切られお富!

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『火垂るの墓』 高畑勲 監督

2008-08-16 00:02:01 | アメリカの夜(映画日記)
最近、見逃していた宮崎駿、高畑勲作品をまとめて見ているのですが、発見が多いんですよね。で、このあまりに有名な作品も、じつはちゃんと見たことがなくて、「反戦映画」、「ヒューマニズム映画」みたいな世間の評価に惑わされていたことに気づきました。でも、この傑作は、どう考えても「反戦」とか「ヒューマニズム」とは関係ない。第一、主人公の少年は現代を生きていたとしても妹を死なせていますよ、絶対!というわけで、感想です。

空襲で焼け出された兄妹が、親戚の家に身を寄せるものの、居づらくなって家出、戦中の食糧難から妹は栄養失調で死んでしまう・・・というのがこの作品の簡単なストーリーですが、果たして、妹は戦争のために死んだのか?

戦時中も戦後も変わらない軽薄な世間と、青臭い潔癖心からオトナに擦り寄ることのできない思春期の少年。

世間と少年の狭間で死んでしまったのが、妹なんじゃないかというのが、わたしの率直な感想です。

また、原作者の野坂昭如と監督・高畑勲の対談のなかで、高畑が「この作品は一種の心中物」であるという大胆な発言をしていますが、わたしはこの発言に目から鱗が落ちました。

「幼い妹」という設定にわれわれは幻惑されていますが、家出した少年少女のままごと的な共同生活と心中という意味では、同じく野坂作品で実写映画化された『遊び』(原作名「心中弁天島」、増村保造監督)と構造はよく似ている。

実際、原作を読み直すと、意地悪なおばさんのくだりは「桂川連理柵 帯屋」あたりの義太夫の雰囲気があるし、そもそも、野坂昭如の文体って、近松なんかの浄瑠璃の詞章の影響を強く受けているんですよね。(原作の終わり方も、擬古典調。)

【「帯屋」関連の参考記事】
・文楽と落語、「どうらんの幸助」をめぐって。

さて、ここからは映画に引き付けて感想を述べたいのですが、原作が作者の原体験に結びついた一人称的(といっても、一人称で書かれているわけではない。)な叙述なのに対し、映画の視点はもう少し遠くて冷めたところにある。

主人公の14歳の少年は原作以上に世辞長けない少年として描かれているし、働かない少年と「働け」とせかすおばさんの関係は、ニートとその家族の関係に似てなくもない。

戦争より「世間」を恨んでいるように思える原作に対して、映画は「世間」にも「主人公の孤独」にも等距離だってことに、わたしは共感しました。

世の中しょうもないものだけど、変えるわけにもいかないですからね。うまく付き合うしかない。でも、野坂昭如にとっては、『火垂るの墓』の原体験があって、狡猾な『エロ事師たち』が生まれたって事なんでしょうけどね~。

それと、最後に、ついでながら二点だけ指摘させてください。

①高畑勲の「火垂るの墓」心中説のおかげで、近親相姦を描いた野坂の最高傑作「骨餓身峠死人葛」について、なんとなく腑に落ちました。

②宮崎駿、高畑勲の関係は、黒澤明、溝口健二に近いですね。宮崎駿は画で魅せるけど、高畑勲は演出で唸らせる。

この映画でも、『おもひでぽろぽろ』でも、リアリズムをベースとしながら、実写でできることできないことをよく知っていて、アニメしかできない演出をやっている。

(考証的な部分は特に再現不可能だし、第一、蛍を使った演出は実写では無理。昔須川栄三監督の『蛍川』っていう実写映画があったけど、蛍に関してはあまり成功していない。)

このあたりについて、「実写でできることをやっている」とアマゾンのレビューで書いている連中は、実写のことをよくわかっていないとしか思えないなあ~。

というわけで、「反戦映画」だと思って敬遠していた方々にこそ、オススメ!

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