わんぱく大将のゆうくんの家には犬のモモと猫のチコと姉さん猫のハナがいます。
犬のモモは猫のチコがとっても大好きで猫のチコも犬のモモがとっても大好きです。
姉さん猫のハナは猫のチコがとっても大好きですが、犬のモモはあまり好きではありません。
猫のハナとチコはゆうくんの家から一歩も外に出さしてもらえません。
犬のモモはどういうわけかゆうくんの家の中に一歩も入れさしてもらえません。
モモとチコはベランダのガラス戸を境界にいつも仲良く遊んでいました。
ハナ姉さんはモモとチコが仲良く遊んでいるのをそばでじっと見守っていました。
ハナとチコはゆうくんの家に居候していますがモモは外に自分の立派な家を持っています。
チコはモモの家がうらやましくてたまりません。
チコはいつかは外へ出て行って自分の家を見つけようと思っていました。
毎日窓の外を眺めてはまわりを観察して自分の家になりそうな候補を探していました。
ベランダのガラス戸の開け方はしっかりと見よう見まねで憶えました。
立ち上がって足を踏ん張って両方の爪を立てて開ける方法はハナ姉さんが教えてくれました。
ハナ姉さんはドアノブの取っ手に両手で飛びついてぶら下がってあける方法も知っています。
ところが、開ける方法は知っていても閉める方法はいつまで経っても憶えません。
チコには閉める方が簡単そうに見えます。
ベランダの外はウッドデッキになっていてそこにモモの家があります。
モモはそこに鎖でつながれて自分の家で気持ちよさそうに昼寝をしています。
その家には誇らしげに「モモ」という表札が下がっています。
今日はお母さんは洗濯中でハナ姉さんは2階の押入で朝寝坊中でゆうくんは別の部屋で遊んでいます。
誰も見ていません。
チャンスです。
チコはベランダのガラス戸をそっと両手で開けました。
昼寝していたモモはすぐに気づいて飛び出してきました。
チコに向かって「外に出てはダメだよ」と両足と身体で通せんぼしようとしました。
そして、すぐさま「大変だ、ワン、ワン」とゆうくんにも知らせようとしています。
チコはサササとじょうずにモモの脇をすり抜けて一目散に庭へ出て行きました。
チコが自分の家として一番目に狙っていたのは庭の物置の床下です。
しかし、この頃太り気味のチコには高さがちょっと足りず暗くてほこりっぽくてダメです。
チコが自分の家として二番目に狙っていたのはゆうくん家の自動車の下です。
しかし、ここもコンクリが冷たく風通しが良すぎるしガソリン臭くてダメです。
チコが自分の家として三番目に狙っていたのが大きな庭木の下です。
しかし、ここもひなたぼっこにはいいけれど雨風の日は吹きっさらしでダメです。
チコが自分の家として四番目に狙っていたのが、ウッドデッキの下です。
しかし、ここもジメジメしててかび臭いし日当たりも悪くてダメです。
チコが自分の家として五番目に狙っていたのが生け垣の下です。
しかし、ここも葉っぱがチクチクして蟻ンコやダンゴ虫がいてダメです。
何度も何度も行ったり来たりして一生懸命に探したけれどもダメでした。
結局、どっこにも居心地の良い自分の家は見つかりませんでした。
表通りに目をやると近所の犬のベイが散歩中です。
モモ以外の他の犬を見ると思わず毛を逆立てて「フーッ」と威嚇してしまいます。
ベイは一瞬驚いたけれど知らん顔をして足早に通りすぎて行きました。
ベランダの方から「私も一緒に散歩に行きたいよ、ワンワンワン」とモモが叫んでいます。
モモとベイは仲良しです。
でもモモの朝の散歩はもう終わっています。
キーウィ棚のところで隣の猫のクロに遭いました。
私より年下だけれど身体は一回り大きいんです。
外を無断で出歩く不良少年でこの前交通事故にあって大けがをしたばかりです。
キーウィの木の香りがマタタビみたいでいつもここで道草しています。
気分のいいところを邪魔されたのか「フーッ」と怒ってどこかへこそこそと逃げて行きました。
ここはゆうくんの家の庭なんだから失礼なのはクロのほうだとチコは思いました。
花壇のモグラ君の掘った穴のあたりを探検しました。
モグラ君の臭いがかすかに残っています。
鼻をクンクンして油断していると捜しに来たゆうくんにつかまってしまいました。
そして、そんなに外に出たいならと首輪に鎖をつけてモモと一緒につないでくれました。
遊び相手ができたモモは楽しそうにじゃれつきますがチコにとってはちょっと迷惑です。
特に気に入らないのがベロベロ舐め回されることです。
自慢の毛並みがよだれでべとべとになってしまいます。
モモの鼻の頭を爪でひっかいて反撃しますがモモは恐がりもしません。
かえって面白がってじゃれついてきます。
これはたまりません。
モモから逃げようと横を向くとチコの目の前にはモモの家がありました。
これは面白いとさっそく中に入ってみるととっても居心地が良くて快適です。
モモが困ったような顔で心配そうに外からのぞき込んでいます。
モモが「ここは私の家だよ、ワワワン、ワン」と文句を言っています。
チコはやっと見つけた居心地のいい家に安心してすました顔で動こうともしません。
モモは最初は仲良しのチコのためだから仕方ないとあきらめて外で様子を見ていました。
しかし、いつまでたっても出てこないのでチコに乗っ盗られるのではないかと心配になってきました。
自分の家を乗っ盗られたらゆうくんの家には入れてもらえないし行くところがありません。
「ここは私の家だよ、ワワワン、ワン」と言うが早いかモモはチコを押しのけて無理矢理中にもぐり込みました。
チコはしょうがないのでしぶしぶ横にずれて場所をゆずってやることにしました。
モモとチコは鎖につながれたまま行儀良く並んで座っています。
モモの臭いがちょっと鼻につくけれども慣れれば大丈夫とチコは思いました。
北風は防げるし日当たりは良いし敷物もふっくらして気持ちいいし最高です。
モモとチコは一緒にいるだけで心が溶け合ってもっともっと大の仲良しになりました。
お昼ご飯はモモのをちょいと失敬しました。
少々粒が大きくて香りが薄くてしょっぱかったけれどもなかなかおいしくいただきました。
こうして午前中ずっと一緒にくつろいだり昼寝したりして楽しく過ごしました。
ところが午後になるとチコはそろそろじっとしてるのに飽きてきました。
この家もモモと一緒では狭すぎるし鎖でつながれているのも窮屈です。
チコはモモの家を出てベランダのガラス戸に向かって「家に帰る、ミャ~~」と鳴きました。
するとゆうくんが出てきて鎖を外してベランダのガラス戸を開けてくれました。
チコは今度は外に逃げ出すことなく堂々とゆっくりと歩きながら家に戻って行きました。
外ではモモが寂しそうにまたうらやましそうに見つめています。
「また来てね」とモモがガラス戸のところまで見送ってくれました。
家の中にはいると、ハナ姉さんが心配そうに迎えてくれました。
ハナ姉さんは、チコがどこへ行ったのかと家中を探し回っていたようです。
チコはハナ姉さんといつものように家中を隅から隅まで散歩しながら点検して回りました。
ゆうくんの家はいつものように何にも変わっていませんでした。
そのあといつもひなたぼっこする窓際でハナ姉さんと一緒に並んで外庭を眺めていました。
「やっぱりゆうくんの家が一番居心地がいいや」とチコは思いました。
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