第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

どんな医師でも必要な診断エラーTips 10 Q&A

2018-08-21 23:17:55 | 診断エラー学

みなさまこんにちは。

今日はどんな医師でも必要な診断エラー Tips 10 Q&Aをお送りいたしますね。毎日何かに追われながらも、研究に参加してくれるメンティー達のおかげで平静の心で頑張れています。自分の診断エラーの執筆や研究などのまとめが進んでおりますので、重要なTipsのみをSIDMのホームページの情報に準じてUPしておきます。出典は下にあります。

Q:診断エラーって何?

A:The National Academy of Medicine(旧米国IOM)による診断エラーの定義では①患者の健康上の問題に対して正確かつ適切なタイミングで解明できていない、また②その解釈を患者に伝えることができなかった場合、と定義しています。簡単に言えば、診断エラーとは、いわゆる診断の誤り:狭義の誤診(Wrong)、診断の遅れ(Delay)、診断の見逃し(Missed)とすることができます。

 

 Q:診断エラーについてどこまでわかっている?

A:診断エラーは米国の推定で毎年1,200万人に何らかの影響を与え、他の医療過誤(手術ミスや患者取り違えなど)よりも患者に与える有害性は大きいことが示唆されています。経済的損失も計り知れなく、原因としては適切な診断がされなかったことで、疾患が進行し重症化したり、高額な検査を頻用したり、医療訴訟の増加、偽陽性の所見を治療してしまうなどの事で結果的に医療費が高額になってしまいます。診断エラーの結果として、米国では毎年1000億ドル(12兆円)以上が無駄になっていると推測されています。

 

Q:どのくらいの頻度で診断エラーは実際には起こっていますか?

A:重篤な疾患に限れば、おおむね10人に1人の割合で最初の診察時に診断エラーが起こっているとされています。

 

 

Q:診断エラーの情報はどうやって集めたら良いでしょうか?

A:診断エラーを解析するための主な情報源は次のとおりです。先行研究の論文は多数あるためにデザインやモデルを本邦のもので調整する必要があります。すでに僕が日本の判例データバンクから入手できる医療裁判データ3000例以上を解析し研究成果を報告中です。

剖検データ

診断エラーを経験した医師からの報告

診断エラーに遭遇した患者からの報告

病院のインシデントレポート

緊急入院の統計

診断エラーを測定する研究

判例データ 

 

Q:しかし、医療裁判の判例が必ずしも医療的にただしい情報とは言えないでのはないでしょうか? 

A:その通りです。判例のデータは医療現場の情報を正確に反映しているとは言えませんが、患者に危害を与えうる最も重要な診断エラーについて多くの情報が細かく記載があり、それを得る事ができます。さらに大事な情報源として患者からのクレーム分析は、カルテなどからの得られる医療記録以外に、他のデータソースからはまず得られない患者側からの視点の情報も得る事ができます。

 

Q:診断エラーはどのくらいの頻度で有害事象や死亡につながってしまうことがありますか?診断エラーによる死亡率はどのくらいですか?

 A:診断エラーは米国内で推定年間1,200万人に影響を与えており、他の医療過誤の原因を足して合わせたものよりも大きな影響が出ていると推測されています。米国内の病院のみの調査では、診断エラーが原因で毎年4万〜8万人が死亡しており、少なくとも多くの患者が後遺症をかかえているのではと見積もられています。すべての臨床現場を対象に調査した場合にはさらにそれ以上に多い可能性が高いです。

 

Q:診断エラーの原因は何ですか? 

A:診断には、「人的要因」と「システム要因」の双方の要素が含まれています。医学的知見や医療の爆発的な成長は、ある意味両刃の剣であり、診断はより正確に可能になった一面で、同時に複雑性が増しています。人的要因の観点からは、誰しも日々の生活で「勘違い」などの認知の歪みに影響を受けているとされます。医師も同様に、診療の現場で認知機能の限界とバイアスを受ける事がわかっています。特に近年の医学における複雑性は人類が経験したことのないレベルです。既知の疾患はすでに1万疾患以上、検査項目は5000項目以上ありますが、対象となる主訴や症状はあまり変わっておらず多くはありません。したがって、いずれの主訴や症状にも何百までとはいかなくても、数十種類の思考過程や検査の組み合わせなどを的確に選んでいく必要があります。

一方で、医療のシステム要因は、数百から数千におよぶ異なる思考プロセスや診療行為、手技やテクノロジーなどが複雑に絡み合ってリンクしています。もともとこれらの医療システムは、患者の安全性を担保するために構築されてきましたが、これらの複雑になればなるほど、相互のコネクションの数が増えるほど、情報の誤った伝達、故障のリスクなどが高まってしまうのです。

 

Q:ある科の方が他の科よりも診断エラーをおこしやすいなどはあるのでしょうか?

