「かあちゃん、どうしたのよ。なんでこんなところにいるのよ。」
シオンが仕事先から帰ってみると、アパートの階段の郵便受けのところに、
人影があった。
「何ちょっと、あんたの顔を見に来て、ちょっと東京で買い物なんかとね。」
とシオンのかあちゃんは口ごもった。しかし、すぐに、
「シオン、ちゃんとやってるの。何食べてるの、様子を見に来たのは本当よ。」
といった。
「じゃがいもの種まきおわったの。」とシオンは聞いた。
「いやまだだよ。」
「今頃、東京なんかに来て大丈夫なの。いそがしいんじゃないの。」
かあちゃんは、こんなところまで来て、ジャガイモの話をとっぱなからされたの
で、シオンの顔をじっと見た。
シオンはその視線を感じて、ちょっと赤くなった。
「ほんとに、何しに来たんだよ。何もかあちゃんに用はないよ。」とシオンは言った。
****
かあちゃんは、息子の邪険にされ、それでも一晩遠慮して、息子のアパートに
泊った。二人は黙って、近くのコンビニから買ってきた夕ご飯をガサガサいって、
袋を開けて、黙って食べた。
次の日、シオンは、朝早く起きると、すぐご飯も食べずに仕事先に行ってしまった
た。かあちゃんは、シオンの部屋を見た。
玄関を上がると、すぐトイレと風呂があって、その先にキッチンとリビングがあ
て、その奥が寝室人っていたが、窓はブラインドが下りたままだった。
何でもかんでもベッドの上に積み重なって、カップめんの食べ残しが二三個転がっていた。
キッチンはお湯を沸かしたあとしかなく、ビニール袋に満杯のごみが転がっていた。
かあちゃんは、お風呂とトイレを掃除してごみを出して、部屋に風を入れて、片付けた。
それが終わると、かあちゃんは、駅まで歩いて、当てもなく、出かけた。
「疲れたわ。いつももっと歩くけど、こんなに疲れたことはない。どこか休むところがないかしら。」
と思っても、休むところも、水を飲むところもなかった。お金を払って、どこかの
お店に入るしかなかった。とにかく、デパートに行って、いってみたかった、
地下の食料品売り場に行ってみて、どんな味かするか食べてみたかったものを
たくさん買った。
荷物を両手に抱えて、シオンのアパートの戻ったときはかあちゃんは本当に
疲れきってしまった。
つづく
シオンが仕事先から帰ってみると、アパートの階段の郵便受けのところに、
人影があった。
「何ちょっと、あんたの顔を見に来て、ちょっと東京で買い物なんかとね。」
とシオンのかあちゃんは口ごもった。しかし、すぐに、
「シオン、ちゃんとやってるの。何食べてるの、様子を見に来たのは本当よ。」
といった。
「じゃがいもの種まきおわったの。」とシオンは聞いた。
「いやまだだよ。」
「今頃、東京なんかに来て大丈夫なの。いそがしいんじゃないの。」
かあちゃんは、こんなところまで来て、ジャガイモの話をとっぱなからされたの
で、シオンの顔をじっと見た。
シオンはその視線を感じて、ちょっと赤くなった。
「ほんとに、何しに来たんだよ。何もかあちゃんに用はないよ。」とシオンは言った。
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かあちゃんは、息子の邪険にされ、それでも一晩遠慮して、息子のアパートに
泊った。二人は黙って、近くのコンビニから買ってきた夕ご飯をガサガサいって、
袋を開けて、黙って食べた。
次の日、シオンは、朝早く起きると、すぐご飯も食べずに仕事先に行ってしまった
た。かあちゃんは、シオンの部屋を見た。
玄関を上がると、すぐトイレと風呂があって、その先にキッチンとリビングがあ
て、その奥が寝室人っていたが、窓はブラインドが下りたままだった。
何でもかんでもベッドの上に積み重なって、カップめんの食べ残しが二三個転がっていた。
キッチンはお湯を沸かしたあとしかなく、ビニール袋に満杯のごみが転がっていた。
かあちゃんは、お風呂とトイレを掃除してごみを出して、部屋に風を入れて、片付けた。
それが終わると、かあちゃんは、駅まで歩いて、当てもなく、出かけた。
「疲れたわ。いつももっと歩くけど、こんなに疲れたことはない。どこか休むところがないかしら。」
と思っても、休むところも、水を飲むところもなかった。お金を払って、どこかの
お店に入るしかなかった。とにかく、デパートに行って、いってみたかった、
地下の食料品売り場に行ってみて、どんな味かするか食べてみたかったものを
たくさん買った。
荷物を両手に抱えて、シオンのアパートの戻ったときはかあちゃんは本当に
疲れきってしまった。
