《前書き》
この戯曲は、1956年に起きた“ハンガリー動乱”を題材にしたものである。ハンガリー動乱は当時、全世界に大きな衝撃を与え、社会主義と自由や民主主義のあり方、軍事介入した旧ソ連邦の国家的性格などについて深刻な論議を呼び起こした。
現代史はその後、旧ソ連軍によるチェコスロバキア、アフガニスタンへの侵攻などの事態を引き起こし、ソ連邦自体は1991年に崩壊、消滅していったのである。 筆者は31年前に創作した史劇「血にまみれたハンガリー」を元にして、この戯曲を世に出そうと考えた。
一国の運命が、その時の“国際情勢”によっていかに翻弄されるものか、又そうした中で、自由を希求する人達がどのような苦闘を強いられたかを叙述してみたい。 なお、これは“レーゼドラマ”(読むための戯曲)であり、あくまでも事実をもとにしたフィクションである。「ドキュメンタリードラマ」と言えるものだ。
時代背景・・・1956年10月~11月
場所・・・ブダペスト、ソルノク(以上、ハンガリー) モスクワ(ロシア・当時のソ連邦)
《登場人物》
【ハンガリー人】
政府・党関係者・・・ナジ・イムレ(ハンガリー人民共和国首相) カダル・ヤノシュ(勤労者党第一書記、後に首相) ゲレー・エルネ(カダルの前の党第一書記) ヘゲデューシュ・アンドラシュ(ナジの前の首相) アプロ・アンタル(党政治局員) ミュニッヒ・フェレンツ(党政治局員) マロシャン・ジェルジ(社会民主党幹部) ピロシュ・ラスロ(内務大臣) マレテル・パール(国防大臣) ナジ・マーリア(ナジ首相夫人) 他に、ホルバート外務大臣 ナジの秘書官
一般人・その他・・・メレー・オルダス(ブダペスト工科大学生) ペジャ・フェレンツ(メレーの友人、工科大学生) ウィラキ・ノーラ(メレーの恋人) ウィラキ・アニコー(ノーラの母親) デアーグ・ゾルターン(医師) ブダペスト工科大学の学生達 ブダペスト市民達 ハンガリー軍兵士達
【ロシア人】
ニキータ・フルシチョフ(ソ連共産党第一書記) ニコライ・ブルガーニン(ソ連邦首相) ヴィヤチェスラフ・モロトフ(党政治局員) ゲオルギ・マレンコフ(党政治局員) ラザール・カガノヴィッチ(党政治局員) アナスタス・ミコヤン(党政治局員) ミハイル・スースロフ(党政治局員) 他に、アンドロポフ・駐ハンガリー大使 セーロフ秘密警察長官 マリニネ将軍 ソ連軍兵士達
なお、それ以外に、ブダペストのユーゴスラビア大使館員
(注: ハンガリーの人名は姓が先、名が後である。 ハンガリーの勤労者党は、後に社会主義労働者党に改名。 当時のソ連共産党中央委員会幹部会員は全て、政治局員に統一。 ナジ夫人のマーリアは仮名)
第一場(1956年10月のある日。ブダペストのペスト地区郊外にある、ウィラキ家の応接間。 幕が開くと、メレー・オルダスとウィラキ・ノーラが、抱き合ったまま接吻を交わしている。やがて2人は身体を離すと、ソファの方へ向う)
メレー 「ノーラ、それでお母さんの病気は良くなってきたの?」
ノーラ 「ええ、まあ快方に向っているわ。 でも、まだ熱があるし、時々咳を苦しそうにするの。なにしろあの年でしょ、心配しているのよ」(2人はソファに腰を下ろす)
メレー 「うん、お年寄りの肺炎って怖いからな。十分に注意しないといけないね」
ノーラ 「ありがとう。 でもデアーグ先生にずっと付いてもらっているし、きっと回復してくれると思うわ。私もしょっちゅう病院の方へ行っているし・・・」
メレー 「早く退院してくれるといいね。君は熱心なクリスチャンだし、神様も必ずお母さんの容体を良くしてくれると思うよ」
ノーラ 「ええ。それに、私達が尊敬しているミンドセンティ枢機卿も釈放されて、元気に活動されているでしょ。 母もそれを喜んでいるので、身体にきっといいと思うわ」
