切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『幻の女』 ウィリアム・アイリッシュ 著

2016-02-17 22:22:13 | 超読書日記
ミステリーの名作再読運動中のわたしですが、この本は小学生の頃に読んで以来で、夫が妻を殺した容疑で捕まってしまう場面くらいしか覚えていなかったんだけど、あらためて読み直したら、とんでもない名作でした。でも、この良さは子供には難しかったかもしれない・・・。ことによると、フィッツジェラルドとかチャンドラーより才能のある人だったかもしれないですね~、ウィリアム・アイリッシュって。ということで、簡単に感想。

わたしが読んだのは稲葉明雄さんの翻訳だったんですが、とにかく名文、名訳のオンパレードでカッコいいし、ウィリアム・アイリッシュ(本名コーネル・ウールリッジ)って、フィッツジェラルドやチャンドラーより、世間の苦さとか男女の機微を知っていたんじゃないかって思いました。

物語は、夫婦げんかをした夫が見知らぬ女と一夜だけのデートをして、家に帰ったところ、妻が殺されており、当然殺人の容疑がかかるんだけど、彼のアリバイを証明できるのは、その見知らぬ「幻の女」だけだった・・・といった感じなんだけど、章立てが「死刑執行~前」という形になっていて、読者に主人公のタイムリミットをいやがうえにも意識させる、その構成がなんとも心憎いんですよね。

で、わたしが面白かったところは、アイリッシュの女性を描く筆致。変な女、面倒くさい女、高慢な女、数々の嫌な女を生き生きと描けてしまう筆が、たぶん、相当な実体験を積んでいるんだろうなと想像させます。というのも、想像だけではあんな風に書けないですから。

アイリッシュ本人はバイセクシュアルで、妻に男との浮気(?)知られたのがきっかけで、離婚させられたという、凄いエピソードの持ち主だけど、実際、修羅場もたくさん経験してるんじゃないのかな?

あと、どんどん望みが絶たれていく構成なんかも巧くて、最後の最後まで油断ができないというか、逆にいえば、最後の謎解きがどうでもよくなるほど、その過程過程がスリリングで楽しめました。

わたしはミステリーに関しては、長らくよい読者じゃなかったけど、トリック偏重じゃなくて、こういう大人の雰囲気のある作品ならまた読みたいなあ~と思えましたね。

ということで、お暇ならどうぞ。

PS:映画版もあるそうですが未見。でも、駄作らしいんですよね。なので、作品の余韻が切れたころに観てみます。今観ると、だいぶがっかりしそうなので。


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