憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―アマロ― 5  白蛇抄第15話

2022-09-07 07:42:40 | ―アマロ―  白蛇抄第15話

「ロァ」
居高々に呼び捨てにしてみせると、一気にいいつのってみせた。
「私は、公爵夫人ではありませんことよ。伯爵夫人でしたの。もっとも、海賊風情の愛人に身をおとすのですから、どちらでも、よいことですけれど」
棘のある言葉をぶつけられたロァは、怒るかと思った。
だが、
「おまえは、俺を充分にそそる女だ」
男にこびることない、女の自尊心の高さをしてロァはいう。
「俺は鼻っ柱の強い女を、こいつでくみしく男だ。それを今からめにみせてやる」
ロァは着ていた服をぬぎだした。
下着の中でこんもりと存在を主張している物で、アマロを組み敷くと豪語すると
「伯爵夫人に失礼になってはいけまい?」
素裸になった男は浴室のドアをあけた。
「俺のローブをかえすきはないか?」
アマロは黙って首をふった。
「ベッドの中でまっているか?それとも、ドアを開けてそのまま海に走り出すか。今おまえがきめろ」
卑劣。ロァの言葉を聴くアマロの胸に湧いた思いはその一言である。
アマロはロァのバスローブを脱ぎ去り、思い切りロァに投げ付けると同時にベッドの中に潜り込んで裸体を隠した。
「いきてゆくか・・・」
楽しげに男は呟くと、汗を流した後に渡される「女」を思い浮かべほくそえんだ。
アマロはいちまい上手の男に思いのまま操られる自分に悔し泣きをうかべながら、運命の時が僅かに伸ばされた事だけを感謝した。
「ところで・・おまえ。名前は?」
せめて、即物的な物扱いにならぬことだけをよろこぶしかない。
「アマルシァ・・・。アマロで・・いい」
ロァに屈服する以外生きる法がない。
「アマロか・・。大事にしてやるさ」
ロァの呟きがドアに半分隠れ、アマロは裸体の身体を包んだケットを口に押し当てるとロァに聞こえぬように声を殺すと大声でないた。
泣いて、諦める以外ない。
ロァの身体に幾つか残った刀傷は、ロァの運命の強さをものがたっていた。
アマロはその庇護にはいるいしかない。
これだけはわかっていた。

ゆっくりとバスタブに浸かった男がローブを纏い、アマロの側ににじりよった。
「俺は、たかが、海賊風情でしかないが、女まで略奪するのは主義じゃない」
ケットから覗いたアマロの髪にふれると、ロァは海図を開いた机の前に歩み寄ると一本の葉巻に火をつけた。
紫煙があがり、アマロはその葉巻の香に目を閉じる事になる。
夫、ケジントンが愛飲していたと同じ香の葉巻の香に目を閉じればそこにケジントンがいる錯覚にとらわれる。
「ふううん?」
アマロの様子に何おかを悟ったロァはたずねた。
「お前の亭主だった男は・・」
にやりとロァが笑ったことなぞアマロはしらない。
「子供を生ませる交わりしか、みせてくれなかっただろう?」
貞淑な妻につつましい交わりを与え、伯爵の血筋が継承されてゆく。
「それが、どんなにつまらない事でしかなかったか、おまえはしるまいの」
ロァがなにをいいたいのか?
その現実を身をもって知らされるのは寸刻のちのことである。

熱る身体が熱の逃げ場所をもとめアマロの息は荒い。
ロァに与えられたことは、アマロの屈服でしかない。
ロァに抗う事が出来ないのは、しかたがないことではある。
だが、アマロの思い立った「ロァを屈服させてやる」ことと逆の事が、アマロの身体におきた。
ロァの恣意でしかない屈辱な痴態であるのに、アマロは、己の身体に意志など通じないことをしらされ、堪えきれず嗚咽をもらした。
世間知らずの伯爵夫人が、知らされた肉体の暴走はかんぷなきほどにアマロの精神をいためつけ、その底にロァに縋る(女)をうみはじめている事さえきがつかせず、ロァの執拗な愛撫にアマロの自我はすでに崩壊していた。

アマロに覚醒がおとずれるまで、ロァに引きずり落された誨淫はアマロを深い眠りをあたえつづけていた。
かすかな葉巻の香がアマロの嗅覚を刺すと、アマロの意識は混濁を整頓しはじめていた。
「ケジントン・・?」
葉巻の香はアマロをケジントンの屋敷で悪夢にうなされたかとおもわせていた。
だが、身体の芯に残る快感の残骸がすぐさま、アマロの勘違いだとおしえはじめてゆく。
「そうだった・・」
アマロは海賊の虜囚になったのだ。
ベッドの中にはアマロ一人がみっとも無く裸体をさらけている。
あたりをみまわしてもアマロの裸体を楽しんだ男の姿はなかった。
たった一人の寄る辺が、ロァでしかないことが、おかしくて、アマロはふんとわらおうとした。
どこに逃げる事さえも出来ない海の上で、尚且つ、海賊の頭領に縋るしかない自分がいっそうみじめである。
そのうえ。
思い出しても羞恥のさたでしかない。
ロァの手管にものの見事に陥落した。
「娼婦以外のなにものでもない」
伯爵夫人だった娼婦と、海賊。
愚劣に似合いすぎる男と女になりさがり、醜い欲望におぼれきった。
「それでも、しんでなるものか」
もっと、惨めに成ってもけして、生きる事は放棄しない。
この意味に置いて、ジニーは朋友ともいえる。
下に降りたジニーは、もっと惨めに成っても生きてゆこうとする人生の先達である。
そのジニーの安泰の位置を奪い去ってまで生きようとしたアマロだ。
「つよくならねばならない」
子供に残せる事は何一つなくなったけれど、敗退に泣く生き方だけはせおうまい。
それだけが(母)の生き様と云うあかしを立てる唯一の法だときめた



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