メレー 「枢機卿もまったく、ラコシにはひどい目に遭ったからな。7年間も投獄されながら、よく辛抱したものだ。 今度はわれわれが、ラコシ一派に仕返しをしてやる番だ」
ノーラ 「でも、ラコシは勤労者党の第一書記を解任されて、居たたまれずモスクワに逃げてしまったでしょ。 それほど追い討ちをかけなくても、ラコシ一派は老木が朽ち果てるように潰れていくと思うわ」
メレー 「いや、そう簡単にいくとは思わないよ。ラコシの“片腕”であるゲレーが第一書記で頑張っている限り、ハンガリーはそう良くはならない。 ゲレーだけでなく、ラコシ一派のスターリニストが、まだ大勢党内で力を振っているじゃないか。党から除名されたのは、“暗黒将軍”のファルカシュだけだ。
こんなことではいけない。 ノーラ、分かるだろう? われわれはゲレーを始め、まだ党内に巣くっているスターリニストどもを全員、党の外にたたき出してやらなくちゃ駄目なんだ。 そうしない限り、このハンガリーは決して良くならないんだ」
ノーラ 「でも、オルダス、ラコシの理不尽な仕打ちのために何年も投獄されていたカダル達が、ようやく復帰して、勤労者党の政治局のメンバーに返り咲いたじゃないの」
メレー 「それだけでは足りないんだ。われわれが最も強く求めているのは、ナジ・イムレの復活だ! ナジこそ、ハンガリーの希望の星だ。 彼こそ、ハンガリーを自由で独立した国に再生できる唯一の人物なのだ。
ペテフィ・サークルも、われわれ学生も、また政治意識の高い労働者、市民もみな、ナジの復活を強く望んでいるのだ。 そのことは、ゲレー達だって嫌と言うほど分かっているはずだよ。現にわれわれも、ペテフィ・サークルも、ナジの復権を強く呼びかけているからね」
ノーラ 「ナジが復活すれば、ハンガリーはそんなに良くなるというのかしら」
メレー 「それはそうさ。彼も共産主義者だが、ラコシやゲレーとはまったく違ったタイプの人間だよ。 国民の声を十分に聞き入れ、自由で柔軟な政治路線を取ってきたのは彼だけだ。 だからこそ、恐怖政治を行なってきたスターリニストのラコシ達に、一番憎まれてきたじゃないか。 ゲレーをたたき出して、ナジに再び政権の座に戻ってもらわなくてはならないんだ」
ノーラ 「でも、ソ連がそれを許すかしら・・・」
メレー 「ソ連が許すも許さないも、これはハンガリーの国民が決めることなんだ。われわれの要求で、必ずナジを復権させなければならない」
ノーラ 「そうね、私達は長い間、ラコシ達の専制政治に苦しんできたわ。 クリスチャンも自由主義者も、良心的な共産主義者も次々に逮捕、投獄され、何百人、いえ何千人と処刑されてしまった。 ミンドセンティ枢機卿やカダルのように、投獄されたまま拷問を受けていた人達は、まだ救われた方かもしれない。
もう二度と、あんな恐怖政治はいや。 あなたの言うように、ナジのような人が政権について、自由で明るい政治をしてくれることが本当に望ましいと思うわ。これは、大多数のハンガリー人が願っていることだと思うの」
メレー 「そうだとも。スターリニストと秘密警察の奴らを除いて、全てのハンガリー人がそれを望んでいるんだ。 その点、ポーランドなども同じだ。スターリニストによって牢獄にぶち込まれていたゴムルカが、今年になってようやく名誉を回復し、間もなく党の中央に返り咲こうとしている。
ポーランドでは6月に、ポズナニでパンと自由を求める労働者が暴動を起こし、多くの死傷者が出た。 これに対して、オハブらのスターリニストは何ら適切な処置を取ることができず、ただ慌てふためいていただけだ。
