ドラクエ9☆天使ツアーズ

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ルイーダの酒場にて

2013年02月12日 | ツアーズ SS

世界中が夜空を見上げ、その光の軌跡に声を上げた日から、数ヶ月。

人々は、世界の何かが変わったかのように騒ぎたてたが、それもすっかり落ち着いた。

日常はあるべき姿をして、成るべくして成り立つ生活。

 

それを、ここ、冒険者たちの集う酒場から見ていれば、何事もないかのように思えるが、

そうではないことを、彼女は感じ取っている。

 

酒場の女主人、ルイーダは、いつもどおりカウンターから人々を眺め、街中が、

言いようのない高揚に包まれているのを確かに、感じ取っていた。

世界中を駆け抜ける冒険者、彼らが出入りするここは、外からの情報を常に塗り替えていく。

 

「ルイーダさん、おはよう!」

 

そう、声をかけられてふとそちらに目をやれば、先日、長い旅から戻ってきた一人が、

軽装で駆け出してきた。

「おはよう、もうおでかけ?」

忙しないわね、と、いつものように何気ない会話を持ちかければ、相手は、屈託なく笑う。

「向こうの通りで、クロワッサン焼きたて~、って鐘が鳴ったからさ」

「あら、小遣い稼ぎってわけ?」

いつものように、パン屋の焼きたて開店準備でも手伝いに行くのかと思えば。

違う違う、と、大げさに手を振って、ヒロが笑った。

 

「ウイとミカに買ってこようと思って」

 

その答えに、ルイーダはちょっと目を見張る。

また使いっ走りでもさせられてるの?と、軽口を叩くこともできたが、昔のそれとは少し感じが違う。

とにかく愛想が良くて腰が軽くて、いつも落ち着きがなくて、居場所を一つに決められずにいる子だったが

長い旅から戻ってきて、何か変わったのかしら、とルイーダがヒロを観察している矢先に。

「ルイーダさんも食べる?旨いよ?…あ、リッカちゃん、…は、今いないか」

レナも食べるかな、なんて、その他大勢に気を回し始めたのを見て、変わってないわね、と笑ってしまう。

そこへ。

 

「ヒロくん、待ってー」

 

今にも酒場を飛び出していきそうなヒロを呼ぶ声。

呼ばれた本人だけでなく、ルイーダもそちらに気を取られ、その声を主を見て、再び目を見張る。

 

まあ、この子、こんな大声出せたのね!

 

というのが、正直なところか。

冒険者の酒場にいながら冒険者としてはお呼びがかからず、長らく厨房で下働きしていた子だ。

いつでも小動物のようにびくついていて、対人面では不安しかないような少女だったが。

「私も行きます」

と、ためらいなくヒロの傍まで駆けてきて、にっこり笑う。

まあ確かに、二人は<旅の仲間>という間柄ではあるけれど、それにしても随分、雰囲気が違う。

「ちょっと歩くんですけど、おいしいプリンを売ってるお店があるんですよ」

「へえ、それは知らなかった」

各地を回ってる移動販売らしい、午前中だけだ、と、次々と情報を出してはヒロを驚かせているのは

昨日、ウイちゃんと見つけたんです、と、自信をもって話すミオ。

そうか、自信だ。

と、ミオの雰囲気が違う様を、適当に言い表す言葉に思い至る。

何があったのかは知らないが、ミオは確実に成長したようだ。

人って変われるのねえ、なんて、ルイーダが若い子の成長をしみじみかみ締めているのも知らず、

二人は自然と会話を続ける。が。

「ウイは?行かないって?」

「あ、ウイちゃんは、ミカさんと、…えーっと、…食い違ってます…?」

 

「はい?」

 

と、ヒロとルイーダがほぼ同時に聞き返すと、それを受けて、ミオが真っ赤になる。

「い、いえ、あの、えっと、なんていうんでしょう、えっとー」

あらあら、そういうところは変わらないわね、とでも思えばいいのか。

途端に、ミオがたどたどしく、状況を説明する。

「あ、あの、おととい、ウイちゃんがロイヤルスイートに泊まりたいって、言った、あの、あれで」

「ああ…」

と、これまた、ヒロとルイーダの声がかぶった。

その件なら、ルイーダも知っている。

従業員割引じゃなくてちゃんとロイヤルスイートに泊まりたい、とウイがリッカに交渉していたのを、

カウンターの中で見ていたのだ。

リッカは快く了承したものの、快く了承しなかった者が一名。

4人で一部屋に泊まる、と頑なにこだわるウイを一顧だにせず、さっさと一人部屋に泊まったのが

大体において一致団結とは無縁そうな問題児、ミカ。

 

