憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ブロー・ザ・ウィンド ・・6

2022-12-14 16:38:57 | ブロー・ザ・ウィンド

小さくこごまってレフイスは膝を抱えていた。
自分でも何故アランの申し出を受ける気になったのか判らなかった。
只、テイオの母親の「忘れてくれるほうがいい」という言葉に
そうじゃないと言えなかった後悔が
アランの申し出を代償のように受け入れさせたのかもしれない。
『テイオが生きてた事を知ってくれる人間がほしい』
テイオの母親の心の底。
本音はそれだったろうけど、
諦めるしかない事を虚受しようとしている
彼女への反発であったのかもしれない。
納得しきれない思いを言出せないまま、
レフイスにとってアランの言葉は
押し殺した思いを一気に開放させてしまったのかもしれない。
それゆえにレフイスは
アランの申し出に頷いてしまったのかもしれなかった。
部屋に帰ったアランは
今頃テイオの日記をめくり始めてるのかもしれなかった。
そこにはなにがかかれているのだろう?
自分が読めない日記を安々と覗きこめるアランが憎くもあり、
羨ましくもあった。
日記を読んだアランが本当その内容を自分につげずにいるだろうか?
そして、自分はひょっとしたらむりやりでも
その中身を付きつけられる事を望んでいるのではないだろうか?
それをどこかで計算に入れて、
アランの申し出をうけいれたのかもしれない。
レフイスは事の成り行きに任せる気になっていた。
自分でこじ開ける事の出来ないものを
誰かが暴力的にでもこじ開けてくれる以外、
運命の流れを受け入れる手立てがない。
まるでそれは望まぬ悪漢による肉体的暴行であっても、
それでも体は大人の女になってしまう。
自分か大人の女になる事を望んだ少女が
強姦魔の前に身をさらけ出すかのようにしてまで、
レフイスは迎えなければ場ならない事の顛末に、
事の成り行きに従う気になっていた。
「なぜだろう?」
レフイスは自分に問いかけた時。
ふいにアランに抱き締められた時の
アランの心臓のとくんとくんとなる鼓動と
アランの体温がレフイスに蘇えって来た。
「いきている」
その存在の確かさがレフイスの体を通して
心の中にまで入りこんできていた。
『テイオ。なんで、死んじゃったんだよ』
レフイスは再び膝をだかえた。
昨日まで淋しくてたまらない自分を抱き締めるのは
自分しかいなかった。
でも。
『アラン?あなたは、なんで、そんなにあったかいんだろ?』
自分の淋しい手はレフイスが意識しないまま、
アランの温もりを求め始めているとは気が付かないまま、
レフイスは膝を抱いた手をさらにきつくすると
『テイオ・・・テイオ・・・・』
何度もテイオの名前を繰返し呼んだ。

同じ時刻。
やはりアランはテイオの日記を開いていた。
読みすすんで行くアランの瞳からいつしか泪が零れ落ち、
一筋の泪はテイオの日記の上に落ちた。
アランは最後のページをよみおえるとテイオの日記をとじた。
白いページはまだまだ続いていて、その続きがかきこまれることはない。
「無念だったよな」
アランは呟いた言葉に答えた。
「これじゃあ、死にきれないよな」
テイオの思いが残った日記は
あるいはテイオの心残りをはらされる事を
誰かに伝えたいが為に書かれたのかと思わされた。
「お前の最後の願い、なんとかしてやりたいな」
アランは日記に語りかけテイオの日記を枕もとにおいた。
テイオが死んだわけこそレフイスを一番くるしませるだろう。
が、テイオの心残りを晴らしてやりたい。
テイオが命を亡くすかもしれない事を忘れ、
レフイスに渡したかった物をとりにいったヨットの中で
テイオは命を絶った。
だが、それは今どこにあるだろうか?
海の底にねむったまま?
そしてこの事実をレフイスにどうつげればいい。
取り止めなく次々と思いが湧き上がる。
間欠泉の様に吹き出して来る思いを
アランもどうすればよいか考えつかないまま
何時の間にか空が明らんでくる兆が窓の外に見え始めていた。
まあるい窓の外を窺うと
やはり薄紫色の空の色が視界一面に染めていた。
アランは僅かな睡眠を貪る事にした。
枕を引寄せケットをかけ直すと
ゆっくりと眠りの中に身を落とし込んで行った。



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