びっくりしたモスクワが、首相のブルガーニンをワルシャワに送り込んで、ポーランド人民に圧力をかけたが、そんな事はまったく役に立たなかったではないか。 いや、むしろ、ソ連に対する敵意を助長させただけだ。
今年2月、ソ連共産党がスターリンを公然と批判していらい、東ヨーロッパの各国では、スターリニストの恐怖政治に対する反発と、民主化の要求が猛然と高まってきたのは当然のことだ。 これまで、ラコシ達スターリニストは、われわれ国民に対して“ろく”なことをしてこなかったからね」
ノーラ 「そうね、あなたの言うとおりだわ。 一週間前のライクの葬儀には、30万人もの民衆が参列して、ライクの霊を弔ったわね。あんなに大勢の人が参列した葬儀を、私は勿論まだ見た事がないわ」
メレー 「うん、ラコシによって、“チトー主義的ファシスト”などと汚名をきせられ、処刑されたライクに誰もが同情しているのだ。 まったく、ラコシが死んで、ライクが生きておれば良かったんだ。でも、ライクは完全に名誉を回復したよ」
ノーラ 「誰かが言っていたわ。クリスチャンは“来世”を信じるけれども、共産主義者は“来世の名誉”を信じなければ、生きていけないって」
メレー 「ハッハッハッハッハ、そいつは面白い。まったくそうだね。 あの後、僕らは無届けのデモをしてやったんだ。そうしたら、警察は何も規制してこなかった。 それどころか、一般の市民までが僕らのデモに参加してきたので、とても盛り上がったんだよ」(その時、ドアをノックする音。 ノーラが立ち上がってドアに近づく)
ノーラ 「どなたでしょうか? (『こんにちは、フェレンツです』という声。)まあ、フェレンツ、どうぞ入って」(ノーラがドアを開けると、ペジャ・フェレンツが入ってくる)
ペジャ 「オルダス、君がここにいると聞いて、急いでやって来たんだ。 ノーラ、ごめんね、二人だけのところを」
メレー 「どうしたんだ、フェレンツ。ずいぶん急いでいるようじゃないか」
ペジャ 「オルダス、ついにやったぞ! ナジが勤労者党に復帰したんだ」
メレー 「本当か!」(メレー、ソファから立ち上がる)
ペジャ 「本当だとも。さっき、ブダペスト放送が臨時ニュースで伝えたばかりだ」
メレー 「そうか、ノーラ、やったぞ!」
ノーラ 「まあ、そんなに早くナジが党に復帰できたんですか」
ペジャ 「ナジに再び党員証が与えられたと、ブダペスト放送が言っていた。われわれの勝利だ、いや、われわれの勝利の第一歩だ」
メレー 「素晴らしい、われわれの要求が認められたのだ。 頭の固いゲレー達も、ついに民衆の声を受け入れざるを得なくなったのだ」
ペジャ 「こうなると、ナジが党の中央に返り咲くのも時間の問題になってきたな」
メレー 「うん、ナジもカダルも、これまでスターリニストから不当な弾圧を受けてきた愛国者が、みな一斉に復権する日がやって来たんだ。 素晴らしいじゃないか!」
ペジャ 「ハンガリーは甦るぞ! これで、われわれの民族主義、愛国主義、そして民主化と自由化の運動は、一層力強いものになっていくのだ」
メレー 「やろう、ハンガリーの自由とマジャール民族の真の独立のために、共に手を携えてやっていこう!」(メレーが手を差し伸べる。 ペジャがメレーとノーラの手を握りしめる)
ペジャ 「闘っていこう、ハンガリーの自由と独立のために。われわれの勝利の日は近いはずだ」
第二場(ブダペストの勤労者党本部。 ゲレー・エルネ第一書記の部屋。ゲレーとヘゲデューシュ首相、アプロ政治局員)
ゲレー 「まったく困ったものだ。多くの国民が、ナジの党中央への返り咲きを公然と要求している。 あの男を復権させたのはやむを得ないとしても、再び首相などの要職に据えるなんて、とんでもない! そんなことをしたら、ハンガリーの共産政権は、どんな形に変質してしまうか分かったものではない。 なんとしても、今の体制を維持しなくてはならん」
