切られお富!

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『実録・連合赤軍』 若松孝二 監督

2008-05-22 03:13:08 | アメリカの夜(映画日記)
ちょっと、しばらく外出していなければいけない事情があって、日曜日に新宿テアトルで見たのですが、これはなかなか力作だったなあ~。正直、期待していなかっただけに、逆に手ごたえを感じましたね~。というわけで、感想。

わたしは、ご承知のとおり、この手の話題とは無縁な世代に属しているわけだけど、大塚英志の著書『彼女たちの連合赤軍』あたりから興味を持ったという感じかな~。

実際のところ、客席は随分詰まっていて、多くの中高年に若干の若者が入っているという状態でした。

というわけで、本題。

この映画は3時間もの長さがあるんだけど、大雑把にいうと、最初の一時間は連合赤軍の形成過程や警察に追い詰められていく道程が描かれ、二時間目はリンチ事件で知られる山岳ベースの話。そして、最後の三時間目は浅間山荘という構成になっています。

正直なことをいうと、最初の一時間は、「この映画って世紀の駄作かな」って思えるほどかったるかった。というのも、ニュースフィルムにドラマ部分が重なる形式で、ドラマ部分が低予算のせいか、テレビの再現ドラマみたいな安っぽさだったからなんですよね。

(因みに、ニュースフィルムの画質に合わせて「銀残し」というくすんだ色調のフィルム処理がなされています。)

おまけに、このドラマ部分に出てくる学生運動家の姿が、ささやかながらわたしの知っている彼ら(わたしの時代にもこういう人はいたんだなあ~。)の独特の画一的な話し方とはちょっと違っていて、ガナり立てるような演説口調。これは、どうも学生芝居っぽくて、見ていて辛かった~。

おまけに、ゲスト出演の宮台真司のにやけた芝居にも、わたしは引きましたねぇ~。

が、しかし、中盤からこの映画は俄然面白くなるんです。

その女性らしさからリンチの対象になっていく女性を坂井真紀が熱演。永田洋子役の女優との関係がよかったし、ほとんど素人同然の役者ばかりのこの映画で、プロの女優をこの役に当てた若松孝二の意図はよ~くわかりました。(特に、坂井真紀が自分で自分を痛めつけるシーンの壮絶さは圧巻!ちょっと、特殊メイクはやりすぎだけどね!)

そして、最後の浅間山荘。

低予算映画ゆえに、浅間山の実景を除けば、浅間山荘内部の室内劇として撮影されているわけだけど、手持ちカメラの切迫感、音響処理で室外の空気を表現する手法がうまくマッチして、画面自体はとても充実していました。ここの演出は若松演出としても最良のものだったんじゃないかな?

そして、最も若年の兵士の最後の叫びが、三時間ものあいだ、この映画を見続けた観客のいいたかったことをまさに言い当てたというか、この映画で監督が言いたかったことなのでしょう、この瞬間はカタルシスが得られる名シーンでしたね。ここが、欠陥も多いこの映画を、わたしが二重丸評価する決定打になりました。

で、内容(あるいは「連合赤軍事件」自体)に関する感想をここまで書いていなかったんで、ちょっとだけいわせてもらうと、あえていうなら、わたしは彼らが特別な人間だとは思わない。

集団狂気を止められなかった理由は何なのかという視点に立てば、カルト資本主義化した企業社会だって十分に「連合赤軍」的なんだってことは正直思います。

そういう意味では、あの年代の「共産主義」だの、のちのバブル世代の「ニーチェ」「ポストモダン」「逃走論」にしたって、小難しいことをいっても、結局、暴君みたいな上役(先輩)には抵抗できないじゃん!(勇気なし!)

というあたりが、わたしの感想だし、若松孝二の言いたかったことかなあ~と勝手に思っているんですが、どうなんですかね?

つまるところ、戦時中の軍隊の上下関係から、「共産主義化した人間(?)」から、うつ病患者を多発させているいまの企業社会にいたるまで、日本の集団の特性は、上に向かっていいたいことが言えないこと。

(下には「総括」を要求できるけど、上には「総括」を要求できない、わたしたちの弱さの問題。)

だからこそ、山岳ベースの暴君だった森恒夫と永田洋子が逮捕され、残ったメンバーが雪の中を逃走するシーンは、画面にも妙な解放感がありましたねぇ・・・。(そして、浅間山荘にたどり着く・・・。)

そんなわけで、低予算ゆえの画面の貧しさを越えた、<何か>があったこの映画。

有名原作を元に、たくさんお金を集めて作った、無難で何も言いたいことのない近頃の映画(!)では物足りないという方々に特にオススメします。

ところで、同じく連合赤軍をテーマに映画を撮りたがっていた映画監督・長谷川和彦はこの映画をどう思ったのかな?もう、さすがに諦めたってところか!?

・公式HP

「彼女たち」の連合赤軍―サブカルチャーと戦後民主主義 (角川文庫)
大塚 英志
角川書店

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