やまびこ農場ブログ~北沢ニジマスセンター・食べ物工房旬~

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一陣の風8

2009-03-26 22:19:01 | Weblog
シオンのアパートでかあちゃんはたくさんのデパ地下で買った食べ物を

並べて待っていた。

なかなかシオンは帰ってこなかった。かあちゃんは待っていたがとうとうお腹

がすいてしまったので、食べようとしたときにシオンが疲れきって帰ってきた。

二人は、黙って食べた。

「なんか、もっとおいしいものだと思って、高いお金出して買ったのに、

あまり、おいしくないね。」と、かあちゃんはいった。

「なんか、残り物みたいな味。このジャガイモポテト、おいしくないね。

ジャガイモの新鮮さがないよね。もっと、ジャガイモって甘いよね。

小松菜も、今の小松菜は、冬からさめたつぼみを持った野菜だから、エネルギーの

かたまりみたいなのに。」

黙って聞いていたシオンは、いらいらしていった。

「なんで、そんなに文句言うんだよ。ここじゃ、こんなものしか食べられないんだよ。誰が、作ってくれるっていうんだ。

かあちゃんよ。キュウキュウショップってしってるかい。99円で何でも

あるんだよ。もちろん野菜も、食料もね。まさしく、都会の救急ショップだよ。

そこで、命をつないでんのさ。みんながね。」

まるで自分に対して言っているように、自嘲的にシオンはさらに続けた。

「文句ばっかり言ってないで、帰れよ。くそばばあ。

ここは、くそばばのいるところじゃねーよ。」

     ****

遠くから聞こえる、潮騒のような音は、それは、都会のうなり声だった。

静けさを取り戻した都会の夜に、かあちゃんは眠れない夜を眠ろうとした。

布団のない、コタツにもぐりこんで、一枚の毛布に、頭までもぐりこんだ。

昼間の労働はいつでも、かあちゃんに千金の値の眠りを運んできたが、

今夜は隣で眠るシオンのことが気になって、都会のうなり声も耳について眠れなかった。

気がつくと、窓のカーテンの外は明るくなっていた。


つづく