私の家のすぐそばに、このあたりの大地主であるA家の大きな敷地があった。敷地のほとんどは高い木々が生い茂る林で、ちょっとしたランドマークでもあった。私が客人を家に呼ぶときは「右手に林があるから、その林の先端で右に曲がって…」と説明すれば、まず間違いはなかった。
小さい頃はキャッチボールでよく林にボールを放り込み、金網を乗り越えて「うわぁ~、草ぼうぼうでどこにあるかわかんね~よ~」とボヤキながらボールを探したものだし、私は昆虫嫌いで参加しなかったのだが、通称「ライポン」と呼ばれる刺さないハチ(正式名称・トラマルハナバチ)の採集にも最適の場所で、まさに自然が残された貴重な一角だったのである。
話が少し脇道に逸れるが、ライポンという通称は共通のものだと思っていたので、隣のS区の住民である友人にライポンの話をしたら「何それ?知らない」と言われて大いにとまどったことがある。彼の住んでいた地域でもトラマルハナバチ採り自体はあったのだ。ただ、ライポンとは呼ばず、「キグマ」と言ったそうである。よく考えたら、「キグマ」という通称の方が「黄色いクマンバチ」の略称で、まだ理解のしようがある。なぜ我々の住んでいた地域では「ライポン」だったのか。検索しても、出てくるのは「洗剤」と「そういう通称のハチの存在」ばかりで、由来が全くわからない。ライポン採りも昭和末期に爆発的に流行り、あっという間に廃れていった。何もかも謎だらけのライポンである。
それはさておき、数年前にA家の主が亡くなった。そして相続上の問題で、A家はこの林を手放すことになった。我々は「え?ひょっとしてあの林、なくなるの?どうなるの?」と話をしてすぐ、林は国の管轄下に置かれたらしく、「売地」の看板が立った。そして買い手が付き、とうとう林がなくなる日がやってきた。高くそびえていた木が次々に切り倒されていく。土はならされ、家から向こう側が丸見えだ。何とも妙な眺めである。反対に、向こう側から家方面を見ると、六本木ヒルズが見えた。これはこれでなかなか新鮮な景色である。どうせならこのまま公園にしてもらいたいぐらいであった。しかし、いつの間にやら区割りがなされ、あっという間に分譲住宅が次々に軒を並べ、せっかくの景色も再び見えなくなってしまった。
「どうせこんなとこ売れないよ。ギチギチに家建てて、庭もないし狭いじゃん」なんて我々は呪いの言葉を吐いたが、現在も2~3件売れ残っている。
自然がなくなり、以前より殺風景になってしまった感がある。しかし、あの林がなくなって以降、毎夏あんなに悩まされていた蚊がいなくなり、ゴミをつつきまくっていたカラスも数が減った。もっとも、これは動物の生態系が変わったということで賛否両論あろう。素直には喜べない。
しかし、それより何より、毎日のように薬を飲み続けていた慢性アレルギー性鼻炎&花粉症が、林が消えて以降、パッタリと収まった。今冬は一度も鼻炎薬を飲んでいない。これは、個人的にはものすごく喜ばしいのだが、果たして…。
小さい頃はキャッチボールでよく林にボールを放り込み、金網を乗り越えて「うわぁ~、草ぼうぼうでどこにあるかわかんね~よ~」とボヤキながらボールを探したものだし、私は昆虫嫌いで参加しなかったのだが、通称「ライポン」と呼ばれる刺さないハチ(正式名称・トラマルハナバチ)の採集にも最適の場所で、まさに自然が残された貴重な一角だったのである。
話が少し脇道に逸れるが、ライポンという通称は共通のものだと思っていたので、隣のS区の住民である友人にライポンの話をしたら「何それ?知らない」と言われて大いにとまどったことがある。彼の住んでいた地域でもトラマルハナバチ採り自体はあったのだ。ただ、ライポンとは呼ばず、「キグマ」と言ったそうである。よく考えたら、「キグマ」という通称の方が「黄色いクマンバチ」の略称で、まだ理解のしようがある。なぜ我々の住んでいた地域では「ライポン」だったのか。検索しても、出てくるのは「洗剤」と「そういう通称のハチの存在」ばかりで、由来が全くわからない。ライポン採りも昭和末期に爆発的に流行り、あっという間に廃れていった。何もかも謎だらけのライポンである。
それはさておき、数年前にA家の主が亡くなった。そして相続上の問題で、A家はこの林を手放すことになった。我々は「え?ひょっとしてあの林、なくなるの?どうなるの?」と話をしてすぐ、林は国の管轄下に置かれたらしく、「売地」の看板が立った。そして買い手が付き、とうとう林がなくなる日がやってきた。高くそびえていた木が次々に切り倒されていく。土はならされ、家から向こう側が丸見えだ。何とも妙な眺めである。反対に、向こう側から家方面を見ると、六本木ヒルズが見えた。これはこれでなかなか新鮮な景色である。どうせならこのまま公園にしてもらいたいぐらいであった。しかし、いつの間にやら区割りがなされ、あっという間に分譲住宅が次々に軒を並べ、せっかくの景色も再び見えなくなってしまった。
「どうせこんなとこ売れないよ。ギチギチに家建てて、庭もないし狭いじゃん」なんて我々は呪いの言葉を吐いたが、現在も2~3件売れ残っている。
自然がなくなり、以前より殺風景になってしまった感がある。しかし、あの林がなくなって以降、毎夏あんなに悩まされていた蚊がいなくなり、ゴミをつつきまくっていたカラスも数が減った。もっとも、これは動物の生態系が変わったということで賛否両論あろう。素直には喜べない。
しかし、それより何より、毎日のように薬を飲み続けていた慢性アレルギー性鼻炎&花粉症が、林が消えて以降、パッタリと収まった。今冬は一度も鼻炎薬を飲んでいない。これは、個人的にはものすごく喜ばしいのだが、果たして…。