かれこれ、6年のつきあい。
別れたはずが焼きぼっくいに火がついて、
お互い、家庭がある身の上を承知の上で忍び逢う。
いい加減にしなきゃと思いながら、
共に重ねた時間が増えるほど、どっちが、亭主で、
どっちが、情夫か・・。
この世が仮の宿なら、今の亭主も仮の者。
本当はあの人と一緒になれなかっただけで、
魂と心はあの人のものなんだとおもっていた。
それが・・。
友人がきっかけだった。
彼女にだって、私はなにもしゃべったことがない。
「ねえ、行こうよ」
よくあたる、霊感占い師がいるとかで、彼女は私を誘う。
「いやよ。なんだか、気味が悪い」
断わったけど、彼女は引き下がらなかった。
「だから、一緒にきてくれるだけでいいから、外で待ってくれればいいから」
もしも、不幸な未来がくるとでもいわれたら、こわくなるじゃない。だから、一緒にきてほしい。
が、彼女の言い分だった。
「そんな不幸を回避するアドヴァイスができない占い師なら、なおさら、いかないほうがいいんじゃない?」
「違うわよ。回避できるからこそ行ったほうがいいの。ただ、やっぱり、悪いことをいわれたら、ショックじゃない」
そんな会話が元で、彼女にしぶしぶついていったけど、何度薦められても私がみてもらうのは、断わった。
霊能者ならきっと、私と彼のことだって、判る。
あげく、別れなさいなんていわれたら、たまらない。
どんな不幸がきたって、別れたりするもんか。
だったら、聞かない方がいい。
私だって、良くないことは重々承知の上。それなりの覚悟で通してきてるんだから・・。
そして、彼女だけが見てもらった。
近くの喫茶店で彼女を待っていた私の元に彼女が帰ってきたとき、
彼女は複雑な顔をしながら、コーヒーとケーキを注文した。
「どうしたのよ?」
良くも悪くも無い戸惑いだらけの顔をみれば、そう、尋ねずを得ない。
「うん・・それがね・・」
彼女が喋りだした話は、私も、不可思議でしかない。
占い師はこの先、彼女の身の上に大きな変化がおきるという。
だが、それが良いことであっても、悪いことであっても
驚いちゃいけないという。
「なに?それだけ?」
「だから、大きな変化が悪いことなのか、良いことなのか、教えてくださいって、たのんだわけよ」
「そしたら?」
「どっちでもある・・だって」
「はあ?」
「時期がきたんだってそう思ってくださいって・・」
「はあ・・・?」
「で、それで、いくら払ったわけよ?」
「5000円のところを・・3000円でいいって・・時間短かったし、具体的にいえないし・・」
「ふ~~ん。なんか・・釈然としない気分だけ残って、金を払わされるって、すごい損だよね」
「うぅん。それよか、なんだと思う?なにが起きそうだと思う?」
「やめてよ。私は占い師じゃないわよ。判るわけないじゃない」
「他・・いってみようかな?」
「やめておいたら?金を払って変えられる未来なら、ちゃんとおしえてくれるんじゃないの?
どうにも、ならないってことじゃないの?」
「か・・かな?やっぱり、そういうことだよね」
それから、三ヶ月たったころだったろうか。
友人は妊娠したと私に連絡をいれてきた。
結婚して、4年。
彼女は子供がさずからなかった。
「これが、きっとおどろいちゃいけないってことだったのよ」
上気した声が電話口で響く。
そうなんだと私も思った。
だから、私は突然、霊感占い師に見てもらいたくなった。
そして、電話をきると占い師に予約の電話をいれた。
妙に変わった電話番号を私はそらでおぼえていた。
315-9646・・・。
さ~以後、苦労しろ。と読める番号が占い師らしくないと思ったせいだった。
もっと、別の語呂あわせを思いつかないだけで、他のよみかたがあるのか、
たんに偶然で取った番号か?
そんなことはどうでもよいことだけど・・。
電話口にでたのは、占い師本人のようだった。
「あの、予約を・・」
と、いいかけると、
「今からなら、あいていますが?」
と、尋ね返された。
閑な占い師なんだろうか?つまり、あてにならない?
まるで、私の思いをみすかしたように占い師がいう。
「貴女をおむかえするために時間をあけさせられたとおもうので、
都合がつくようでしたら、今から、いらっしゃってくださったほうがよいとおもいます」
閑の言い訳?それとも、その通り?
でも、確かに私も都合はつく。
「この前、いらっしゃった方は貴女のご友人ですよね?おめでたの話をきかされたのでは?」
「今から、すぐ、いきます」
私は大慌てで、駅前の商店街の一角にある占い師の元へ駆けつけることになった。
顔さえわからない、それ以前にあったこともない人間が誰かわかり、
おめでただと友人から連絡があったこともわかり、
それで、占い師の所に行こうとしたことも、なにもかも、判っている。
恐ろしくもあったが、覚悟をきめた。
あって、尋ねたいことがいくつもあった。
小走りでかけとおし、15分。占い師の部屋についた。
4個1のアパートをかねた、住居付き店舗の真向かいの喫茶店で私は彼女を待った。
一人で行く事ができないと私に強請れる彼女がうらやましくもやましくもあった。
おそらく、その時に私は一人でならくることができるかもしれないとも思った。
だが、それは、単に、彼女が一人でこれないという私の反対側の理由を思っただけだった。
その私が今、一人で占い師を訪ねる。
カランと音をたてるドアチャイム。ドアしかない玄関。誰が中に入っているかみえないようにするためだろう。ドアをあけると、中はほの暗い。廊下をはさんで左右にいくつかの簡単なしきりで個室がつくってある。客同士があまり顔をあわせなくてすむようになのだろうか?だとすると、此処はかなり深刻な相談をする人間が集まる?奥にむかって、廊下が続き真正面から、まだ右に部屋があるんだろう灯りが揺らめいてみえる。
だが、個室を通りすぎる時私は気がついた。
客がいる。
ちょうど空いてるは嘘?それとも、私が此処に来るまでに誰かがきてしまった?
いや・・。反対側の個室にも・・人の頭がちらりとみえた。
私も個室で待つべきなのだろうか?
受付もないのだろうか?奇妙な思いを感じながらとりあえず、右手の個室にはいろうとした時
声がした。
「どうぞ・・こちらに・・」
いつのまにか廊下の正面に占い師だろう・・女性がたっていて、私をてまねいた。
「あの?先にいらっしゃってるお客様は?」
「急ぐ場合がありますから・・」
き・・緊急患者みたいにいわれて、なおいっそう、私は怖気づいた。
なにもかも、見通されているに違いないのだ。
「どうぞ」
の声に促され、私は奥の部屋に進んだ。
部屋の中は奇妙に明るい。窓が大きく取られている。
部屋の隅には裏庭にぬけるドアがある。
「お話がおわりましたら、そちらからお帰りいただいているのですよ」
ドアを気にしていた私の心に答えると彼女はドアとは反対側の壁際にあゆんでいった。
丸いテーブルがあり、椅子が二つ、対面におかれている。
水晶玉もないし、いかにも占い師じみた恰好をしていないし、年齢も私よりいくつか若い?
まるで、ネールケアにでもでかけてきたような不思議な錯覚を覚えた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます