憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ブロー・ザ・ウィンド ・・終

2022-12-14 16:36:17 | ブロー・ザ・ウィンド

レフイスの家にたどり着くと
「シャワーをあびてらっしゃいよ」
海から上がった身体を無造作に拭いただけの身体に
アランはTシャツを羽織っていただけだった。
レフイスはアランが浴室の意の中に入りこむと
浴室の前の洗面台に栓をして、
タオルに包みこんだ小箱を置いて蛇口を捻った。
洗面台いっぱいに水が貼られると
水道の線を細めてレフイスはその場を立ち去った。
こうしておけばシャワーを浴び終えたアランが
小箱に気が付く事であろう。
十分も立っただろうか。
アランがレフイスを呼ぶ声が聞こえた。
「なに?」
用意されたバスタオルを纏ったままのアランは
不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
アランの表情にレフイスはそう尋ねたのに過ぎない。
「あの?これさ、こうだったっけ?」
アランのいうものをレフイスは見た。
「あれ?」
洗面台の中の小箱はレフイスが受取った時とは違って
一面が薄い緑の藻におおいつくされていた。
「だっけ?」
「ううん」
おかしな事があるものだとレフイスは思った。
アランに渡された小箱は
確か、白い大理石の表層を見せていた筈だった。
レフイスの訝しげな表情を見て取るとアランは
「だよなあ」
不可思議な思いのまま小箱を手に取ると
水の中につけこんだまま箱を開いて見た。
『リングだ』
思いあったった事をアランは確かめるために、
リングを箱の中から取り出すとリングの内側を覗いて見た。
箱の様子から考えても、
もう随分長い間箱は海中に眠っていたに違いなかった。
けれど、プラチナのリングは腐食を免れ、
アランの手の中でしっかり輝いていた。
外の様子と中の違いがアランを当惑させていたが
アランはリングに掘り込まれた文字を拾い取るように何度も読み直した。
「レフイス」
「なに?」
「きみのものだ」
「え?」
そこに彫られた字は間違いなくレフイスへのテイオからの思いだった。
19**・7・21・レフイスtoテイオ。
もう1つのリングには同じ様にやはりレフイスの誕生日が刻み込まれ、
テイオtoレフイスと刻み込まれていた。
さらに二人の出発がこの時であるという題字も刻み込まれていた。
「・・・・・」
レフイスは渡されたリングをずいぶん長い間・・・・眺めていた。
が、やがて一言
「そっかあ」
と、言ったけど、何もかも理解したレフイスだったのに、
もう、涙を流さなかった。
アランは現れた少年の一言一言を今更の様に思い返していた。
「レフイス。あの・・・」
少年がテイオの化身だったのだろう。
テイオの言った言葉をアランはレフイスに告げるつもりだった。
だが、レフイスはアランの言葉を沈黙の中に紡いだ。
「アラン。何があっても、もう、まよわなくてよ」
テイオが見越したとおり
確かにアランに惹かれているレフイスの思いはレフイス自身が認めた。
「あ・・・・」
「貴方が一人で海に潜った時良く判ったわ。
このまま浮んでこないんじゃないかって
恐ろしく不安な気持ちが私を捉えるたびに、アラン。
私は、貴方を愛し始めてるんっだって。
だから、テイオのことは・・・・」
レフイスの言葉を聞いたアランは
黙りこくったままの唇をレフイスの唇に重ねた。

翌朝二人はテイオの墓に向かった。
登り詰めた頂上にはやはり涼やかな風がふいていた。
アランが思った通り、近づいた墓にはちかりと薄紫に光る物があった。
アランがテイオの墓にかけられた
自分の紫のペンダントを無造作に取るのを見
たレフイスは小箱をテイオの墓の前に置いた。
黙ったままアランは頷いた。
レフイスはしっかりとアランを見つめてやはり、こくりと頷いた。
アランはレフイスの首に薄紫のペンダントをかけた。
レフイスが選び取った人生はまたアランが選び取った人生でもある。
『一緒にいきてゆこうな』
無言のまま囁くアランの瞳にレフイスはしっかりと頷くと
アランの胸の中に初めて自分から飛びこんで行った。

涼風にあおられながらひき返した道の途中で
アランはテイオの墓をふりかえった。
アランの目の中には崖を上った少年の姿があった。
自分の墓にもたれかかり少年は二人を見送っていたが
アランの振りかえった姿に少年が小さく呟くのが
アランには聞こえた気がした。
それはアランには
「コングラチレーション」
と、きこえていた。
ハッピーと言うのはあるいは偶然の産物であるかもしれない。
自然と成る事に付いてそういうのかもしれない。
けれど同じオメデトウでありながら
コングラチレーションは本人の努力の結果による御祝いの言葉である。
その言葉を少年が選んでアランに伝えたのは、
アランが努力の末にいとめたレフイスの恋心に
少年こそが一番感謝している
と、いう事をいいたかったのかもしれない。
『任せて置けよ。もう、安心してねむりゃあいいんだよ』
アランが胸の中でそう呟くと
フッと少年の姿がかききえ、
白い墓石の上を風ばかりがふき過ぎていった。
                 
                              
― 完 ―



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