先月の新派120周年公演は、泉鏡花の『婦系図』と三島由紀夫の『鹿鳴館』。『鹿鳴館』はむかし市川崑が映画化しているのですが、諸般の事情でお蔵入り状態!対して、『婦系図』には戦前から何度も映画化されているんですよね~。というわけで、観劇後の復習にも、映画はいいですよって感じで、ちょっとだけガイドをしてみましょうか~。
わたしが見たことがある映画版『婦系図』は4本あるんですが、どれもなかなか個性的。
ところで、念のために、『婦系図』のストーリーを大雑把(!)におさらいすると、スリをしていた不良少年・早瀬主悦(ちから)は、ドイツ語学者・酒井俊蔵に引き取られたことから、愛弟子となり、独立します。しかし、早瀬には恩師酒井に隠れて、芸者上がりの女性・お蔦と所帯を持っているという秘密があり、このことを知った酒井は早瀬に、「俺を取るか、女を取るか」と迫り、別れさせてしまいます。そして・・・、といった感じですかね~。
それでは、順を追って解説すると・・・。
①『婦系図』(野村芳亭監督、田中絹代、岡譲二 主演)1934年
これは残念ながら映画としてのクオリティが極めて低いです。というより、その後の「映画のカット割り」や「映画的アングル」の発達がいかにめざましかったかということを知る材料にはなるでしょうけどね~。
というのも、戯画的で書生芝居みたいなものをそのまま映画にしたみたいな作りに見えるからなんですが、まあ、美人じゃないけど可愛いさで人気があった若いときの田中絹代が観れるという価値はありますね…。
因みに監督は、『砂の器』で有名な野村芳太郎監督の父親です。
②『婦系図』(マキノ正博監督 山田五十鈴 長谷川一夫 主演)1942年
前述の映画に比べると、マキノ正博は映像作家だったと思えてしまう戦前の一作。
元芸者のお蔦という役に一番合っていたのは、やっぱり山田五十鈴でしょう。はっきりいって、この映画は女優・山田五十鈴のためにあるような映画で、駅での長谷川一夫演じる早瀬との別れのシーンのカット割りは『決闘 高田馬場』を思わせるトリッキーなもの。
冒頭の花火のシーンといい、庶民的な雰囲気といい、ちょっと『次郎長三国志』の雰囲気もあったりします。
というわけで、まあまあ悪くないですよ。
③『婦系図 湯島の白梅』(衣笠貞之助監督 鶴田浩二、山本富士子 主演)1955年
これは意外や意外!若いときの鶴田浩二が早瀬役をやっているんですよね~。そして、山本富士子が綺麗でけなげ!
このふたりもなかなかなのですが、脇役に杉村春子と森雅之が出演という豪華版。
タイトルにもある湯島の境内もいいのですけれど、衣笠監督って、美術のセンスがいいんですよ。
この監督が、黎明期の映画界で女形として活躍していたという話はつとに有名ですけれど、監督転向後も、役者時代の経験を生かして、役者の歩数に従ってセットの図面を指定したなんて話が残っています。
で、この映画の場合、早瀬とお蔦が住んでいる家の二階のセットが風情のあること!空間のつなぎ方にセンスがあるんでしょう。
因みに、美術助手に、増村保造監督のカルトな名作『盲獣』の大胆な美術で知られる間野重雄氏の名前があります。
一応、オススメ。
④『婦系図』(三隅研次監督 市川雷蔵 万里昌代 主演)1962年
最後は、この4本中唯一のカラー映画にして、わたしの一番の推薦作!
再三にわたって映画化され、舞台にもなったこの作品を、シャープに映像化した三隅研次監督の手腕に脱帽!
脚本は溝口健二とのコンビで知られる依田義賢ですが、省略されがちなこの原作の設定を巧みに脚本に織り込んでいますし、いま見直して一番説得力があるのはこの作品だと断言できます。
そして、やっぱり雷蔵が魅力的!お蔦の万里昌代は存在感はないけれど、綺麗で哀れ。
というわけで、文句なしのオススメ!