「あれ、まだ揉めてるの?」

「しつけえ!」

 

と、ルイーダとヒロが呆れ気味に口出せば、ミオがあせったように口を開く。

「も、もめてるといいますか、えっと、説得、説得してるといいますか、えーっと」

とにかく人との諍いごとが苦手なミオは、なんとかそれをそうとはさせない言葉で説明したいらしいが。

「あの二人は放っとこう」

と、ヒロが一刀両断にしてしまう。

そして、そのことにミオが困窮してしまう前に、良いよ良いよ、と手を振るヒロ。

「好きで言い合いしてるんだし、大丈夫」

と言えば、意外にも、ミオが素直に頷いた。

「あ、はい」

それで終わり。

ええ?あなたたち良いのそれで?!と、ルイーダとしては判断に困ったものだが。

何事もなかったかのように、買い物の算段をつけて、二人で仲良く出かけていった。

行ってきまーす、とお気楽に手を振られて、半ば呆気にとられたまま、見送るしかない。

 

何も変わっていないようで、それでも、あの子達の中で何かが変わったのだろう。

 

と、ルイーダが自分を納得させるしかなかったのは。

ヒロとミオが出て行ってからしばらくして、その場に下りてきたミカの態度を見たときだった。

 

不機嫌さを丸出しにしているミカが酒場に姿を現した。それはいい。しかし、彼は果たして、

<そこにあるべきもの>を見つけられず、しばし、呆然としたようだった。

「…おはよう、いい天気よ」

ルイーダが背後から声をかければ、呆然とした体を見られたことに気まずさを感じたのか、

ぶっきらぼうに返事が返ってくる。

「…そうですか」

 

まあ!返事したわ、この子!!!

 

青天の霹靂!といわんばかりにルイーダが驚いて見せたのを、ミカが気分を害したように見る。

「…何か?」

「ええ、そうね、たまには珍しいこともあるものよね」

「…たまにあるから、珍しい、というんじゃないのか」

「その通りだわ」

その、珍しいこと、が自分が挨拶を返したことだ、と判っていて、かつ揶揄されていることも承知で、

それでもルイーダを無視することなく、きちんと、会話をする。

「ウイなら、もう降りてくる」

「あらそう、ありがとう」

今は特にウイに用事があるわけでもなかったが、一応、真摯に対話をしてくれたことに対して、

ルイーダは礼を言った。

それをどう捕らえたのかは彼の自由だが、少なくともルイーダは真面目だった。

 

そもそも身分が高貴であることを秘匿しても隠しきれるものでもなく、冒険者の輪から浮きまくり、

誰とも馴染まず、孤高然として、何をしたいのかわからないまま酒場に居座っていた彼だが。

姿を見かけてルイーダから声をかけても、形ばかりの会釈をする程度。

あのウイと仲間になってから顔見知り以上には接してきたが、それでも用事があって呼び止めても

我関せず、さっさとその場を立ち去るほどの無頓着さだったというのに。

 

「ミカちゃーん!!」

「だ…ッ」

 

気配を感じさせず、弾丸のように飛び出てきた少女に全力で体当たりされて前のめりによろめくミカ。

それを、ただなすすべもなく見ているしかない。

 

酒場で、当然、自分を待っているはずの仲間の姿がないことに愕然としたり。

仲間が、当然待っている、と思うようになっていたり。

仲間に、隙をつかれるほど、気を許していたり。

ルイーダの知るミカもまた、その仲間達と同じく、見違えるほど変わった。

 

そうして彼らを変えるほどの存在であるはずなのに。

 

「いえーい!隙有り!」

「あほかー!公共の場で暴れんじゃねえ!!」

「大丈夫!ちゃんと迷惑にならないように加減したから」

「そういう問題かあ!!」

この場合、暴れてるのはあなたよ、と内心でミカに突っ込みつつ、ルイーダは

報復をするミカを軽くあしらっては、無邪気に、こちらに手を振る余裕を見せる少女を見る。

「おっはよう、ルイーダさん」

「ええ、おはよう」

 

ああ、変わらないのね、と思う。

 

