憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―アマロ― 7  白蛇抄第15話

2022-09-07 07:42:04 | ―アマロ―  白蛇抄第15話

品物のように売買される惨めさと、このまま下にいて、何人も男の欲望を拭う惨めさとどっちがましだろうか?
どのみち、先の運命はかわりはしない。
どのみち、これ以上惨めになんかなりゃしない。
「でも、ジニーはどうだろう?」
人の命を犠牲にして生きてゆく海賊なんかに抱かれてるより、見知らぬ異国であっても、精一杯、稼いだ金で買われるなら、この方が自分を腐敗させはしない。
いずれアマロもジニーと同じ運命ではある。
ならば、いっそ、アマロもシュタルトに売渡される方をえらぶべきであろう。
だが、こう考えたに関らずアマロはジニーが此処に残る事を選択するかも知れないと思った。
アマロはジニーがここに残ると選択するかもしれない一つのわけにきがついた。
それに気がつくと言う事はアマロもまたジニーと同じように、ロァを愛し始めているということである。
『ジニーはロァの側に居たい。
ただ、それだけのために此処に残ると云うかもしれない』
アマロは自分の心をジニーに照り返して見ているとは気が付かずジニーの気持ちを類推したにすぎないつもりだった。
じっとアマロを見ていた男に
「もう。いいわ」
と、話す事も聴く事もなくなったとつげて、アマロは男の脇をすりぬけた。
アマロが歩み去ってゆくのを見送っていた男はアマロが下に行く扉に向かうのを
みとがめた。
「姐さん。いかねえほうがいいといったろう?」
やけに男は執拗にアマロを制止する。
「なんだっていうの?」
アマロのきつい眼差しは「お前の言う事に何故したがわなければならない?」
と、男をといただしていた。
「ジニーに逢いたいってんだろ?でもな、いいか?今は風がいいんだ」
男の言葉はアマロを説得できない。
「風がいい?それがなんだっていうの?」
男のわけの判らない言葉に反駁をかえしながら、アマロの心の隅では男の言いたい事をつかもうとしていた。
「判らねえか?帆をそのままに船は勝手に進んでいるんだ。仲間は今、手隙なんだ」
「え?」
アマロが男の言う意味をやっと解した。アマロが今ジニーが下で何をしているか判ったと知った男は今度こそずばりときりこんできた。
「え?最中ってやつだ。そんなとこに姐さんがいって、ジニーが喜ぶかよ?いっそう、惨めじゃねえか?それとも、親方に棄てられた女を笑ってやりたくていくってのかい?」
「あ、あなた・・。あなただって、ジニーを・・」
ジニーの惨めさがわかっていながら、ジニーを弄ぶ男のひとりじゃないのか?
そんな男にかりそめにでも、ジニーをあざ笑うのかなぞといわれたくない。
アマロの怒りが言葉になりきるより先にアマロの平手打ちが男の頬で高くなった。
たたかれた頬を刷り上げながら男はわらった。
「なるほどな。親方がきにいるわけだ・・。だが」
男の言葉をこれ以上つながせるアマロでなくなっていた。
「いずれ、私もジニーと同じ?」
アマロにさきを言われた男は、こどもじみた、言い争いをさけるためか、静かな口調をくずそうとはしなかった。
「そん時は、俺にやった事を後悔するぜ」
アマロは出来るだけ、いけ高々にいった。
「そうね。あなたみたいに愚劣な男にだかれなきゃならないほどの後悔にまさるものはないわね」
怒るかと思った男は寂しそうにわらった。
「男って生物はどうしようもねえんだ。
ばかみてえに欲望につんのめっちまう。
女だけが惨めなわけじゃねんだ。
だけどな、こんな男の惨めさを黙って許してくれる。
これが、女なんだ。
まあ、姐さんは親方だけのいい女でいれるうちは、こんな事はわからねえさ」
男のいう「後悔」の意味はアマロが考えた事とは程遠い。
優しさと云うものの別の側面をもてなかったアマロに後悔するという意味だと判ると少しだけ男をゆるせた。
「皆が、あなたみたいにジニーを玩具に考えずにいてくれてるというわけ?」
それならば、せめてもジニーもいつか先のアマロも、ほんのすこしだけ、多くの男に嬲られる惨めさをうすめてゆけるかもしれない。
「まあ。姐さんがあいたいっていうなら、もう、とめやしないさ」
「う・・ん」
確かに男の言う通りジニーがその最中なら、今、無理に会わない方がいいと思った。



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