毎年恒例の「わたしが選ぶ歌舞伎ベストアクト」ですけど、振り返ってみれば、幾多の名演があった2022年の最後をさらって行ったのは、思わぬ新鋭(!)でした。では、早速わたしが独断と偏見で選ぶベストアクト。
まずは以下に、2022年の印象に残った舞台を…
1月 一條大蔵卿(勘九郎)、盧清の夢(幸四郎)以上、歌舞伎座、
八犬伝(菊五郎)国立劇場
2月 御浜御殿綱豊卿(梅玉・松緑)、渡海屋・大物浦(仁左衛門)、石橋(鷹之資)
鼠小僧(菊之助・丑之助)以上、歌舞伎座
3月 河内山(仁左衛門)、新三国志(猿之助)、石川五右衛門(幸四郎)、以上、歌舞伎座
盛綱陣屋(菊之助)国立劇場
4月 天一坊(猿之助)、ぢいさんばあさん(玉三郎・仁左衛門・歌六)、荒川の佐吉(幸四郎)以上、歌舞伎座
5月 金閣寺(雀右衛門・松緑)、暫(海老蔵)、土蜘蛛(菊之助)、弁天娘女男白浪(尾上右近)以上、歌舞伎座
6月 ふるあめりかに袖はぬらさじ(玉三郎・喜多村緑郎)、土蜘蛛(菊之助)、信康(染五郎)、
車引(巳之助・松緑・壱太郎、猿之助)以上、歌舞伎座
毛谷村(又五郎・孝太郎)国立劇場
7月 小栗判官(猿之助)、夏祭浪花鑑(海老蔵・雀右衛門、右團次)以上、歌舞伎座
※第三部ナウシカは中止で観れず
紅葉狩(梅枝・松緑)国立劇場
8月 安政奇聞(勘九郎・幸四郎)、闇梅百物語(勘九郎・勘太郎・長三郎)、
新撰組(歌之助・福之助・彌十郎)歌舞伎座
9月 七段目(仁左衛門・雀右衛門・海老蔵)、松浦の太鼓(白鸚)
寺子屋(松王=松緑・源蔵=幸四郎・児太郎)、藤戸(菊之助)以上、歌舞伎座
10月 加賀鳶(芝翫・梅玉)、紅葉狩(猿之助)、荒川十太夫(松緑・猿之助)
夕顔(梅玉・魁春)、祇園恋づくし(鴈治郎・幸四郎・千之助)以上、歌舞伎座
千本桜通し(菊之助・梅枝)国立劇場
11月 勧進帳(團十郎・幸四郎・猿之助)、外郎売(新之助)
助六(團十郎・菊之助・左團次・仁左衛門・新之助)以上、歌舞伎座
六段目(芝翫・歌六)国立劇場
12月 毛抜(新之助・右團次・芝翫)、二人道成寺(勘九郎・菊之助、團十郎)、團十郎娘(ぼたん)
助六(團十郎・勘九郎・玉三郎・七之助・彌十郎、猿之助)以上、歌舞伎座
●わたしの選ぶベストアクト2022
①毛抜(新之助)
②助六(團十郎・菊之助)※11月公演
③ふるあめりかに袖はぬらさじ(玉三郎)
④渡海屋・大物浦(仁左衛門)
河内山(仁左衛門)
七段目(仁左衛門、雀右衛門、海老蔵)
⑤ ぢいさんばあさん(玉三郎、仁左衛門、歌六)
次点 小栗判官(猿之助)、天一坊(猿之助)、新三国志(猿之助)、土蜘蛛(菊之助)、夏祭浪花鑑(雀右衛門)、
外郎売(新之助)、勧進帳(團十郎、幸四郎、猿之助)
2022の歌舞伎は、前年同様、仁左衛門と猿之助が年初から気を吐く展開でしたし、実際素晴らしい舞台が続きました。
でも、です。終わってみれば、やはり、「團十郎襲名」の年として記憶せざるを得ない。もちろん、團十郎も充実していましたが、それ以上に予想を超えた「事件」として記憶されるのは、歌舞伎役者「八代目市川新之助」の誕生でした。
わたしも長く歌舞伎を観ていますが、舞台を観ていて衝撃を受けたような経験、それも子役からそのような衝撃を受けたのは今回が初めて。それが彼の「毛抜」でした。
わたしはこの演目が大好きで、十二代目や当代左團次の舞台は生で観てますし、当代團十郎をはじめとする他の役者の舞台も随分観ていると思いますが、9歳の子供がここまでやるとは全く想像しておらず、呆然としてしまったとしか言いようがありません。
より正確にいうなら、演目発表があった際は、年少者の役ではないという判断で、少々冷ややかな感想すら持っていました。でも、11月の「外郎売」が予想以上のレベルでハードルを突破してたことから、「ひょっとすると、結構健闘してしまうのでは?」くらいには思い直してはいましたが、その予想すら遥かに超える出来で、まったく恐れ入りましたというのが実感です。
具体的には、澱みのない口跡、決まり決まりの形の良さ、そして何より、台詞の節回しが十二代目の「毛抜」を思い出させるような素晴らしいもので、繰り返し十二代目のビデオを見て研究したであろう跡がはっきり見えてくる。おそらく、新團十郎以上に台詞回しは十二代目に似ていると思います。そして、この芝居の最も難しい部分である粂寺弾正の両性愛的な色気は、新之助の持つ天性の愛嬌で巧く処理されており、観ている分には違和感ありませんでした。
9歳の少年役者がここまでできてしまう姿を観たら、同年代の子役たちはもちろん、浅草歌舞伎に出ている若手たちクラスも、大いに刺激を受けるんじゃないでしょうか。
少年時代から名を馳せた初代中村吉右衛門、十八代目中村勘三郎以来の天性の才なのか。とにかく将来が楽しみです。見逃した人は人生損したんじゃないですかね?
