、自分の適量がわからなかった20代前半には何度か辛く苦しい思いをしている。その経験の中で、私はある二日酔い治療法を発見した。
あれは、大学3年夏のゼミ合宿のことだった。合宿自体はつつがなく行程が進み、問題の打ち上げである。我がアオチューゼミは酒豪が揃っていた。特に、落語研究会の連中4人は「毎日部室で酒盛りをしている」と言われるぐらいで、男子も女子もザルだった。私はその中の振込亭大吉(ふりこみていだいきち)という男になぜか目をつけられ「副ゼミ長~飲めよ飲めよ~!」とガンガン酒を注がれ、断り切れずに飲んでいたらすっかり悪酔いしてしまった。打ち上げが終了するや、私は部屋に戻って横になり、そのまま眠ってしまったのだが、翌朝目が覚めたら起き上がることすらままならないほど状態は悪化していた。世界がぐるぐる回る。頭が痛い。そして気持ちが悪い。今日は東京に帰る日だ。このままでは自腹を切ってもう一晩休ませてもらわねばならないかも知れない。最悪それは避けたいが、いかんせん動けない。困った。一体どうしたものか…。
耐え難い地獄の苦しみの中で、ふと、あることを思い出した。私は小さい頃から乗り物に酔いやすいタチで、長距離の旅行時には必ずトラベルミンを携行していた。そして、今回の合宿(栃木県・福渡〔ふくわた〕温泉)にも、いつもの旅行と同じくトラベルミンを持ってきていたことを。
「乗り物酔いに効くんだから、ひょっとして二日酔いにだって効くんじゃないか…?どっちも『酔い』に変わりはないんだし…」
私は枕元にあったバッグをまさぐりトラベルミンを取り出して、這うように洗面所に行き、必死の思いでその錠剤を飲み込んだ。
再びしばらく横になっていると、体が起こせるようになった。頭痛が弱まっている。吐き気も徐々に引いている。さっきより確実に状況が変わった。他の連中は既に大広間へ朝食に行っている。私も着替えてフラフラとした足取りで大広間へと向かい、朝食には一切手をつけず、お茶だけをちびちびと飲んだ。歩けたこと、そして飲み物を受け付けただけでも大進歩だ。そして、再び体を休めていたら、旅館を発つ頃にはかなり調子が戻り、帰りの電車では普通にゼミの連中と談笑していた。朝の惨状がウソのようである。自分でもビックリした。これは、まさしくトラベルミンの効き目だったと言うしかないだろう。
社会人になって、再びピンチに陥ったことがある。宴会で上司からガンガン飲まされ、這々の体(ほうほうのてい)で帰りのタクシーに乗ったが、乗るなり横になってビニール袋を握りしめている状態である。タクシーの運転手もいつ「時限爆弾」が爆発するか、冷や汗を流していたに違いない。幸い、車内では爆発せずに自宅のトイレで無事「処理」されたが、酔いはまだかなり残っている。この状態では間違いなく二日酔いになりそうだが、翌日は早番で5時起きだ。困った私は再びトラベルミンの力を借りた。すると、またしても翌朝、状態が回復しており大いに助かったのだった。
以降、ムチャ飲みするようなことはなくなり、乗り物酔い体質もかなり改善されたため、トラベルミンの活躍の機会は減ったが、飛行機や船に乗る時は不安を静める目的もあって飲んでいる。現在でも、我が家の常備薬なのだ。