切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』 岡崎京子 著

2006-12-11 01:22:16 | 超読書日記
最近は仕事がらみの本ばかり読んでいて小説はご無沙汰だったんだけど、この本は久々に大当たりだったかなあ~。カリスマ的な人気を誇る漫画家・岡崎京子の初の小説集で、交通事故(現在も療養中)に遭う直前まで書かれたというのがこの一冊。そして、よしもとばななによる推薦の帯付きというのはどうでもいいのだけど(笑)、とても痛くて、とてつもなくテクニカルな短編集です。ほんと、凄い!

短編というより掌編というようなサイズの作品ばかりが納められた本なんだけど、同じ短さでも中原昌也あたりとは才能のサイズが違うなっていうのがわたしの感想。

表題作の「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」という作品が、個人的には一番好きで、地に足の着かない気分を一種の健忘症(?)というメタファーに落とし込むあたり、只者でない文章センスを感じるし、せつなさでいえば、村上龍の短編「悲しき熱帯」なんかを連想させる作品だと思う。

岡崎京子のマンガというと、一般に世評が高いのは『リバース・エッジ』なんだろうけど、わたしにはどうも文学的過ぎるというか、感傷的過ぎるような気がして、むしろ後期(といっちゃあ、ホントはいけない?)の「ヘルター・スケルター」の容赦のなさを熱烈に愛している。

で、この本に納められている作品全般にいえるのは、感傷的というより、この容赦のなさ。当時の作者の心情とどこかで繋がってる話なんだろうけど、「触ると切れる」みたいな印象を持つ作品が多いとわたしは思う。

そして、急に思いついたんだけど、この人の作品って、ピストルより断然刃物が似合うなあっていうのも、いつも感じるところかな。(自傷行為の話とかね。)

さて、急に思いついたついでで暴走しちゃうと、岡崎京子も刃物が似合うけど、芝居の「切られお富」では、お富は出刃包丁くわえて、花道を引っ込んじゃうんだよ~、なんて、全然関係ないですね・・・。

というわけで、まったくとりとめがないけれど、今日も疲れ気味なので、御仕舞。

とにかく、心に茨か刃物を持っている人だけにオススメします。

PS1:アマゾンのレビューを読んでて笑っちゃったんだけど、岡崎京子は相当本を読んでて、この本を書いてます。ヌーボーロマンくらい軽く通過している感じで。(あと、鈴木いづみも入ってる。)ただ、教養をひけらかさない都会人のセンスがあるから、判らない人には判らないだけ。わたしは文章家としても相当なテクニシャンだと思いましたよ、真剣に!

PS2:この本の隠れたよさは、祖父江慎(しりあがり寿の本などを手掛けている人)の装丁。表紙もいいけど、表紙をとると、「嗚呼、岡崎京子!」って感じがします。祖父江氏の彼女に対する愛情を感じるな~。

ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

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