あと、2022年の全般的なところに話を移すと、勘九郎、幸四郎、松緑、菊之助等の中堅層が意欲的でいいですね。特に意欲的なのは菊之助ですが、彼の新作の方向性は、残念ながらわたしの趣味とは真逆で微妙。でも、この模索の結果が将来の八代目菊五郎襲名への布石につながることを期待しています。
ただ、2022年の菊之助の代表作は、千本桜の狐忠信、「土蜘蛛」、「藤戸」、「助六」の揚巻なんですよ。加えて、朝ドラ『カムカムエブリバディ』のモモケンみたいな役こそ、この人の本当の味。七代目菊五郎の快楽的な色気というより、山間の湧水冷水のような清々しさこそ、将来の八代目の持ち味だと信じているのは、長年のファンのわたしだけでしょうか?
(ナウシカは公演中止で観に行けませんでしたし、FF歌舞伎はたぶん行かないです。雷蔵がやったものなんか発掘するといいと思うんだけど・・・。)
ま、とにかく、2022年中に無事に歌舞伎座の團十郎襲名が終わってよかった。2023年、歌舞伎をめぐる風景が変わっていくことを期待しています。
●2022年MVP
①市川新之助
②市川團十郎
③市川猿之助
④片岡仁左衛門
【去年の記事】
まずは以下に、2022年の印象に残った舞台を…
1月 一條大蔵卿(勘九郎)、盧清の夢(幸四郎)以上、歌舞伎座、
八犬伝(菊五郎)国立劇場
2月 御浜御殿綱豊卿(梅玉・松緑)、渡海屋・大物浦(仁左衛門)、石橋(鷹之資)
鼠小僧(菊之助・丑之助)以上、歌舞伎座
3月 河内山(仁左衛門)、新三国志(猿之助)、石川五右衛門(幸四郎)、以上、歌舞伎座
盛綱陣屋(菊之助)国立劇場
4月 天一坊(猿之助)、ぢいさんばあさん(玉三郎・仁左衛門・歌六)、荒川の佐吉(幸四郎)以上、歌舞伎座
5月 金閣寺(雀右衛門・松緑)、暫(海老蔵)、土蜘蛛(菊之助)、弁天娘女男白浪(尾上右近)以上、歌舞伎座
6月 ふるあめりかに袖はぬらさじ(玉三郎・喜多村緑郎)、土蜘蛛(菊之助)、信康(染五郎)、
車引(巳之助・松緑・壱太郎、猿之助)以上、歌舞伎座
毛谷村(又五郎・孝太郎)国立劇場
7月 小栗判官(猿之助)、夏祭浪花鑑(海老蔵・雀右衛門、右團次)以上、歌舞伎座
※第三部ナウシカは中止で観れず
紅葉狩(梅枝・松緑)国立劇場
8月 安政奇聞(勘九郎・幸四郎)、闇梅百物語(勘九郎・勘太郎・長三郎)、
新撰組(歌之助・福之助・彌十郎)歌舞伎座
9月 七段目(仁左衛門・雀右衛門・海老蔵)、松浦の太鼓(白鸚)
寺子屋(松王=松緑・源蔵=幸四郎・児太郎)、藤戸(菊之助)以上、歌舞伎座
10月 加賀鳶(芝翫・梅玉)、紅葉狩(猿之助)、荒川十太夫(松緑・猿之助)
夕顔(梅玉・魁春)、祇園恋づくし(鴈治郎・幸四郎・千之助)以上、歌舞伎座
千本桜通し(菊之助・梅枝)国立劇場
11月 勧進帳(團十郎・幸四郎・猿之助)、外郎売(新之助)
助六(團十郎・菊之助・左團次・仁左衛門・新之助)以上、歌舞伎座
六段目(芝翫・歌六)国立劇場
12月 毛抜(新之助・右團次・芝翫)、二人道成寺(勘九郎・菊之助、團十郎)、團十郎娘(ぼたん)
助六(團十郎・勘九郎・玉三郎・七之助・彌十郎、猿之助)以上、歌舞伎座
●わたしの選ぶベストアクト2022
①毛抜(新之助)
②助六(團十郎・菊之助)※11月公演
③ふるあめりかに袖はぬらさじ(玉三郎)
④渡海屋・大物浦(仁左衛門)
河内山(仁左衛門)
七段目(仁左衛門、雀右衛門、海老蔵)
⑤ ぢいさんばあさん(玉三郎、仁左衛門、歌六)
次点 小栗判官(猿之助)、天一坊(猿之助)、新三国志(猿之助)、土蜘蛛(菊之助)、夏祭浪花鑑(雀右衛門)、
