憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ブロー・ザ・ウィンド ・・7

2022-12-14 16:38:41 | ブロー・ザ・ウィンド

明くる朝。
泣きはらした目元のはれが引ききらないレフイスにあった。
「いいかな?」
食堂の席は勝手に決める。
セルフサービスで自分のバケットに料理を並べたレフイスが
パンをほうばったアランの前に立った。
アランは少し慌てながらパンを呑み込んだけど、
言葉が出せる状態にはならなかったので
手でどうぞとレフイスに席を勧めた。
「ありがとう」
バケットをおくとレフイスはパンをちぎり始めた。
口の中のものをミルクテイ―で流しこむとアランは
「アンタ、それっぽっちしきゃたべないつもりか?」
レフイスのバケットの中身は
ロールパンが一つと少な過ぎるサラダと
そしてコップ半分もない僅かなミルクテイ―だけだった。
「あ、ちょっと食欲なくて・・・。これでも、少しはたべなきゃって」
レフイスにはそれでもたべようとしていることではあったのだが、
「アンタ。無神経だな。おまけにそんな自分を判ってない」
「あの?」
なにがアランの気にさわったのだろう!?
尋ねかけたレフイスの言葉を遮ると
アランは自分のバケットのパンを一つ。
ポーチ・ド・エッグを一つと
生ハムをレフイスのバケットの中に突っ込んだ。
「あ・・の・・・」
「それだけ食べたら、俺の言った事の意味をおしえてやるよ」
心なしかアランの声が明るく弾んでいて
屈託ないやさしい響きが篭っていた。
「ん・・・」
ほんの少し口を付けたハムの冷たい感触が喉をとおった。
「おいしい」
「たべろよ」
「ん・・・」
思いの外レフイスの食欲がそそられ、
結局レフイスはアランに渡された物もキレイにたべおえた。
「で、なに?」
「あん?」
「さっき、食べたら教えてやるって・・あの、無神経だって」
「ああ。そのこと?
それは、つまり、良い傾向だってことなんだけどね。あのさ・・」
「なに?」
「いや、アンタさ」
「レフイスでいいわ」
レフイス自身、自分の言出した言葉に戸惑っていたが
アランのほうがもっと驚いていた。
「あ?あ、いや。え?」
「それで?」
「詰り、あん、いやレフイスが無神経だって、のは・・・」
レフイスの名前を何気なさげに呼ぶふりはして見せたが
アランの頬はそれだけで軽く染まっていた。
「俺。昨日、あん・・レフイスをいいほどなかせちまったんだぜ。
その相手にさ、食欲ないなんていわれちまったら、たまんないだろ?」
「あ、ごめんなさい」
「でも、それでいい」
「?」
「レフイスにとって、そんなになってる自分を
俺にはかくさなくていいってことだろ?」
「あ?」
「ちがう?」
レフイスは答えられなかった。
自分でも気が付いてない思いを急にみせつけられても
それが自分の思いであるかさえさだかでない。
それにレフイスを覗き込んだアランの瞳は
『好きだよって頬を染めて伝えてくれるか?』と、
尋ねたその内容その物におもわされてもいた。
「ぁ・・」
レフイスの胸の中に小さな胸の響きが聞こえた。
ふいに目覚めた子りすはいきなり首を擡げて辺りをみわたすが、
その前にきっとこりすもとくんと鳴る自分の胸の音を
聞いたにちがいないことだったろう。
ふいになった心臓の生きてる音に
レフイスの鼓動がさらにことことと音を立てているのがやけに意識された。
「もういかなきゃ、ごちそうさま」
「あ、ああ。あの・・・」
「なに?」
「また、たずねていいかな?」
レフイスの部屋への来訪のことをアランはいっている。
「そうね。考えとく・・・」
「そう・・・」
アランがひどく淋しそうに見えたが
レフイスはそのまま返事を濁らせて席を立った。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