ドラクエ9☆天使ツアーズ

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ケジメ9

2022年11月11日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
ユールと別れ、上の村への暗い道をカンテラの灯りを頼りに登りながらシオは、一歩進めるごとにこれからの雑事が身近なこととしてこの身に降りかかってくるのを実感していた。
結婚に関わる雑事。
そのどれらも具体的に予定立てていけば、非常に面倒なものだわ、と思う。
実は自分は、結婚ではなくその先にある面倒さから目を逸らしていたのでは無いかと考えてしまうほどだ。
日常の雑事はさほど苦ではないのは、それが当然と身についているからで、元来の自分は実は母と同じ気性で、めんどくさいことから逃げたい人間なのでは無いか。
(あり得なくもないわ)
だってあの母の血を引いているんだもの、と考え、随分おおらかな答えを導き出せるようになったものだ、とここ数日の身の回りに起こったことに一人、苦笑する。
そんなはずはない、私は几帳面な人間だ!と頑なにあった拒否感はもうない。それが母の帰還のためか、ユールとの話し合いからか、結婚への覚悟が決まったことなのかはわからないけれど。
少なくとも日常の家事を煩わしく思わない程度にしつけてくれた父には大変感謝したいところだ。
と、家の中へ戻ってみれば。
「あ!お姉さん、おかえりなさい!」
一人で食卓についていたミオが立ち上がった。
「ミオ?一人なの?」
他のみんなは、と家の中に気配を探るけれど、母と双子の様子はわからない。
食卓には二人分の食事の用意がある。
「あの、お母さんとお姉さんたちは、中央の酒場に行く、って言って」
ついさっき出かけて行きました、と報告する様子には普段と変わったところはない。
そういえば昼過ぎから家を飛び出してから、ミオを一人残していたことに全く気を回していなかった。
「そう、食事を済ませてさっさと飲みに行った、ってことね」
気ままに飛び出したのは自分なのだし、皆もう良い大人だし、シオ一人食卓に揃わなくても特に気にするものでもないだろう。そんなものだ、と思っていると、「いえ」とミオが続ける。
「今日は気分じゃないから外で食べる、って」
「はあ?!」
どうせ母が言ったのだとはわかる。双子もそれに追唱するのもまあわかる。しかし食卓には食事の用意が整っているのだ。
「ミオ、あんたが用意したんでしょ?!」
「あ、はい。そうです」
昼に焼いたパンとスープの他に、キッシュとグラタン、サラダまで揃っている。二人分の食卓には多すぎる。
(ああもう!食べてあげなさいよ、末の娘が考えて作ったんだから!!)
ここにきて再び母親の身勝手さに憤慨する。気分がどうとか言われて拒否られる娘の心情くらい思いやってくれても良いんじゃないの?!たまに戻ってきてこれか。ああいや、たまに戻ってきたのではなかった。確かこれからはずっと家にいるとか、冒険者家業は引退するとか、信憑性はないが、そんなことを言っていたのだった。
だとすればこれからはこれが日常…、と明日から振り回される我が身を思って目を据わらせているシオに、ミオがおずおずと尋ねてくる。
「あ、あの、お姉さんは食べ」
「食べるわよ!」
ついさっきユールと食事を済ませてきていたものの、ここで「食べない」と言えるほど非情にはなれないシオなのだった。
どうして自分が怒鳴られなければならないのか、と不満の一つも返せば良いものを、ミオは「はい!」と跳び上がらんばかりに返事をして、シオと自分の食卓をテキパキと整える。
温められた料理を挟んで、姉と妹が向かい合って少し遅い夕食。
「美味しいわ」
「えっ、ほ、本当ですか?」
「あんたに嘘をついて何になるのよ」
「あっ、すみません!えっと、嬉しくて、つい、えっと、なんか信じられなくて…、あ!この場合はお姉さんが信じられないのではなくてですね!えーと私が現実を受け入れることに対するというかえーとえーと」
