一部と全体の話

一部が悪いから全体が悪いという言い方がある。

　これも一つの考え方ではあるが、悪いのは一部であって、この一部を良くすれば何も問題はなくなる。全体が悪いと言われるのは、こんな悪い一部を生み出した責任の一端が全体部分にもあるという意味で悪いのであって、全体の全てが悪いわけではない。だからと言って、この一部を否応もなく切り捨ててしまうことが最善の方法とは思えない。全体部分を見直して必要な部分は改善していかないとまたぞろヘンテコな一部を生み出してしまう。

一部が悪いのは見直すための絶好の機会であり、

　その悪い一部を良く観察し分析して教訓事項を見出して全体部分の改善につなげなければならない。これを無視して見直しをしなかったら全体部分の悪いところがじゃんじゃんと広がって最終的には全体が悪くなってしまう。当然ながら悪い部分が見つかったら即座に切り捨ててしまって何も無かったように済ましてしまうことは許されることではない。周囲の者が一部の悪い事実を突き付けて全体を評価してしまうのも間違いである。

全体の主要部分は悪くはないのである。

　これが悪いのであれば、この組織は腐っている。組織が存在して活動できるのは、この主要部分が良好に機能しているからであり、引き続き良好に機能するように継続的に改善見直しをしてゆくことこそあるべき姿である。残すべきは良好に機能する主要部分であり、すべてをぶっ潰せというのは主要部分に対する侮蔑である。真面目にやっている人をないがしろにする発言であり、到底許されるものではない。どこが悪いのかを明確にしてその部分の改革を主張すべきである。

犯罪者がいて、取り締まりから逃れている人がいる。

　だからと言って、真面目な人達が犯罪を犯す理由にはならない。犯罪者が罪を逃れていい思いをしているのに真面目に生活するのはバカバカしいと考えるのは主客転倒である。世の中を良好に動かしているのは犯罪者ではない。犯罪者は世の中に良好な市民達が居て成り立つのである。全員が犯罪者であれば犯罪そのものもなくなってしまう。騙し合い略奪し殺戮し合うのが常識の世界が現れる。まずは自分が良好な市民であるところから始まらなければならない。

自分がやることと、人にやらせることがある。

　人にやらせることが先ではない。自分がやることが先である。バカみたいなことを言うが、大事なことである。自分がやりたいことがあって、これを実現するために周囲の人に協力してもらうのが順序である。自分のやりたいことはあれもこれもというわけにはいかない。周囲の他人も自分のやりたいことがあり、これに協力してもらわないと困るのである。例えば、一つのことに対して自分のやりたいことは一つである。その一つを何にするか一生懸命考えなければならない。

あれもこれもはいいけれど、最後に結局何をやりたいんですか？となってしまう。

　この最後の絞り出されたものは自分の信念であろう。あちこちから寄せ集めたものでもないし、聞いたことの受け売りでもない。自分自身の中から出てきた今まで生きてきた経験と知識から出現するものであろうし、他人が真似できるものでもない。個性そのものである。それをぶつけるのが大事であって、それが素晴らしいものであれば、周囲の賛同も得ることができるし協力者も得ることができる。意外とこんな主張に出会えることは少ないし、世の中は中身のない耳障りのいいどうでもいいことのオンパレードである。

自分でやると決めて人にもやってもらおうとすれば、

　周囲に犠牲を強いるし、問題も生じるし、困難なことにもぶち当たる。それでもやろうとしたらあきらめないことであり、そのくらいの信念をもって自分のやりたいことを熟考し試行錯誤の上作り上げる必要がある。陳腐なものやただの思い付きであったら即座に頓挫してしまう。もっと言えば、一生かかってもやり通すぐらいのスケールの大きいものでもある。中身は別として誰でもそんなものを抱えて生きているし、そのために生きていると言っても過言ではない。

そんなことを考えながら東京都知事選挙の候補者の政見放送を聞いていると、

　はっきり言って中身がない。心打つものが何もない。最後に「だから何なんですか？」と聞き返してしまう内容ばかりである。いろんなやりたいことは並べるが、それは一部をたくさん述べているだけであり、全体が見えてこないし、全体をどうしようかという意気込みも伝わってこない。いろんな政策があってその先に東京都をどうしようとしているかが見えてくる。それを見せてほしいし、その見えたもので候補者を評価したいものである。批判や不満や個々の問題や様々な意見があるだろうが、それらを総合した自身の信念を打ち出してほしい。