・参考
以上、ご興味のある方は、原作の『婦系図』に加えて、別れの場面の戯曲化「湯島の境内」もどうぞ!
わたしが見たことがある映画版『婦系図』は4本あるんですが、どれもなかなか個性的。
ところで、念のために、『婦系図』のストーリーを大雑把(!)におさらいすると、スリをしていた不良少年・早瀬主悦(ちから)は、ドイツ語学者・酒井俊蔵に引き取られたことから、愛弟子となり、独立します。しかし、早瀬には恩師酒井に隠れて、芸者上がりの女性・お蔦と所帯を持っているという秘密があり、このことを知った酒井は早瀬に、「俺を取るか、女を取るか」と迫り、別れさせてしまいます。そして・・・、といった感じですかね~。
それでは、順を追って解説すると・・・。
①『婦系図』(野村芳亭監督、田中絹代、岡譲二 主演)1934年
これは残念ながら映画としてのクオリティが極めて低いです。というより、その後の「映画のカット割り」や「映画的アングル」の発達がいかにめざましかったかということを知る材料にはなるでしょうけどね~。
というのも、戯画的で書生芝居みたいなものをそのまま映画にしたみたいな作りに見えるからなんですが、まあ、美人じゃないけど可愛いさで人気があった若いときの田中絹代が観れるという価値はありますね…。
因みに監督は、『砂の器』で有名な野村芳太郎監督の父親です。
②『婦系図』(マキノ正博監督 山田五十鈴 長谷川一夫 主演)1942年
前述の映画に比べると、マキノ正博は映像作家だったと思えてしまう戦前の一作。
元芸者のお蔦という役に一番合っていたのは、やっぱり山田五十鈴でしょう。はっきりいって、この映画は女優・山田五十鈴のためにあるような映画で、駅での長谷川一夫演じる早瀬との別れのシーンのカット割りは『決闘 高田馬場』を思わせるトリッキーなもの。
冒頭の花火のシーンといい、庶民的な雰囲気といい、ちょっと『次郎長三国志』の雰囲気もあったりします。
というわけで、まあまあ悪くないですよ。
③『婦系図 湯島の白梅』(衣笠貞之助監督 鶴田浩二、山本富士子 主演)1955年
これは意外や意外!若いときの鶴田浩二が早瀬役をやっているんですよね~。そして、山本富士子が綺麗でけなげ!
このふたりもなかなかなのですが、脇役に杉村春子と森雅之が出演という豪華版。
タイトルにもある湯島の境内もいいのですけれど、衣笠監督って、美術のセンスがいいんですよ。
この監督が、黎明期の映画界で女形として活躍していたという話はつとに有名ですけれど、監督転向後も、役者時代の経験を生かして、役者の歩数に従ってセットの図面を指定したなんて話が残っています。
で、この映画の場合、早瀬とお蔦が住んでいる家の二階のセットが風情のあること!空間のつなぎ方にセンスがあるんでしょう。
因みに、美術助手に、増村保造監督のカルトな名作『盲獣』の大胆な美術で知られる間野重雄氏の名前があります。
一応、オススメ。
④『婦系図』(三隅研次監督 市川雷蔵 万里昌代 主演)1962年
最後は、この4本中唯一のカラー映画にして、わたしの一番の推薦作!
再三にわたって映画化され、舞台にもなったこの作品を、シャープに映像化した三隅研次監督の手腕に脱帽!
脚本は溝口健二とのコンビで知られる依田義賢ですが、省略されがちなこの原作の設定を巧みに脚本に織り込んでいますし、いま見直して一番説得力があるのはこの作品だと断言できます。
そして、やっぱり雷蔵が魅力的!お蔦の万里昌代は存在感はないけれど、綺麗で哀れ。
というわけで、文句なしのオススメ!
・参考
以上、ご興味のある方は、原作の『婦系図』に加えて、別れの場面の戯曲化「湯島の境内」もどうぞ!
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