やまびこ農場ブログ~北沢ニジマスセンター・食べ物工房旬~

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一陣の風7

2009-03-25 22:26:26 | Weblog
「かあちゃん、どうしたのよ。なんでこんなところにいるのよ。」

シオンが仕事先から帰ってみると、アパートの階段の郵便受けのところに、

人影があった。

「何ちょっと、あんたの顔を見に来て、ちょっと東京で買い物なんかとね。」

とシオンのかあちゃんは口ごもった。しかし、すぐに、

「シオン、ちゃんとやってるの。何食べてるの、様子を見に来たのは本当よ。」

といった。

「じゃがいもの種まきおわったの。」とシオンは聞いた。

「いやまだだよ。」

「今頃、東京なんかに来て大丈夫なの。いそがしいんじゃないの。」

かあちゃんは、こんなところまで来て、ジャガイモの話をとっぱなからされたの

で、シオンの顔をじっと見た。

シオンはその視線を感じて、ちょっと赤くなった。

「ほんとに、何しに来たんだよ。何もかあちゃんに用はないよ。」とシオンは言った。

        ****
 
かあちゃんは、息子の邪険にされ、それでも一晩遠慮して、息子のアパートに

泊った。二人は黙って、近くのコンビニから買ってきた夕ご飯をガサガサいって、

袋を開けて、黙って食べた。

次の日、シオンは、朝早く起きると、すぐご飯も食べずに仕事先に行ってしまった

た。かあちゃんは、シオンの部屋を見た。

玄関を上がると、すぐトイレと風呂があって、その先にキッチンとリビングがあ

て、その奥が寝室人っていたが、窓はブラインドが下りたままだった。

何でもかんでもベッドの上に積み重なって、カップめんの食べ残しが二三個転がっていた。

キッチンはお湯を沸かしたあとしかなく、ビニール袋に満杯のごみが転がっていた。

かあちゃんは、お風呂とトイレを掃除してごみを出して、部屋に風を入れて、片付けた。

それが終わると、かあちゃんは、駅まで歩いて、当てもなく、出かけた。

「疲れたわ。いつももっと歩くけど、こんなに疲れたことはない。どこか休むところがないかしら。」

と思っても、休むところも、水を飲むところもなかった。お金を払って、どこかの

お店に入るしかなかった。とにかく、デパートに行って、いってみたかった、

地下の食料品売り場に行ってみて、どんな味かするか食べてみたかったものを

たくさん買った。

荷物を両手に抱えて、シオンのアパートの戻ったときはかあちゃんは本当に

疲れきってしまった。

つづく