憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白砂に落つ・・・5

2022-12-16 09:36:31 | 白砂に落つ

うなだれた弥彦のまま、
その言葉ははきだすかのように、
もれるかのように、
弥彦の口からおちていった。

「佐吉には・・・子胤がなかったんですよ・・・」

弥彦がもらした言葉の意味は
つまり、どういうことになるのだ。
だが、実際には、お千香は二人の子供を生んでいる。
それは、佐吉の子ではないということなのか?
半信半疑のまま、
定次郎は弥彦の次の言葉をまった。

「親方は俺がお千香ちゃんを好いていたことを
しってなさったろうか?」

それが佐吉に子胤がなかったことと、
何の因果があるのだろう?
二人の孫が佐吉の子でないと言い切る弥彦が
まさか?
まさか?
弥彦が孫のてて親だとでもいうのか?
それは、つまり、
お千香の佐吉への裏切りということになるのではないか?

「ま・・・待て。弥彦、ちょっと、待ってくれ」

定次郎が弥彦に告げられたふたつの事柄を
つなげあわせてしまうと、どうしても、
とんでもない事情にいきあたる。

「つ・・・。つまり、お前はお千香と、不義密通を
はたらいていたと、こういうことか?」

弥彦の頭がますます重くさがってゆく。
その姿は
定次郎の問いを肯定しているとしかみえない。

弥彦はまじめな男だ。
嘘をつくような男じゃない。
その弥彦が告げることは事実であろう。

事実であろうが、定次郎も
にわかには、信じられない。
なぜなら、
お千香は佐吉を心底すいていた。
そんなお千香が
佐吉を裏切り、弥彦と深い仲になるわけがない。

「親方もしってのとおり、佐吉とお千香ちゃんのあいだには、
三年も、子供ができなかった・・・」

弥彦のいうとおりである。

「お千香ちゃんは、俺に・・・」

弥彦の声が止まった。
この先こそを口にしたくは無い。
弥彦の沈黙は暫く続いた。



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