アプロ 「仕方がない。早くユーゴスラビアへ行ってチトーと仲直りし、国民の気持を和らげようではないか。 ユーゴスラビアと友好協力条約を結べば、われわれの立場も国民に理解されるだろう。党や政府は前向きにやっているとね」
ヘゲデューシュ 「そうだ、今やることはそれしかない。 われわれがチトーを認めてやれば、チトーに同情的な国民も、われわれの努力を評価してくれるだろう」
ゲレー 「うむ、フルシチョフまでがユーゴを訪問するし、コミンフォルムも解散されるし、時代の流れには逆らえないな。 モスクワからも、ユーゴへ行けとさかんに言ってくる。一昔前に比べると、まったく世の中は変わったものだ」
ヘゲデューシュ 「ところで、ユーゴにはカダルも連れていこうじゃないか」
ゲレー 「なにっ、カダルを?」
ヘゲデューシュ 「そうだ。あれも長い間、チトー主義者の烙印を押されて、ラコシによって終身刑にまで処せられた男だ。 われわれがカダルを連れていってやれば、“罪滅ぼし”ということになる」
アプロ 「それはいい考えだ。 カダルはナジに次いで、国民の間に人気がある。ナジは絶対に許せないとしても、カダルならわれわれの味方に引き入れてもおかしくない。 カダルを認めてやれば、国民の不満ももっと和らいでくるはずだ」
ゲレー 「あの“しんねりむっつり”の強情ものを連れていくのか?」
ヘゲデューシュ 「しょうがないだろう。今や勤労者党の体質が問われている時だ。 譲歩するところは出来るだけ譲歩して、われわれの体制を持ちこたえなければならない。それには、カダルを引っ張り込むしかないと思う」
ゲレー 「うむ、仕方がないな・・・それじゃ、あの男も連れていこう。こうなれば、挙党態勢で乗り切るしかない。 ところで、国内の不満分子の動きは大丈夫だろうか?」
アプロ 「分からん、正直言って分からん。 ライクの国葬の時は、あんなに大勢の人間が集まるとは思ってもみなかった。大衆は、あからさまに変革を求めている。 困ったものだ、まったく頭痛の種だよ」
ヘゲデューシュ 「自由化を求める声が、潮のように押し寄せてきている。 われわれが対応を間違えると、とんでもないことになるぞ」
ゲレー 「もう、秘密警察や軍隊の力で押さえ込むのも、限界にきている感じだな。 大衆の要求は飲めるものは飲むが、ラコシの追放やナジの党中央への返り咲き、労働者へのスト権付与や、ソ連軍撤退などの要求は絶対に認められない!」
アプロ 「それはそうだ。特にナジの復活などは絶対に駄目だ。 モスクワとも十分に連絡を取り合って、対応策を練ろう」
ヘゲデューシュ 「私は早速、カダルも含めたユーゴ訪問団の手筈を整えよう。 その間の治安については、秘密警察に万全を期すよう指示してくる」
ゲレー 「うむ、国内の不穏分子がどう動こうとも、国外の情勢がどう変わろうとも、今の体制でなんとしても乗り切らなくてはならない。 そうでなかったら、大変なことになるぞ」
第三場(ブダペスト工科大学の一室。 メレー・オルダスとペジャ・フェレンツ、他に4人の学生がテーブルを囲んで座り、時には立ち上がったりしながら、話しを進めている)
学生一 「ワルシャワでは、もうすぐ統一労働者党の中央委員会が開かれるということだ」
学生二 「そうなると、ゴムルカがようやくカムバックすることになるのか」
メレー 「その点が、まだはっきりしていないようだ。 党内には、国防大臣のロコソフスキーを始め、ゴムルカの政権復帰に強く反対しているグループがいる」
学生三 「ちぇっ、“モスクワの犬”どもが。まだフルシチョフらに尻尾を振っているのか」