何も変わらない。変わり行くもののなかで、変わらないものがある。

その象徴のように、ウイは、まったく変わっていないようだった。

そのことに安堵したのは何故なのか。

 

「あれ?ヒロは?ミオちゃんは?」

「置いていきやがったぞ、あいつら」

「ええー、薄情すぎるでしょー」

「まったくだ」

「ミカちゃんが協調性に欠けるからだよね」

「お前が非常識の塊だからな」

「ミカちゃんに言われたくないよー!」

「俺だってお前に協調性がないとか言われたくねえよ!」

「誰が、どう見ても、ないのに…」

「おい、なに憐れみの視線よこしてんだ、お前…」

「痛い痛い!ミカちゃんそれ痛ーいー!もー!」

 

なるほど、これにヒロとミオが慣らされているなら、先ほどの二人の態度も納得だ。

始終こんな調子で言い合いをしているなら、それはお好きなだけどうぞ、と言いたくもなるのだろう。

ただし、暴れるなら外でね、と二人をつまみ出すタイミングを見計らっていると。

 

あらあら、不穏な空気になりそうじゃない?

 

この場を見かねた部外者が立ち上がったのを、視界の端に認めてルイーダは成り行きを見守る。

 

…そうだ、いつもここから外の世界が変わっていくのを見ていた。

外から人が入り込んできては外へと出て行く、その流れを開放する場だ。

ここにいて、世界の動きを知り、人の変わり行く様を見送るのが、今の自分だ。

だから、ウイが変わらないことに安堵したのかもしれない。

変わらないものが、自分以外にもあるということに安堵し、己の中のなにかを正当化した。

と、気づいて。

 

それはちょっと、らしくないんじゃない?

 

と、虚空に向かって自嘲にも似た視線を向ければ、いつの間にか戻ってきていたリッカが

ルイーダの隣に寄り添う。

「ルイーダさん、あれ、喧嘩になりそうです?」

大丈夫か、とたずねてくる少女を見て、その視線の先にいるウイたちを見る。

ウイとミカ、それに対峙しているのは、若い騎士だ。

その光景を見るともなく見、ルイーダは、ここではない何かに対して決意していた。

「そうね、時には慢性を打破する不穏さも必要よね」

「な、なに言ってるんですか、止めたほうがいいんじゃ」

心ここにあらず、といったルイーダのセリフに気づいて、注意を向けさせようとする存在に、

ルイーダはようやくキチンと向き合った。

「平気よ、何があってもあの子たちなら対処できるから」

と軽く請け負えば、不承不承、リッカもひとまずは成り行きを見守る体制に入る。

それを見て、ルイーダは笑う。

 

あの子たちに刺激されているのは、認めざるを得ないわね私も

 

酒場の女主人として、この場を守ってきたけれど。

力はある。

世界へと出て行く力量は、自分の中に変わらずあるのだ。

 

それを生かすも殺すも自分次第

 

世界の変動を受け入れ、大いなる流れに翻弄されることなく見据え、

変わり続けることも、変わらずいられることもまた、同じだけの力を持つ。

それは、ルイーダも、この酒場も同じ事だ。

 

人任せでなく、自分で新鮮な空気を入れ替えることがあってもいいわね

 

自分の中に眠る未知の可能性と、既知の実績。

それを確信したルイーダもまた、外へと向かって吹く風に身を任せるようにして、

翼を広げる。

恐れを知らず、ただ風に立ち向かっていた翼は、長い休息期間を経て

新たな飛び方を、つかみ始めた。

 

 

 

 

世界は

 

世界は、広がり続けている。

いついかなる時でも、ふと思い立った誰かが飛び込んでくるときのために。

人、一人の居場所を確保するために。

 

(誰でも いつでも どこへでも 受け入れる)

 

 

そのために

 

 

世界は、ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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天使御一行様

 

愁(ウレイ)
…愛称はウイ

天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。
旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

魔法使い
得意技は
バックダンサー呼び

 

緋色(ヒイロ)
…愛称はヒロ

身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。
究極に節約し、どんな小銭も見逃さない筋金入りの貧乏。
旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

武闘家
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ゴッドスマッシュ

 

三日月
(ミカヅキ)
…愛称はミカ

金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。
各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
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戦士
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美桜(ミオウ)
…愛称はミオ

冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。
臆病・内向・繊細、の3拍子揃った取扱注意物件。
旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

僧侶
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オオカミアタック