切られお富!

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映画と小説、『霧の旗』

2007-12-27 01:38:48 | アメリカの夜(映画日記)
『砂の器』に続いて、松本清張原作の映画ネタ。この小説って、かつて映画化権の争奪戦になったといわれているんだけど、原作を先に読んで、「これは確かに映画に向いてる!」ってわたしでも思いました。小説としても、わたしは好きですね。なにしろ、弁護士がこんなに酷い目にあう小説って滅多にないし、痛快ですよ!しかも、女性の復讐によってですからね!

話は、殺人容疑で逮捕された兄を救おうとしたヒロインが、東京の有名弁護士に「飛び込み」依頼をしたものの、報酬額を理由にすげなく依頼を断られ、兄が獄死したことから、その弁護士に復讐をするという内容。

「貧乏人は無実でも死刑になってかまわないのか」という話は、これからリアルになってきそうな嫌な話ですけど、この小説の魅力は<魔性の女>ともいえるヒロインの魅力にある。

凛として、心が読めない不思議な女性と、その執念。

「何もここまで!」と思う読者もいるでしょうが、女性の復讐心って、理屈じゃないところがありますからね…。

ところで、この作品は二回映画化されていて、一本目は山田洋次監督、倍賞千恵子主演。二本目は西河克己監督、山口百恵主演。

どちらも見ごたえがあるんですが、山田洋次のほうはモノクロで、前半の雰囲気(失望した倍賞千恵子が通りを歩いているシーンの音の処理)は妙にヌーヴェルバーグっぽいかっこよささえあるんですよね。それに、若い頃の倍賞千恵子って、今の<癒し系オバサン>みたいなイメージと違って、キリッとしていてクールなんですよ。(例えば、加藤泰監督の『皆殺しの霊歌』とかね!しかし、最近のイメージは山田洋次の責任が重いなあ~。)

あと、霧の中、殺人現場となる家まで行くくだりは映像美も狙っていて、なかなか山田洋次にしてはカッコよかった。

一方、西河克己監督のほうは、この監督の映像テクが随所活かされ、たとえば、冒頭のタイトルバックでスマートに冤罪の概要を伝える編集なんか、滅茶苦茶秀逸。最初と最後のカットの、意味深で美しい映像も素晴らしく、日活の職人監督だった力量が遺憾なく発揮されています。(因みに、カメラマンは『赫い髪の女』などで知られる前田米造。)

しかし、そのこと以上に凄いのが、なんといっても、山口百恵! 当時彼女は18歳だったそうですが、クールでミステリアスな女性を見事に演じ切っていて、驚嘆します。(今、この役を18歳で演じられる女優がいるとは、わたしには到底思えない。)

年が若いだけに、監督も彼女の演出には少し遠慮があったと回想していますが、もし、21歳で引退せずに、そのまま女優を続けていたら、吉永小百合よりは全然上の女優になっていたでしょうね。

さすがに、わたしはリアルタイムでの山口百恵体験はありませんが、女優・山口百恵論は、大映テレビの「赤いシリーズ」やホリ企画の映画で再検証される必要があるんじゃないですか?

最後に、酷い目に遭う弁護士役を、山田版は滝沢修、西河版は三國連太郎が演じているんだけど、いやらしさでいったら、なんといっても、三國連太郎ってもんでしょう!しかも、三國連太郎を手玉に取っちゃうんですから、百恵ちゃんが!(ここは、さくらももこのマネ!)

そんなわけで、一本しか見ないなら山口百恵版!というわけで、一応、おすすめ!

PS:因みに、この原作って増村保造に監督して欲しかったな~。大映テレビつながりで!

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