切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

<追悼> 映画女優 原節子

2015-11-27 21:02:52 | アメリカの夜(映画日記)
とっくの昔に引退した人の訃報が、なぜこんなにも映画ファンの心を揺るがすのか!まだ現役の女優は考えてみるべし!というわけで、極々私的追悼記事です。

42歳で引退して、95歳で亡くなったということは、「原節子」じゃない時間の方が長いわけですよね。でも、映画を観たことのある人なら、忘れ難い印象が残っている。つくづく不思議な人だと思います。

通常、この人を語る場合、小津安二郎の『晩春』、『麦秋』、『東京物語』あたりが語られておしまいという感じがあるのですが、わたしは小津作品の原節子は、あくまで「小津作品中の原節子」であって、彼女の魅力の一部しか表していないという気がするんですよね。

で、原節子の天真爛漫でのびやかな部分を一番画面に焼き付けた監督は、じつは成瀬巳喜男なんじゃないかと思うんです。『山の音』も悪くはないんだけど、夫婦の日常を描いた『めし』と『驟雨』が傑作。特に『驟雨』がわたし的にはベストですね。これは、たぶん佐野周二との相性がよかったんじゃないかということなんですが・・・。

あと、個人的に好きなのは、黒澤明の『白痴』。え~と言われそうですが、映画的に失敗していても、スケートをしている悪魔的な原節子には、小津作品にはない彼女の表情がある。

他では、川島雄三の『女であること』。あんまり凄い傑作ではないんですが、歌舞伎座のロビーが出てきたり、小津作品にはないタイプの感情が描かれたりで、カラー作品の彼女の衣裳がよいなど、なんだか忘れ難いんですよね。

また、戦後早い時期の木下恵介の『お嬢さん乾杯』は、このひとの人柄で乗り切ったみたいな芝居ながら、やっぱり佐野周二との相性がよいんでしょう。最後ホロッとする作品になっています。

で、やはり大トリは最後の出演作、東宝の大作映画『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』。この映画では大石の妻役を演じていますが、何といっても大石役が松本白鸚!吉良が先代の市川中車。今の猿翁が團子の名前で出ています!他にも幸四郎・吉右衛門兄弟や先代又五郎など、歌舞伎役者出演多数!ということで、歌舞伎ファンなら観なきゃいけない映画でしょう。彼女のラストキャリアにふさわしい大作映画でした。

ということで、最後にひとこと。

原節子の魅力のひとつって、あのバタ臭い容姿に反して、独特の台詞の間だと思うんですよね。で、あの間とか雰囲気に似た存在というと、わたしには現在一人しか思いつかない。

それは、坂東玉三郎丈です。原節子的何かを継承しているのは絶対この人だけでしょう。玉三郎の役者として、演出家としての原節子評をいつか聞いてみたいと、前から思っています。誰か、質問してください!今年の「先代萩」の御殿を観て確信しました!これはわたしの思い過ごしでしょうか!


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2 コメント

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お久しぶりです (蝙蝠お高)
2015-12-19 06:55:02
さすがですね。
私も「白痴」が好きです。
原節子、三船、森の3ショツトは何もしてなくても、ただ写っているだけで映画そのものですね(スチールでさえ)。
雪原に黒のロングコート羽織って立ち尽くす原と三船の壮絶なまでの美しさ。
ある意味バタくさい、所謂「濃ゆい」その存在感はホントに希有なものでした。
ただ個人的には小津作品の原節子は何かグロテスクで…単なる女性趣味の問題なんでしょうけど。
あと、やっばり「河内山宗俊」でしょ!
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コメントありがとうございます。 (切られお富)
2015-12-21 22:39:20
ご無沙汰してます。

「白痴」、やはりミステリアスでよいですよね、原節子が。

あと、さすが鋭いところを突いてきますね、「河内山宗俊」とは。

ただ、なんで挙げなかったのかというと、蓮実重彦が新聞に書いた追悼記事で、「山の音」と「河内山宗俊」を挙げていたということと、「河内山~」の権利を持っている会社が大嫌いだというのが理由です。

お察しいただけたでしょうか。

それと、原節子といえば、狛江市民だったんですよね。
ということで、またコメントください!

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