ペジャ 「その一方で、ソ連軍がワルシャワへ向けて動き出したという情報もある。 クレムリンは、国際的な反動家達が、ポーランドに資本主義を復活させようとしているのは許せないと、再三にわたって警告を出している」
学生四 「あいつらの決まり文句だ。 なにかと言えば、反動分子、ファシスト呼ばわりをするのが常套手段だからな」
学生一 「居ても立っても居られないよ。 すぐワルシャワへ行って、ポーランドの学生や労働者と一緒に戦いたいくらいだ」
メレー 「ワルシャワの労働者や学生は、ソ連軍の侵入に備えて武装を固めているそうだ。 しかも、ポーランド軍が動員態勢を取っているし、党がこれを全面的にバックアップしていると聞いている」
学生二 「その点が、わがハンガリーと違うところだな。勤労者党の“腰抜け幹部”どもに見習わせてやりたいくらいだ。 ポーランドの団結ぶりに比べると、ハンガリーは隙だらけといった感じだ」
ペジャ 「しかし、モスクワは必死になっているそうだ。 ポーランドが自主路線を取れば、ソ連を中心とする国際共産主義運動に深刻な亀裂が生じかねないと、フルシチョフを始めモスクワのボスどもは、重大な決意で臨もうとしているようだ」
学生三 「なにが深刻な亀裂だと言うんだ。 独立国がそれぞれのやり方で、共産主義路線を取っていくことが間違っているとでも言うのか。 まったく露助(ろすけ)どもは、自分勝手で分からず屋が多すぎる。くそっ!」
学生四 「あいつらは、東ヨーロッパの国々をなんだと思っているんだ! 自分の“衛星国”だと思って軍隊を派遣し、欲しい原材料をタダ同然の安い値段で、ソ連に持って行っているじゃないか。 まったく、あいつらはジンギスカンやアッチラよりも悪どい奴らだ」
メレー 「だからこそ、われわれはソ連軍の即時撤退や、ウラニウムなどハンガリーの資源の確保などを、強く要求していかなければならない。 ソ連のハンガリーに対する“収奪”を、黙って見ているわけにはいかないのだ」
学生一 「そうだ! それに加えて、モスクワの言いなりになっているゲレーやヘゲデューシュなどの犬どもを、今こそラコシと同じように追放してやろう。あいつらスターリニストは“売国奴”と同じだ!」
学生二 「われわれは、モスクワへ逃亡したラコシを連れ戻して、人民裁判にかけるべきだろう。 その上に、ハンガリーの人民を心から愛し、自主独立の政治を進めてきたナジ・イムレを、もう一度政権に復帰させるべきだ。 ナジこそ、ハンガリーの真の指導者であり、ハンガリーのゴムルカなのだ」
学生三 「勤労者党の大会を早く招集して、スターリニストどもを追放してやればいい。 そして、新しい国民議会の議員を選ぶために、多くの政党が参加する総選挙を行なうべきだと思う」
学生四 「それに、労働者のためにはノルマを徹底的に改善し、われわれ学生や知識人のためには、言論の完全な自由を認めさせるべきだ」
ペジャ 「どうやら、われわれの要求が出そろってきたな。 早い機会にこうした要求をまとめて、他の大学や、知識人が多いペテフィ・サークルなどと連絡を取り合って、一大決議に仕立て上げようじゃないか」
メレー (立ち上がって)「賛成だ! ハンガリーを自由で希望に満ちた国にするために、今こそ、われわれ学生が立ち上がるべきだ。南部のセゲドでも、近く学生集会が開かれるというが、ブダペストも負けてはいられない。 “ドナウの女王”ブダペストで、われわれが大決起集会を開けば、その波紋はハンガリーの津々浦々にまで広がるだろう。 さあ、大集会を準備しようじゃないか!」(他の学生達も立ち上がる)
学生一 「よしきた、やろう!」
学生二 「僕が他の大学自治会にも連絡を取る」
学生三 「今ごろベオグラードでうろうろしているゲレー達に、目に物見せてやるぞ!」
学生四 「ハンガリーの学生の意地を、全世界に示してやろうじゃないか!」