外郎売(新之助)、勧進帳(團十郎、幸四郎、猿之助)
2022の歌舞伎は、前年同様、仁左衛門と猿之助が年初から気を吐く展開でしたし、実際素晴らしい舞台が続きました。
でも、です。終わってみれば、やはり、「團十郎襲名」の年として記憶せざるを得ない。もちろん、團十郎も充実していましたが、それ以上に予想を超えた「事件」として記憶されるのは、歌舞伎役者「八代目市川新之助」の誕生でした。
わたしも長く歌舞伎を観ていますが、舞台を観ていて衝撃を受けたような経験、それも子役からそのような衝撃を受けたのは今回が初めて。それが彼の「毛抜」でした。
わたしはこの演目が大好きで、十二代目や当代左團次の舞台は生で観てますし、当代團十郎をはじめとする他の役者の舞台も随分観ていると思いますが、9歳の子供がここまでやるとは全く想像しておらず、呆然としてしまったとしか言いようがありません。
より正確にいうなら、演目発表があった際は、年少者の役ではないという判断で、少々冷ややかな感想すら持っていました。でも、11月の「外郎売」が予想以上のレベルでハードルを突破してたことから、「ひょっとすると、結構健闘してしまうのでは?」くらいには思い直してはいましたが、その予想すら遥かに超える出来で、まったく恐れ入りましたというのが実感です。
具体的には、澱みのない口跡、決まり決まりの形の良さ、そして何より、台詞の節回しが十二代目の「毛抜」を思い出させるような素晴らしいもので、繰り返し十二代目のビデオを見て研究したであろう跡がはっきり見えてくる。おそらく、新團十郎以上に台詞回しは十二代目に似ていると思います。そして、この芝居の最も難しい部分である粂寺弾正の両性愛的な色気は、新之助の持つ天性の愛嬌で巧く処理されており、観ている分には違和感ありませんでした。
9歳の少年役者がここまでできてしまう姿を観たら、同年代の子役たちはもちろん、浅草歌舞伎に出ている若手たちクラスも、大いに刺激を受けるんじゃないでしょうか。
少年時代から名を馳せた初代中村吉右衛門、十八代目中村勘三郎以来の天性の才なのか。とにかく将来が楽しみです。見逃した人は人生損したんじゃないですかね?
あと、2022年の全般的なところに話を移すと、勘九郎、幸四郎、松緑、菊之助等の中堅層が意欲的でいいですね。特に意欲的なのは菊之助ですが、彼の新作の方向性は、残念ながらわたしの趣味とは真逆で微妙。でも、この模索の結果が将来の八代目菊五郎襲名への布石につながることを期待しています。
ただ、2022年の菊之助の代表作は、千本桜の狐忠信、「土蜘蛛」、「藤戸」、「助六」の揚巻なんですよ。加えて、朝ドラ『カムカムエブリバディ』のモモケンみたいな役こそ、この人の本当の味。七代目菊五郎の快楽的な色気というより、山間の湧水冷水のような清々しさこそ、将来の八代目の持ち味だと信じているのは、長年のファンのわたしだけでしょうか?
(ナウシカは公演中止で観に行けませんでしたし、FF歌舞伎はたぶん行かないです。雷蔵がやったものなんか発掘するといいと思うんだけど・・・。)
ま、とにかく、2022年中に無事に歌舞伎座の團十郎襲名が終わってよかった。2023年、歌舞伎をめぐる風景が変わっていくことを期待しています。
●2022年MVP
①市川新之助
②市川團十郎
③市川猿之助
④片岡仁左衛門
【去年の記事】
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