などと変にぎこちないのは今までの関係性上仕方がないとは言え。
そんなに怯えなくても良いんじゃないの、と言う代わりに、村の味とは違うけれど、と返して。
「こっちのグラタンも。変わったソースだけど、美味しいわ。随分腕を上げたわね」
先ほどのユールとの食事は味もろくに感じなかったせいか、自然にそんなことが口をついて出ていた。その言葉を信じられないような驚きの表情で固まったように受け止めたミオが、その目にみるみる涙を溜めたかと思うと、大粒の涙をこぼした。
「ちょ、ちょっと、何!?どうしたのいきなり?!」
「あっ、すみません!なんかすごくすごく嬉しくって」
そんなことで?!と動揺するシオを残して、流し台の方へ小走りに逃げたかと思うと、吊るしていた布巾で盛大に鼻をかんでいる。
大量の涙と鼻水を垂らしていた頃のミオのことは嫌と言うほど知っているけれど。
今でも大して変わっていないのか、変わったからシオの言葉一つで泣けるのか。妹の成長を複雑な思いで見守る。
昔からミオは生活に関する仕事は嫌がらずこなしてきた。双子の分まで仕事を押し付けられても黙々と、いやむしろ生き生きと請け負っていた昔の日々。
(そういうところを褒めてあげたことはなかったわ)
祖母がシオにしてくれたように、長所をひたすら褒めて伸ばしてやれば良かったのかもしれない。だがミオの長所は村の女としては致命的だ。女たちとの争いに身を投じる村に生まれた以上、いじめ抜かれる立場にだけは置いてはおけなかったのだ。
そんな複雑な思いを抱えるシオの元に、ミオが、失礼いたしました、なんて冗談なのか本気なのかわからない取り繕い方をして戻ってくる。
「村の女なら料理の腕じゃなくて戦いの腕を褒められて泣いて欲しいものだわ」
軽い激励の意味を込めてそんな言葉を送ってみる。
また盛大にいじけてしまうかと思ったが、予想に反してミオは奮起してみせた。
「それはもちろん!これからますます精進した暁には必ず果たしたいと思います!!」
奮起したのは良いが、さっきからその芝居じみた口調は何とかならないのか。
口調、で何だか思い当たるのは、ミオの仲間の一人。
「あんた、あの男に悪い影響受けすぎじゃないの?」
母親に久しぶりに対面した時の挨拶といい、その後に激情のままに喚き散らした時といい。そこまでは良いものの、我に返って、自分のやらかしに青ざめている様子には多少意見したくもなる。
「え?男?えっと?」
「黒髪の。ヒロとかいう」
「あ、ヒロ君は悪い男ではないですよ?良い人です」
「あんたは悪くないんでしょうけど、あんたが影響されてるのがどうなの、って話よ」
そういえば。
横暴ぶりを見せる母と双子に大して、社会の仕組みとやらを大上段に振り翳していたのだったか。それにも違和感が拭えない。単純に、らしくない、のだ。
「昼にも言ってたけど。社会の成り立ちがどうとか、形成がどうとか」
あれも何なのよ?あいつの詐欺芝居?と続けるシオに、ミオがかしこまる。
「あ、あの、あれはミカさんが」
「ミカさん?」
「はいっ、えっと、ヒロくんとは違う方の、えーと、金の髪で、なんかこうしゃってしたピャってなったキリキリってした感じの」
「ああ、あの金髪」
ミオのこのアホらしい説明にはげんなりもしたが、そうこれがいつものミオで、と考えていると、あのう、と話し出す。
「ミカさんが教養は大事にしろ、っていつも話をしてくれます。いろんなことを。私知らない事がいっぱいで物凄く大変だけどそんな私でも解るように色んな事を教えてくれてて、政治とか経済?とか歴史とか何だかそういう」
ああ。あの男。何やら態度が威圧的だと思ったが、なるほど、上流階級の人間だったか。と思う。教師がついて、上から下の人間を動かすための教育を受けているなら、それは当然に身についているだろう。それをご丁寧に披露してくれているわけか。なんのために?その真意はどこにある?
