<2011年9月に書いた以下の文を復刻します>
個人的な話をしたい。私がフジテレビという会社に入ったのは1964年(昭和39年)だったが、当時のメディアは新聞、通信社が圧倒的に強かった。中でも新聞は歴史と伝統があり、大勢の記者を抱えて日本社会の隅々まで取材網を張り巡らせていた。それに、新聞も通信社も海外支局を持ち、主な外国の取材も独自に行なっていた。
それに比べると、テレビ(NHKを除く)は歴史が浅く取材網は貧弱なものだった。国内では国会や首相官邸、警視庁などにわずかな記者を配置して細々と報道を続けていたが、海外支局(外国特派員)などはまだなかったと思う。
面白い話がある。私が入社する少し前だったか、千葉県内である事件が発生したため、報道の先輩が取材に行って地元の人に、「フジテレビですが・・・」と言って挨拶した。そうしたら、「どこの電器屋さんですか?」と逆に聞かれたという。先輩からその話を聞いて大笑いしたが、当時は会社の存在さえ知られていない一面があったのだ。
当時のニュース原稿は、出先のわずかな記者から送られてきたものもあったが、主に共同や時事といった通信社の配信記事を使っていたと思う。共同などはラテ用(ラジオ・テレビ用)の記事も送ってきたので、それらをまとめて放送原稿にしていた。とにかく、弱小の報道機関だったのだ。ニュースの時間枠がとても短かかったので、それで何とかやり繰りしていたのだろう。
しかし、テレビメディアが拡大発展していくにつれて、そんな弱小報道機関のままで良いはずがなかった。記者の数も増やし、アメリカなど外国にも特派員を出すようになった。しかし、国内で最も大きな問題は「記者クラブ」へなかなか加入できなかったことだ。先ほども述べたが、国会や首相官邸など主な所には記者を配置できたが、各省庁のクラブにはほとんど入ることができない。その大きな理由は、大新聞社などが強く反対したからである。つまり、新聞から妨害を受けたのだ。
例えば、最も重要な大蔵省(今の財務省)記者クラブに入るのに、何年かかっただろうか。私の入社後もなかなか入れなかった。このため、某先輩はクラブの部屋にも入れず、廊下を行き来しながら広報室などに行ったりして取材を続けていた。NHKを除いて、他のテレビ各局はみなこういう苦労を積み重ねてきたのだ。
「記者クラブ」というのは極めて保守的、閉鎖的、差別的な所だから、なかなか常駐を認めない。民放テレビ各局は、初めは“常勤”ではなく“非常勤”として差別を受けていた。だから、部屋にも入れてもらえず、もちろん机も与えられなかった。せいぜい各省庁の広報室に出入りしたり、「廊下トンビ」と言って省庁内をうろうろ歩いていたのだ。その頃は、新聞社が本当に嫌だなと思ったものだ。
しかし、時代の流れは争えない。テレビの力が徐々に発揮されてくると、各省庁の方がテレビを無視するわけにもいかず、これを逆に利用しようとしたのか、新聞各社に働きかけ記者クラブ加入を認めさせていった。大方こういう流れだったと思う。
その頃は、テレビ局内にも、記者クラブを「ボイコットせよ」という勇ましい意見も出ていた。新聞がそんなに妨害するなら、あえて記者クラブなんかに入らず、堂々と自由な取材活動をしようではないか。今や“テレビの時代”になったのだから、各省庁もテレビの取材に応じないわけにはいかないだろう・・・といった強気の意見も出ていた。
しかし、記者クラブに入れば、基本的な情報はいつも知ることができる。そのメリットの方がやはり大きいという意見が強く、頭を下げ下げ次々に記者クラブに入っていったのである。ただし、クラブに加入しても、新聞社との間にはまだ“差別”が残っていた。例えば、ある省庁では、幹部との「記者懇談会」からテレビ記者は排除されるなど、いろいろな差別的ケースが続いたのだ。新聞社は既得権益を守ろうという姿勢が強かったのだろう。まあ、「縄張り根性」と言ってよい。どこの世界にもそういうものはあるのだ。 (2011年9月17日)
記者クラブに対しては「我が物顔で部屋を自由に使っている」と聞くのですが、早い時代からそうだったのですか。それじゃおいそれとその利権を手放すことはないなぁ。
しかし、今はテレビ局も既得権益の仲間入りになったのでしょう。今度はフリージャーナリストらがいろいろ抗議しています。
テレビの次はインターネットと、時代の流れでいつも新旧の対立が出てくるものです。
今でも朝のワイドショーはなぜかフジテレビ・・・。^^
司会者〔というのでしょうか?〕他のテレビ局が若い人ばかりですのでフジテレビの小倉さんが年配者としての安定感がありますね。
今の「とくダネ!」はもう長く続いていますが、見てくれてありがとうございます。私も定年後、8年ぐらい手伝っていました。小倉さんもだいぶ年を取りましたね(笑)。
なお、蛇足ですが、『100円ショップ万歳!』の返事のコメントを、本文の末尾に載せておきました。良かったら見ていただきたいと思います。