憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白い朝に・・・2

2022-09-08 16:45:36 | 白い朝に・・・(執筆中)

私が瞳子とであったのは、
篠崎教授の企てだったと思う。
小さなお弁当包みをたずさえて
父である篠崎教授の元に訪れた瞳子は
薄い萌黄色のカーディガンをはおっていた。
「せっかく、作ったのにわすれていっちゃ、だめでしょ」
と、父親をたしなめると、
瞳子は私にぺこりと、頭を下げた。
「父さまは、忘れっぽいから、
いろいろ、ご迷惑かけてるんでしょうね?」
黒い瞳の奥に父親の真っ直ぐな愛情を
うけて育ったものだけが持つ優しさが
柔らかくひかっていた。
その時に私は瞳子への恋におちたといっていい。
「いや、いや、ごめん。御免」
娘にあやまりながら、
差し出されたお弁当をうけとると、
おもむろに、教授が私をふりかえった。
「娘の瞳子だよ。
このとおり、初めて会った人に
きちんと挨拶することもできない世間知らずな娘だが、唯一明るいところが、とりえだ」
瞳子の素直さが、私のまえで開かれていく。
「まあ、ごめんなさい。
えっと、私・・ったら、随分、失礼を・・」
父親の諭しを素直に悟りとり、
非礼を詫びはじめた瞳子を私は制した。
「きになさらないでください。
私こそ・・」
どう言葉をつなごうか、迷った私の瞳の中で、
瞳子がほほえんでいた。
「父さまがおっしゃっていた通り。
優しいかた・・」
ぽつりと呟いた一言で、
私は自分の存在すべてを、瞳子にうけとめられたような暖かさをあじわった。
常日頃、学問一すじの教授が、
家庭という個人レベルのなかで、
私を「人」として、認めていてくれたという事実と、
わが娘にまで、肯定して話を伝えてくれていたという認められていた証し。
瞳子のなにげない言葉の中のこのふたつの事実が、
私の胸に大きな鋲をうつことになった。



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