黒髪と金髪、二人から受ける影響がミオにとって良いものではなかった場合の懸念は姉として当然に抱くものではあったが。
ミオはしょんぼりと肩を落として見せた。
「でも私、村の事さえも知らなくって」
「村?」
「あの、お母さんが。なんのためにこの村が弱者を排除すると思ってるの、って」
徹底的に弱気を挫く。強さこそが正義、圧倒的な力、それ以外に手段は選ばない。そうした気質の村が生まれた理由。
遠い昔。社会的に女の地位が低かった時代。それに不満を抱いた女たちが力を手にすることを選んだ。戦うことを望んだ。強い意志で女社会を築くために各地から賛同者が集まり、戦う女の集団が出来上がった。女の力で生き抜くためにやがて一つところに落ち着き、集落を構えた。それがこの村の始まり。
やがて武勇で名をあげた女たちの元には、助けを必要とする弱い女たちが集まった。当然、女社会を発展させるために、それを迎え入れる意志はあった。だが。
「女たちの駆け込み寺でもあったわけよ。大昔はね。ろくでもない男から逃げてくる女は少なくないわ。でもね、女って生き物はそういうろくでもない男に惹かれるどうしようもない本能ってやつがあるのよ。暴力の支配をありがたがる、働きもしない男に貢ぐことに生きがいを感じる、被害を受ける自分に価値を見出す、そんな厄介な女が一定数いることは確かなの。そういうのは一度逃げてきても、それを忘れられなくてまた戻っていくんだ。それがこっちにどれだけ甚大な被害をもたらそうとね」
そりゃ何度裏切られようとも救ってやりたいと思うさ、同じ女だもの。と、母からそんな話を聞かされたのだという。
「だけど長い間の抗争でそのうち割り切るのさ。女とか男とかじゃない。結局、力があるか、ないかだ、ってね」
だから力のない人間を排除した。広い世界の中で、女が生きる村として対等に渡り合っていくために掲げる大義は、一つ。力なき者は去れ。
(ああ、そうね。昔は祖母がそんな話をしていたわ。村には大婆様たちもたくさんいて、歴史ある武勇を誇っていたのだもの)
だがその生きる大義を生の声として語れるものがいなくなる。伝えていくことはできても、命をもつ言葉として生かすことができなくなる。時と共に風化するのは避けられなくて当然。
「私そんなことも知らないで何だか偉そうなことを言っちゃって」
だからお母さんたちは出てっちゃったんだと思います、と肩を落とすミオに同情する。
「バカね」
とその顔を上げさせる。
「母さんがそんな事で出ていくもんですか。あの人は、茄子が嫌いなのよ」
「へっ?は?え、な、茄子…」
キッシュとグラタンにたっぷりと使われている茄子。
「あああ!私そんなこと知らなくて!いっぱい使っちゃ」
「知らなくて当然。今まで家にいたことなんかなかったんだから。良いのよ、それはこれから知っていけば」
知りたいと思うなら。いくらでも知れることはある。
「それと。あんたはケンカのやり方を知らないから。口喧嘩で負けてんのよ」
「けんか」
「本当にね。料理の腕は一端になっても、こっちはまだまだだって言うのは、そういう所」
茄子はシオの好物で。母親と双子に容赦なく貶されていた姉のために孤軍奮闘で立ち向かって。一人でシオの帰りを待っていたりして。
(そういうのはあんたの良い所なんだけど。残念ながらそれは武器にならないのよ、あの人には)
「負けたら終わり、じゃない。この村の始まりを知ったんでしょ?上等じゃない、それを手に入れて、次にあんたができることは何なの?」
「私、の、できること」
「村にない味を作れるようになったんでしょ。知識だって同じよ。村にない知識で、あんたはまだ戦えるでしょ」
村が弱者を排除する理由。それは、弱者を守る気はないという意思表示。大昔の彼女たちの言葉を借りれば「身を挺して守ってやっても、害こそあれど利点がない」からだ。
「つまり脳みそ筋肉で救済制度を作る能がない、ってことよ」
私がケンカを売るなら、そこを突くわね。と言ってやれば、ミオはポカンと口を開けて呆けている。
「そのアホヅラをやめなさい」
「あ、すみません」
「あんたはお仲間がいて、村の外の社会制度をいくらでも学ぶことができる。母さんはそうそう変わることはないんだから、何度でもケンカを売れば良いのよ。そうやって母さんの話を引き出して、自分のものにすれば良いだけ。小娘が偉そうに、なんて言わせておけば良いのよ。言いたいんだから。自分が小娘じゃなくなったから、やっと堂々と言えるわ、なんて思ってんのよ。言わせてやりなさいよ」
父さんも言ってたでしょ、と昼間の父の言葉を繰り返す。
「みんな意見が違って当たり前、その先をどうするかが家族会議だ、ってね」
「家族…」
「そう、あんたができるのは私たちの誰とも違う意見を言うこと。それを言えるようにちゃんと村の外で学んでくること」
母さんは話を最後まで聞いてくれたんでしょ?と問えば、はい!と力強い声が返ってくる。それで良い。
「うん。それでね。あんたの話をね、何がなんでも全否定!するのが母さんだから」
と念を押しておく。
再びミオが大口を開けて呆けるのに苦笑して。
「そういう人なの。人の話を聞いておいて、そのくせ最後には聞く耳持たない風で、全力でばかにするのが好きなの。そういうケンカの仕方なのよ、母さんは」
だからもっと話をしてやって。
多分、母が気にかけるのはシオではなく、ミオのような娘だろう。シオのように母に憧憬するでもなく、双子のように面白がるのでもなく、生真面目で純粋な小娘。今まで母親と離れていた分のまっさらな時間こそが、ミオのたった一つの武器だ。


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