A:実はあります。診断エラーはすべての診療領域で医療訴訟の主な原因となっています。米国の調査では、プライマリケア領域、救急医療領域、放射線医学領域だけでなくほとんどの診療領域で診断エラーが訴訟理由の一位になっています。外科系領域においても訴訟理由として2番目に多くなっています。診断エラーの中でも診断の見逃し(Missed)はプライマリケアや救急医療で最も多いとされます。一つの理由としては単純に初診で訪れる患者数が圧倒的に多いためですが、一方で複合的に既往を持っていたり、病態が進行して症状がはっきりする前の早い段階で患者が受診していることが原因と考えられます。

 

Q:診断エラーのほとんどは珍しい疾患なのではないでしょうか?

A:実は違います。診断エラーにより後遺症や死亡という結果に至った原因疾患の実に75%が、かなり一般的な疾患である血管系疾患や感染症、そして悪性腫瘍で占められていました。よく思われるように診断困難例に陥る珍しい疾患は、確かに見逃し(Missed)があったり、診断に至るまでにかなり時間がかかってしまう事が多くなります。しかし診断エラー自体は脳卒中、敗血症、肺癌などのかなり一般的な疾患で圧倒的に多く起こっており、その与える影響はかなり大きいものになります。ゼブラな疾患(珍しい)でもコモンな疾患でも診断プロセスを改善していく事で診断エラーを減らすための努力をすることがとても重要なのです。

 

Q:診断エラーと、その有害性を減らすために、我々は何ができるか?

 A:The Society to Improve Diagnosis in Medicine (SIDM)は診断エラーによって患者に害を与えない世界を目指しており、 保健システム、医師だけでなく、看護師、放射線科医、検査技師、研究者や患者など全ての人が「診断の向上」に対して役割を果たすことを目標としています。SIDMが掲げるビジョンは下記です。

・診療レベル、システムレベル、政策レベルで、診断の向上を最優先事項とする。

・有害性を減らすための、診断の正確性向上やエラーの減少を対象とした研究を進める。

・正確かつ適切な診断を行うために知っておくべき障害とそれらの解決方法の両方を医師や他職種に広めるために、医学教育システムを改革する。

・実臨床の現場で、医師だけなく、患者や他職種も巻き込み、診断能力の向上をはかる。

・診断向上のためのすべての業務で、患者とその家族の声が入るようにする。

 

 

 特にここはMust Knowです。これが診断エラーの世界の定義です。馴染みのある方も、初め手の方もこれを機に親しんでいただければ幸いです。

 

What is Diagnostic Error?

The National Academy of Medicine (formerly the Institute of Medicine [IOM]) defined diagnostic error as the failure to (a) establish an accurate and timely explanation of the patient’s health problem(s) or (b) communicate that explanation to the patient. Simply put, these are diagnoses that are delayed, wrong, or missed altogether. These categories overlap, but examples help illustrate some differences:

 

A delayed diagnosis refers to a case where the diagnosis should have been made earlier. Delayed diagnosis of cancer is by far the leading entity in this category. A major problem in this regard is that there are very few good guidelines on making a timely diagnosis, and many illnesses aren’t suspected until symptoms persist, or worsen.

A wrong diagnosis occurs, for example, if a patient truly having a heart attack is told their pain is from acid indigestion. The original diagnosis is found to be incorrect because the true cause is discovered later.

A missed diagnosis refers to a patient whose medical complaints are never explained. Many patients with chronic fatigue, or chronic pain fall into this category, as well as patients with more specific complaints that are never accurately diagnosed.

 

http://www.nationalacademies.org/hmd/Reports/2015/Improving-Diagnosis-in-Healthcare.aspx

https://www.improvediagnosis.org (診断エラーのホットTipsを学べると思います)
 
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. 2015. Improving diagnosis in health care. Washington, DC: The National Academies Press.

 

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